薄暗い森の中、黒い木々が不吉な影を落とす中、一人のVTuberが息を切らせながら走っていた。
名は鞠茉莉(まりまり)まる。
個人勢として活動している彼女は「バ美肉系VTuber」として知られている。
バ美肉——それはおじさんがバーチャル世界で美しい肉体を得てVTuber活動することを指す。
まるはおじさんであることを隠さず公言し、むしろそれを売りにして人気を得ていた。
だが、今、そのおじさんを自称する彼女は必死の形相で森を駆け抜けている。
「はぁ……はぁ……もう、おじさんなんだから走らせないで〜!」
まるは必死に叫ぶが、その声には悲壮感が滲んでいる。
足音が近づいてくる。後ろを見ると、黒い影が闇を裂くように追い迫っていた。
黒髪のツインテール、猫耳、そして手には死神の鎌を携えたその姿。
鬱猫シャムだった。
「あははははは! まちなよ、おじさん!」
シャムは楽しげに笑いながら、凶器を振りかざし、飛び跳ねるように前進してくる。
「なんで僕を追っかけてくるのさー!」
まるが必死に問いかけるが、シャムは冷ややかに告げる。
「この世界にVTuberはあたし以外いらないのよ!
さぁ、消えてもらおうか!」
死神の鎌「ザ・リッパー」を横に薙ぎ払うように振ると、その軌跡は闇を切り裂き、まるを避ける暇もなく襲いかかった。
刹那、鞠茉莉まるは悲鳴を上げる暇もなく斬られ、地面に倒れ込む。
その衝撃で変身が解けていく。
「さーて、どんなハゲ親父が出てくるのやら?」
ニヤニヤと笑うシャム。
しかし、そこに横たわるのは意外なことに、脂ぎったおじさんではなく、一人の少女だった。
「は? おじさんじゃないじゃん……」
シャムは不満そうに鼻を鳴らす。
思った獲物と違う、想定外の展開に苛立ちが滲む。
か弱く倒れた少女を見下ろしながら、シャムは舌打ちするような表情を浮かべていた。