目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

9-2 ひそめの場合

 浅層組というVTuberグループに所属する「息音(いきおと)ひそめ」は、鬱蒼とした木々が生い茂る森の片隅、苔むした岩影に身を潜めていた。


 異世界へ飛ばされてから、既に何日経ったか分からない。

 狭い隙間で膝を抱え、ひそめはため息をつく。


(やべー、まじで訳わかんない世界に飛ばされちゃったんだけど。

 だるすぎる……。)


 元々、人付き合いが得意ではない彼女は、この異世界で現地人に話しかけるなど夢のまた夢。

 しかもモンスターがうろついているため、いつ襲われるか分からない状況だ。


(幸運なことにスキル“潜伏”があってさ、VTuberの姿になってればなんとか隠れて生活できるんだよね。


 でも配信?やってられっか。

 スキル発動に配信ONが必要みたいだから仕方なく配信モードにはしてるけど、コメ欄なんか一切見てないし、構ってる暇ないっての……。)


 ひそめは顔をしかめ、葉をかじって飢えをしのぐような生活を続けていた。

 画面の向こうで見守るファンがいることなど、今の彼女には気に留める余裕もない。


―――――――――――――――――――――――

【ラブヘイト掲示板:息音ひそめスレ】


「ひそめ頑張れ、生き抜くんだ!」

「風呂キャン連続記録更新中か?もう何日風呂入ってない?」

「ガチ風呂キャンはじめて見たぜ」

「てか配信してるのにコメ欄見てねーの草」

「ひそめ、コメ欄開けろ!!!」

「潜伏スキルで野生生活ってリアリティすぎるだろwww」

「ご飯くらいちゃんと食べてほしい…」

「まじで無言配信、ゲーム実況者がサバイバルゲーやってるノリか?」

「お前ら、ひそめさん心折れないよう応援すっぞ!」


―――――――――――――――――――――――


 そんな書き込みがネットを飛び交い、ひそめを励ます声、揶揄する声、様々な反応が混在していた。


 だが、ひそめ本人は頭を抱えたまま、ただ生き残ることだけを考えている。

社会不適合者が多いと言われるVTuberは異世界でやっていけるのだろうか……



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?