浅層組というVTuberグループに所属する「息音(いきおと)ひそめ」は、鬱蒼とした木々が生い茂る森の片隅、苔むした岩影に身を潜めていた。
異世界へ飛ばされてから、既に何日経ったか分からない。
狭い隙間で膝を抱え、ひそめはため息をつく。
(やべー、まじで訳わかんない世界に飛ばされちゃったんだけど。
だるすぎる……。)
元々、人付き合いが得意ではない彼女は、この異世界で現地人に話しかけるなど夢のまた夢。
しかもモンスターがうろついているため、いつ襲われるか分からない状況だ。
(幸運なことにスキル“潜伏”があってさ、VTuberの姿になってればなんとか隠れて生活できるんだよね。
でも配信?やってられっか。
スキル発動に配信ONが必要みたいだから仕方なく配信モードにはしてるけど、コメ欄なんか一切見てないし、構ってる暇ないっての……。)
ひそめは顔をしかめ、葉をかじって飢えをしのぐような生活を続けていた。
画面の向こうで見守るファンがいることなど、今の彼女には気に留める余裕もない。
―――――――――――――――――――――――
【ラブヘイト掲示板:息音ひそめスレ】
「ひそめ頑張れ、生き抜くんだ!」
「風呂キャン連続記録更新中か?もう何日風呂入ってない?」
「ガチ風呂キャンはじめて見たぜ」
「てか配信してるのにコメ欄見てねーの草」
「ひそめ、コメ欄開けろ!!!」
「潜伏スキルで野生生活ってリアリティすぎるだろwww」
「ご飯くらいちゃんと食べてほしい…」
「まじで無言配信、ゲーム実況者がサバイバルゲーやってるノリか?」
「お前ら、ひそめさん心折れないよう応援すっぞ!」
―――――――――――――――――――――――
そんな書き込みがネットを飛び交い、ひそめを励ます声、揶揄する声、様々な反応が混在していた。
だが、ひそめ本人は頭を抱えたまま、ただ生き残ることだけを考えている。
社会不適合者が多いと言われるVTuberは異世界でやっていけるのだろうか……