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9-4 天照ニニギ

 天照(てんしょう)ニニギが異世界に現れたのは、今から一週間ほど前だった。


 黄金の髪に猫耳、そして頭上に浮かぶ天輪がその神秘的な存在感を際立たせる。


 かつて「ネコノミコト」と呼ばれた伝説的VTuberが転生した存在ではないかと囁かれているが、真相は定かではない。


 天照ニニギが降り立ったのは、女神インフルエンシディアを信仰するインフルエンス教国。


 今まさにその国は魔王軍の侵攻を受け、壊滅的な打撃を被っていた。

 次々に土地を奪われ、民は逃げ惑い、教国の聖騎士たちも追い詰められていた時——


 突如として現れたニニギは、一瞬でその存在感を主張した。

 同接10万を超えるパワーが彼女を支え、眩い光に包まれて戦場へと降り立つ。


「スキル:天照魔鏡ビッグバン・レイ——発動。」


 ニニギが虚空に掲げた手から巨大な光の奔流が生まれ、空中に浮かぶ夥しい数の鏡に反射する。


極限まで細く、鋭くなった光線はモンスターの急所を確実に撃ち抜いていく。


数秒のうちに、1万を超える魔王軍モンスターの群れは一掃されるのだった。


 絶望の淵にあったインフルエンス教国は、一夜にして凶悪な侵略軍を撃退することに成功する。


 その鮮烈な活躍は、女神インフルエンシディアの再臨かと噂され、人々はニニギを崇め奉った。


 国を救ったVTuberとして、インフルエンシディアの神殿へと迎えられた彼女は、まるで教国の救世主のように扱われる。


 しかしニニギは、勝ち誇るそぶりを見せず、むしろ疲れ切った民や、戦いに向いていないVTuberの保護に力を注いだ。


 異世界に転移してしまい途方に暮れているVTuberを次々に探し出し、教国の主教教会へ集めて、安全と支援を与えようとする。


「私はVTuberである前に、同じ世界を生きる者として、困っている人を見捨てたくない。

 もし疲れ果ててしまった人がいるなら、ここで休んでください。」


 ニニギの穏やかな声と、その圧倒的な力で救われた記憶が、VTuberたちや教国の民に安堵をもたらす。


 魔王軍の脅威はまだ完全には消えていないが、VTuberとしての力と女神インフルエンシディアへの信仰の融合が、一筋の光明を示していた。


 こうして天照ニニギは、インフルエンス教国に一時滞在しながら、自身の配信を続けつつも、傷ついたVTuberのための避難所を作り上げていた。


 女神の再臨とも称えられる力を振るい、誰かを支える姿は、多くの人の心を動かし始めていたのである。




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