【タイトル】
「最果ての孤島」――世界地図の端に描かれた、大海原に囲まれた謎の地。
その島の外壁は、高い岩盤が幾重にも重なり、まるで来訪者を拒むかのように聳えていた。
旅行系VTuber、危野(あぶの)ソラは、その凶悪な地形をものともせず、<無許可ツーリズム>のスキルで侵入を果たす。
カメラをしっかりと構えて、観光レポートの“素材”を集める様子はどこか楽しげだ。
「はー、やばやば……ちょっとしたクライミングになっちゃったよ。
でも、あたしはこの程度じゃへこたれないもんね!」
ソラが軽口を叩く一方、もう一人のVTuber、息音(いきおと)ひそめは、ギリースーツに身を包み、険しい顔をしていた。
彼女は人付き合いは不得手だが潜伏スキルは一級品。そんな理由から、ニニギが提案した“斥候チーム”に加えられてしまったのだ。
「……なんであたしまで来なきゃいけないの……」
小声で愚痴りながらも、二人は島の中心部へと足を進める。
岩壁を越えると、鬱蒼とした森と荒地が広がっていた。
その先には、暗雲を引き連れるように屹立する巨大な城があり、邪悪なオーラを放っている。
「うわ、あれが魔王城かな。
パシャパシャッ……よし、写真撮りまくり!」
ソラは嬉々としてシャッターを切り、記録を残そうとしている。
一方、ひそめは森の陰に身を潜めつつ、嫌そうに眉を寄せる。
「もう確認したし、帰らない? ここ絶対ヤバいって……」
「だーめ、まだ戦力を把握してないでしょ? ナマの情報が大事なんだから!」
仕方なく二人はさらに城の近くへと進む。
黒く染まった外壁の門は、重苦しい雰囲気を漂わせているものの、驚くほど静まり返っていた。
「……誰もいないわね。
罠かもしれないけど、このまま引き返すのももったいないし……行くよ、ひそめちゃん!」
「はあ……分かったよ。潜伏スキル、いつでも使えるようにしとく……」
城内に足を踏み入れると、まるで時間が凍ったように静寂が支配している。
焦げたような匂いや、崩れかけの壁はあるものの、見張りらしき存在は見当たらない。
「ほんとに罠くさいね……。でも、行くしかないか。
謁見の間っぽい場所があっちにあるから、覗いてみよう。」
注意深く廊下を進み、重厚な扉をそっと開ける二人。
そこには、荒れた玉座の間が広がっていた。
「……玉座?」
いかにも王の威厳を示すかのような椅子が鎮座している。
しかし、その玉座に腰掛ける人物を見て、ひそめは目を丸くする。
「は? おっさんやん……」