巨大な飛行船が、薄暗い空を切り裂くように魔王城の目前へ降り立った。
甲板の扉が開き、次々とVTuberたちが地上へと降り立つ。
その中には、燃えるような決意をたたえた猫神ルナの姿もあった。
「みにゃさん! 私の配信を見てくださってありがとうございますにゃ。
もちろん、他のみんなの配信もよろしくお願いしますにゃ!」
カメラに向かって声を張り上げるルナ。
画面には彼女の登録者数が「100万人」を突破し、同時接続数(同接)も5万を超えている旨が示されている。
「わー、ついに100万かぁ。おめでとう、ルナちゃん!」
近くにいたVTuberたちが称賛の言葉をかけ、他のVTuberも拍手で祝福する。
だが、そんな和やかな空気も束の間。
天照ニニギが厳しい表情で声を張り上げた。
「斥候の報告によれば、敵兵はいないはず。
よし、みんな、城へ突入するわよ!」
全員が頷き、魔王城正面へ進軍しようとしたその瞬間、城壁全体が震えるような威圧感に包まれる。
「――承認欲求の奴隷どもよ……よく来たな。」
耳を劈くような、底知れぬ力を孕んだ声が響く。
「だが、自らの承認要求に焼かれて死ぬが良い!」
続いて、まるで歪んだ悪意を反映するかのように、城の前に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「な、何……!?」
ルナが目を見張ると、ゴブリン、オーク、ウルフなど、無数のモンスターが魔法陣から湧き出すように出現する。
その数は万の単位に及ぶかと思われた。
「嘘でしょ……あれだけの魔物軍がいるなんて!」
息を呑むVTuberたち。
さらに、見覚えのある姿が人影として浮かび上がる。
「四天王――倒したはずの連中が……復活してる!?」
鬱猫シャムを苦しめたマリシャスヘイター、ドワーフの里を荒らしたインプゾンビーズ、エンジョルノ、ミヴァレオン、かつて屠ったはずの四天王が、それぞれのモンスター群を指揮し始めた。
「罠……ですにゃ……!」
ルナは思わず言葉を失うが、ニニギが苛立たしげに笑う。
「やっぱり、あの男……そう簡単には姿を見せないわね。
VSingerの皆さん、歌声スキルで私たちにバフをかけて!
――行くわよ、みんな!」
VSingerたちが一斉に歌を奏でると、美しい旋律が飛行船や城の周囲に鳴り渡る。
VTuberたちはその歌声に呼応し、各自のスキルを起動、視聴者数による強化を高めていく。
こうして、魔王軍と異世界系VTuber連合との大戦が幕を開ける。
暗い空を舞台に、声援と怒号が交錯する中、ルナは拳を握りしめた。
「絶対に……負けませんにゃ!」
弾けるような闘志が、彼女の瞳を照らし出す。
現実世界と繋がった配信画面から、視聴者たちの熱狂がさらに力を与えてくれるはずだった。