転校してきた
「誠くん……元気にしているかな」
まだ小学生の綾菜には恋愛のことはよくわからない。それでも誠に会いたいという気持ちはあった。
「夢の中で誠くんは『誠様』になっていて、あたしは『綾』になっているということは……夢の中では付き合っているから……」
昼休みの教室でそんなことを考えてしまい、綾菜は顔が熱くなってきた。
「へぇ……その誠くんがそんなに気になる?」
渉がいつの間にか隣に来ていた。
「えっ……あ……えーと……」
「嫉妬しちゃうな、綾ちゃんには僕がいるのに」
さらっと言う渉に対してまた緊張してくる綾菜であった。
「あたしは……誠くんとはまた会えるって思う」
「どうして?」
「どうしてってそれは……」
「誠くんのことなんて……僕が忘れさせてあげるからさ、綾ちゃん」
この渉の言い方が夢の中の「渉様」の言葉と被る。
『奴のことなど……我が忘れさせて見せよう、愛する綾よ』
綾菜は「渉様」に迫られていたことを思い出し、混乱しそうになったが落ち着いて言う。
「だめだよ渉くん……人の心は、誰のものでもない。あたしは誠くんを絶対に忘れないんだから」
「そういう所もまた魅力的だよ、綾ちゃん」
渉が去っていく。綾菜はフゥとため息をついた。
「あたしは渉くんに好かれているのかな……別にただの友達ぐらいならいいんだけど」
「綾菜ちゃーん!」と女友達たちがやって来る。
「ねぇ綾菜ちゃんって渉くんと仲良いよね? 付き合ってるの?」
「え? 何もないよ」と綾菜が答える。
「本当? 良かったー! 私気になるんだよねー」
「私もー!」「王子様って感じー♡」
相変わらず渉はモテモテであった。
※※※
その日、綾菜が目覚めたのは誠の城。すぐ隣には誠がいた。
「お目覚めかな? 愛おしい綾よ」
「ま……誠様……」
彼と一緒に寝たことを思い出し、恥ずかしそうに頬を赤らめる綾菜であった。
貴方が目の前にいることがこんなにも幸せだなんて……どうかこのまま時が止まって、
「綾……」
誠にぎゅっと抱き寄せられる綾菜。
「誠様……どうかされたのですか」
「ただこうしていたいだけだ、綾」
「嬉しい……私も同じことを考えておりました」
そう……この温かな感じ……ずっと貴方の腕の中にいたいと思えるような心地良さ。好きです……誠様……
「綾……そなたに話があるのだ」
「何でしょうか」
「そなたがとらわれている間、我と姻戚関係を結ぼうとする者が現れた」
「え……」
「姻戚関係を持つことで互いの領地には侵入しない、何かあれば協力し合うということになる」
「……」
「もちろん、断った」
「誠様……それでは相手に侵略されてしまうのでは?」
「ああ、それでこれから
「そんな……私のせいで……」
「綾のせいではない……我は自分に嘘をつくことはしたくないのだ。愛する者でないのに姻戚関係など不可能だ」
綾菜は複雑な思いだった。自分と誠がこういった関係にならなければ姻戚関係を結び、
「ただ……我はこの先も正室は持たぬ。正室となるには相応の身分が必要だが、そのような会ったこともない者など、到底受け入れられぬ」
「誠様……」
「もし綾が……正室や側室になれば我以外の人の目にさらすことになる。苦労も絶えないであろう。そなたを我以外の誰にも見せたくないのだ。綾……このような我でも許してくれるか?」
この時代の正室や側室の決まりに縛られるのは綾菜も望んではいなかった。きっと今みたいに自由に誠と会えない可能性だってある。形にとらわれない恋愛は許されるのだろうか。だが、誠自身がこういった恋愛関係を強く望んでいるのであれば答えは一つである。
「誠様……私は正室や側室といったものでなくても……貴方のそばにいることが叶うなら、それ以上は望みません」
「綾……綾……!」
再び強く抱き締められ、綾菜は涙を流す。
人の心は誰のものでもない……自分が思うままに愛したい、この人を。
綾菜が言う。
「その……姻戚関係を断った相手との
「綾……だが……」
「お願いします! 貴方から離れたくないのです! 今度は捕まらぬよう細心の注意を払います」
「分かった」
そして綾菜は忍びの格好をして馬に乗り、誠や兵士の後を追った。誠から弓矢も預かっている。
川の近くの荒地に到着して
「ゆけ! 包囲せよ!」
誠の合図で一斉に兵士達が相手軍に向かった。
誠様……貴方はやはりお強いお方。そしてどの
早々に相手方が撤退したため、誠の軍は城へ戻ることとなった。到着して部屋で綾菜が待っていると誠が来てくれた。
「綾……良かった……無事で」
「誠様も……ご立派でした」
「これでしばらくは……何もないことを願うのみだ。綾……そなたと共に生きたい」
「誠様……私もです」
2人は今日も一夜を共に過ごし、甘い時間を過ごしていた。この幸せがずっと続いてほしい、そう願いながら。
※※※
「誠……さまぁ……」
「綾菜ー! 起きなさーい!」
誠様といいムードであったのに母親に起こされてしまった。
「はぁ……誠くんも同じ夢、見ているのかな。きっとまた会えるよね」
そう言いながら綾菜はベッドからおりて学校へ行く支度をしていた。
同じ頃、誠も母親に起こされて学校に行く準備をする。
「綾菜ちゃんも同じ夢を見ているのかな……」
いつかまた綾菜に会えると信じながら、誠は新しい学校での生活を送っていた。