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第3話 クリスマスカードをあなたに

 クリスマス当日の朝、健人が目覚めるとベッドの枕元にリボンのついた箱が置いてあった。箱の中身は欲しかったブランドの財布。


 そうだ、これが欲しいってあお兄に言ってたんだった。今年もあお兄サンタからプレゼントがもらえるなんて……!


「あお兄、おはよう! プレゼントありがとう、サンタさん♡」

 健人はパジャマ姿のまま碧人に抱きつく。

「ケン、気に入ってくれて嬉しいよ」

「俺からもプレゼントあるんだ♪ はい!」

 健人からのプレゼントはブランド物の青いチェックのマフラーだった。

「おお、気に入ったよ。今日早速つけていこうかな。ありがとう、ケン」


 今年のクリスマスの「セプタンブル」では、何を注文しても先着順で兄弟からのミニメッセージカードがついてくるといったイベントが開催される。

 毎年クリスマスなどの行事には兄弟からの特別メニューの提供やお菓子のサービスがあるが、今回はメッセージカードをつけることにした。

 碧人、健人のどちらかのクリスマスの直筆メッセージということで、どうしても欲しい女性達はオープン前から長蛇の列を作る。


「うわぁ、これまでで一番並んでない?」と健人。

「先着順だからな。メニューじゃなくてカードにしただけでこんなに並ぶんだ」と碧人。

「まぁ今年はいいメニューが思いつかなかったからカードにしたんだけどね。カフェっていうのかな、こんなサービス」

「それだけ僕達の人気が出たってことさ。時にはその人気を利用しないとな。健人」

「フフ……兄貴、さすが」


「いらっしゃいませー!」

 朝なのでクリスマスブレンドのコーヒーをテイクアウトして、カードをゲットする。そして出勤していく女性が多い。


 カードの中身は……

「ハッピークリスマス! 今日が君にとって最高の日になりますように! 健人」

「クリスマスに来てくれて嬉しいよ。今日は素敵な一日を過ごしてください。 碧人」


 これら2種類のどちらかとなる。両方欲しくて2回並ぼうとする客もいるが、お一人様一回限りと言われており、また2回目に並んだところで残っているかはわからない。そのぐらい彼らは人気である。


「碧人くんのカードよ! そっちは?」

「健人くんだわ! じゃあ一緒に撮影しましょ!」

 テーブルに2人分のカードを並べてカメラで撮影している女性もいる。これがSNSに投稿されたら閲覧数も上がって宣伝効果は抜群だ。


「お待たせいたしました! クリスマスを楽しんでね!」と健人にスイーツを持って来てもらって喜ぶ客。

「いつもありがとうございます、ごゆっくりお過ごしください。素敵なクリスマスを」と碧人に優しい声で言われて、幸せを感じる客。

 お客様みんなに最高のクリスマスを過ごしてもらおうと、兄弟は張り切っていた。



 そしてあっという間に閉店の時間が近づいてきた。

「いい感じだな、今年もたくさんの人が来てくれたね、健人」

「うん、お疲れ様。兄貴」

「あれ? あの子は……」

 碧人が外を歩いている大学生に気づく。幸成だ。彼がカフェに入ってきた。

「あの……こんばんは。昨日はありがとうございました」

「いらっしゃい。今日は元気そうだね」と健人。

「おかげさまでもう大丈夫です。クリスマスブレンド、お願いします」

「かしこまりました! 兄貴、クリスマスブレンド1つ」


 碧人はクリスマスブレンドを準備しながら余っていたカードに幸成へのメッセージを書いた。そしてコーヒーを幸成のテーブルに運んで、幸成の耳元でこっそり囁く。

「ゆきくん。僕からのサービス、受け取って」

 テーブルの下でこっそり幸成にカードを渡した。

「あ、ありがとうございます……」


 それを見た健人。


 あお兄? ゆきくんと距離が近い?

 何言ってたんだ……?



 ※※※



 幸成は店を出て先ほど碧人からもらったカードを見る。

「ゆきくん、今日も来てくれるなんて嬉しい。元気そうでほっとしたよ。また君に会いたいな……素敵なクリスマスを。碧人」

そのカードを見た幸成は頬を染めていた。

「碧人さん……僕もまた会いたいです」



 カフェを閉店し、家に帰っていく兄弟。

「兄貴、そのマフラー似合ってる」

「ありがとう、健人はセンスがいいからな。財布はどうだった?」

「かっこよくて気に入ってるよ」


 部屋に入った2人。

「あお兄! クリスマスチキン食べよ♪ ケーキもあるよ」

「そうだな、ケン」

 こうやって2人だけでクリスマスを過ごすのは何回目だろうか。楽しい時も辛い時もずっと一緒だった。クリスマスは特に2人が好きな行事である。カフェも人がたくさん入るし何といっても……クリスマスのムードが愛し合う2人を盛り上げてくれる。


「あのさぁ、あお兄……」

「ん?」

「さっき、ゆきくんに何話してたの?」

「ああ……メリークリスマスって」

「それにしては……距離、近くなかった?」

「フフ……じゃあケンはもっと僕に近づいて欲しいの?」

「え……もうあお兄ったら……俺の質問に答えてよ」


「ゆきくんが元気になったか心配でね。ちょっと様子を見たかっただけ」

「本当? あお兄……」

「本当さ、ケン……」

 碧人にキスをされると、健人はこれ以上は何も言えなくなる。

「俺のあお兄……誰にも渡さないもん……」

「可愛いな……ケンは」


 そう言いながらも碧人は幸成のことを思い浮かべていた。これまで多くの人がカフェに来た。もちろん、みんなまた来てほしいと思いながら接客を頑張った。

 だけどゆきくんは……僕にとっては本当に心の底からまた会いたいと思える人。あの黒い瞳をずっと見ていたくなる……そしてあの白い肌に触れたい……

 客に手出しするなんて、プロのすることではないが……カフェでそういった出会いもあって良いと思わないか……?


「あお兄、そろそろ寝よ?」

 健人が碧人の手を引いてベッドに向かう。

「おやすみなさい、あお兄……大好き……」

そう言って抱きついている健人の髪を撫でながら、今頃ゆきくんはどうしているのかな、と考えてしまう碧人であった。

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