クリスマスも終わったある日、碧人が開店前に健人に話をする。
「健人、今日から彼にアルバイトに入ってもらおうと思って」
そこには幸成の姿が。
「えっ……どういうことだよ? 兄貴!」
「僕達、休みは不定期だ。最近このカフェも連日満員。今のままじゃ健人の体調が心配だ」
「兄貴……」
「そういう僕も、あまり無理していられないからね。基本は3人で店に立って、ゆきくんはシフト制、健人と僕は週1回は休みを取ることにしないか?」
「確かにそうだな。そういう日があってもいいかも」と健人が言う。
「碧人さん、健人さん……僕頑張りますので」と幸成も言う。
「ありがとう、ゆきくん……」
実は碧人が幸成に渡したメッセージカードには碧人のスマホの番号が書いてあった。幸成が電話してみると、碧人は嬉しそうに話した。
「人手が欲しくてね。ゆきくんは……うちでのアルバイトに興味ある?」と幸成を誘ったのだった。
「ちょうど探していたんです! あんなお洒落なカフェに……いいんですか?」
「もちろんだよ。それに……もっと君と過ごしたくなってきた」
「碧人さん……僕も……碧人さんと一緒に働けるなら……」
幸成は注文を取ったり料理を運んだりして、せっせと働いていた。兄弟カフェなのに自分が入って大丈夫か? と思ったが、初々しくて可愛いといった声も多く評判は悪くない。
また、以前から兄弟の身体を心配する声も多かったので、幸成は割と早く客達に受け入れられた。
※※※
健人が休憩に入っている間に碧人は幸成と距離を縮めようと、話をするようになった。
「ゆきくんがいてくれると助かるよ」
「そんな……僕でよろしければ。碧人さんのお役に立てるなら……」
幸成にとって碧人はクリスマスイブに失恋で傷ついた自分の心を癒してくれた人。そして……初めてここで飲んだ碧人特製のほうじ茶ラテが美味しくて、そして優しく声をかけてくれて……その時から碧人に憧れを持つようになった。
でも僕は……もうからかわれたくない。好きだった先輩は男性だった。僕は本気だったのに……同性が好きなことを気持ち悪いとまで言われてしまった。だから碧人さんも引いてしまうかも。この想いは秘めたままにしておきたい。
「ゆきくん? どうかしたかい?」
「いえ……碧人さん、注文取りに行ってきます」
そして今度は碧人が休憩に入った時に、健人は隙を見て幸成に話しかける。
「ゆきくん、本当に助かる!」
兄弟揃って同じようなことを言っている。
「そんな……そう言ってもらえて嬉しいです」
嬉しそうな顔をする幸成。
健人はその時初めて幸成を真正面かつ、近くで見た。純粋そうな子……もう少し仲良くなりたいと思ってしまう。そう、幸成に少しずつ惹かれていく自分に気づいたのだった。
あお兄の言った通り……何だか気になる子なんだよな……
「健人さん? 大丈夫ですか?」
「あ、ごめん。君って不思議だね。ずっと見ていられる……そんな魅力を持っている。あ、兄貴も魅力的なんだけどね」
「魅力を持っているだなんて……健人さんも笑った顔がいいなって思います……」
少し照れながら幸成が言うと、健人も同じように照れていた。
「えへへ……ありがとう。さて! 注文取りに行ってもらっていい?」
「はい!」
※※※
そして年末が近づいたある日、健人は休みを取ることになった。
「久しぶりに1人で過ごすのか。あお兄……寂しいかも」
「そういう日もあっていいよ思うよ、今日はゆっくり過ごして」
「行ってらっしゃい、あお兄」
この日は碧人と幸成の2人でカフェを営業した。年末も近いため比較的店内は落ち着いている。
「ゆきくん、一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
「えっ……僕が?」
ほんの数人だが幸成にもファンができた。
僕みたいな人と写真撮りたい、だなんて……碧人さんや健人さんに比べたらまだまだひよっこなのに。
それでもアルバイト自体は充実していた。お客さんの笑顔を見ると自分も笑顔になれる。このカフェでは……ほっと一息ついてもらいたい。前に僕が碧人さんに助けられたように。
閉店時間となり碧人と幸成は片付けに入る。
「ゆきくん……お疲れ様」
碧人が幸成に近づいてきたので幸成は胸の奥がトクンとなる。幸成をじっと見つめる碧人の目元には色気がある。
「碧人さん、どうかされましたか?」
「今日のゆきくん、笑顔がとても良かった」
「そ……そうですか」
「ねぇ……もっと僕のこと見て?」
「えっ……」
幸成の大きな黒目が碧人を見つめる。
碧人さん、そんなに見られると……恥ずかしい。
そう思った幸成は緊張しながら碧人に話す。
「碧人さん……僕は碧人さんが思うような人じゃないです」
「ゆきくん?」
「僕は昔から同性の人が好きで……それで周りからおかしい目で見られて……なかなか恋人もできなかった。この前だって……先輩にフラれた。ただ弄ばれただけだった」
「ゆきくん……辛かったね」
「だから僕は……もう誰のことも好きになっちゃいけない。ただ迷惑なだけなんだ……ごめんなさい。このカフェは女性達に人気があるから、こんな僕が店にいたら気持ち悪いかも……」
「そんなことないよ、自分の気持ちに蓋をしちゃいけない……同性が好きな人もいるよ? それにお客さんはゆきくんの丁寧な接客に満足していた。君が幸せそうにしていればそれがお客さんにも伝わっていくんだ」
碧人が幸成を強く抱き寄せた。
「あ……あおと……さん?」
「僕にできるのであれば……君をもっと笑顔にしたい。フフ……困ったな。どうしても君のことが忘れられない……」
「僕も……あの時碧人さんに助けていただいてから……気になっていました。すみません」
「どうして謝るの? それでいいんだよ? 少なくとも僕は……君の味方だから」
「碧人さん……」
「ゆきくん……」
閉店後のカフェで熱い抱擁を交わす2人。
そう、ずっとゆきくんと2人きりになりたかった……だから、健人には悪いけど休んでもらった。健人も好きだが今は……ゆきくんの側にいたい。
「ねぇゆきくん……」
そう言いながら碧人は幸成に優しくキスをした。幸成は一気に鼓動が速くなるのを感じる。
だめだ……碧人さんのことが本当に好きになっちゃう……でも……もう少しだけこうしていたい。
「碧人さん……」
寒い年末であったが2人はお互いの体温を感じて、ほっとするような甘い時間を過ごしていた。