私の夢か――……考えたこともなかったな。 というより……
「空気壊しちゃうかもしれないけど、いい?たぶん絞り出しても今は出てこなくて、思うままにしゃべるだけになっちゃう」
「え、予想すらさせてくれないの?」
咲の無邪気な疑問に、私は困ってしまった。 本当に、夢なんてなかった。大きな夢はもちろん、小さなことさえも。
「……みんなと仲良くいれれば、いいかなー……くらい」
「ははは、なにそれ」
「真城くん、笑わないでよ。……説明が難しいんだけど、少し話が
「話、逸れすぎー!」
咲は思わずツッコミを入れた。 私も、それは正論だと思う。自分でも、何を言っているのかわからなかった。
「……そうだよね、真っ白だもんね」
真城くんは、困ったように笑って、私に同情してくれていた。 そんな顔を見るのは、初めてだった。
「はっはっは、優凛に同情させるって、逆に見たことないかもなー。--はっはっは!」
「そんなに笑わなくてもいいじゃん」
「ごめんごめん。でも、霧音の言いたいことも、ちょっとだけ分かるよ」
「あたしも思わずツッコミ入れちゃったけどさ、霧音の言ってること、笑えないんだよね。 あたしも、叶わない夢っていうか……こんなに雪が降ってなければなーって、思うもん」
咲の言葉に、周りのみんなも頷いた。 その様子を見て、私は思わず咲にたずねる。
「咲の夢って……?」
私たちはまだ高校2年生。 だからなのか、これまで将来の夢について、ちゃんと話したことがなかった。
「……太陽の下で野菜とか果物を作ること。……でも、日本じゃ叶わないけどね」
「そ、そうなんだ」
誰も、咲の夢を笑わなかった。 少し、静かな沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、天海くんだった。
「ものすごーーく、わかります! 僕の夢は、日本の海でダイビングを仕事にすることなんです!」
その言葉に、咲は目を輝かせ、天海くんに近づいた。
「ダイビング!? それって、海に潜るやつだよね! あたしも一回やってみたーい!」
「ふっふっふ、牧原さん……僕は一度、海外でダイビングしたことがあります!」
咲は驚きながら、天海くんとの話に夢中になっていく。 二人の盛り上がる声を聞きながら、私たちは目的地へと歩みを進めた。
その2人の盛り上がりに、いつの間にか短冊予想大会は終わっていた。
そして少し大きめの公園付近に小学生ぐらいの子たちと、その親御さんと思われる大人たちが集まる一区画が目に入る。小さな七夕イベントがそこでは行われていた
私はその光景を見て提案した。
「私がいうのも変なんだけど……まだ短冊に書くこと決まってない人は夢を書かない?……叶わないと分かっている夢とかでもいいからさ」
「書くぐらいは好きにしてもいいよな! 」
響が同調し、周りも頷いている。
私たちはその公園の入り口近くに重ねられていた短冊の束から1人1枚ずつ取っていく。
「予想大会はいつの間にか終わってましたが、発表しあいませんか? 」
『オッケー!』『りょーかい』
そして各々の夢発表が始まった。
「あたしがこの“輸入竹”に飾る夢はーー」
咲の相変わらずの“輸入”発言に誰も反応しなかった。
「トマトとスイカを作ることです!……他にも作りたいけど代表として」
咲の短冊には
『お〜〜』
この雪ばかりの日本では不可能な夢を堂々と宣言する咲に関心していた……いや、この時私たちは“夢”を咲からもらったのかもしれない。寒い気温の中、少なくとも私は熱くなった気がした。
「次は真城くん!咲からのバトンを受け取ってもらいます! 」
「え、僕?……んー保育士かな」
--ズコーーーー!!
響と天貝くんが大袈裟に地面を滑った。
「おい!そこは、なんというか日差しを感じれるからこその何かを述べていく流れだろ! 」
「そうですよ!牧原さんがいい感じのバトンを渡したんですから! 」
「え、あ、あ……ごめん、夢を書いていくっていうから」
真城くんは少し困った様子で爽やかな笑顔を見せた。私たち女子3人……いや男子も含め5人はそのイケメンすぎる無邪気・純粋な笑顔に照らされ、なんとも言えないフワフワした感じになった。
「僕の次は霧音ちゃんでいい? 」
「私!?ちょっと待って、まだ思いついてない。最後にさせて」
それを聞いた天貝くんはメガネをクイっと指であげ語る。
「では僕にしましょう、夢は日本の海でダイビングを仕事にし、新種の魚を見つけることとします!例え氷漬けの海だとしても! 」
…………
「天貝くん、それさっきも聞いたよ……」
「いや咲さん!!魚については言ってないですよ!そんな距離の感じる目で見つめないでください! 」
その2人の会話にみんなの口から思わず少し笑いが漏れる
「次は俺だな、夢はー……晴天の空で野外ライブをすること!フェスでも良し! 」
「響くん、フェスってなにが違うの? 」
「よくぞ聞いてくれた美亜!そりゃ、まぁ、単独か複数のチームか……みたいなのだと思う」
「響もあんまし分かってないじゃん」
思わず流れでツッコミを入れてしまう。その流れから響は私に振ってきた
「次は霧音だぞ〜〜」
「え、もう私?みーたんは? 」
「私は家を継ぐって伝えたし、男子たちも聞き耳立ててたでしょ? 」
男子たちは無言のまま
「じゃぁ……私の夢は……決まった! 」
回答を出し渋っていた私の回答にみんなの注目が集まる。
「私の夢はーー……日本に『夏』を取り戻すこと! 」
場が静まり返る。——あれ、私何か間違えた?
『ううぉおおおおおお!! 』
「まさか霧音がそんな夢を語るなんて!あたしは嬉しいよ! 」
「高田さん、そうですよね!夏ってのが日本にやってきたら、ダイビングも海外でやった時のように暖かい海でできます! 」
「ふふ……キーちゃんぽくない感じだけど、良いんじゃない? 」
「“夏”のライブってどんなだろ、室内の暑さとは違うのかな!? 」
「それが霧音ちゃんの夢なんだね」
「そ、そんな大袈裟に騒がないでよ。ほら、周りの子どもたちも不思議そうに見てるから! 」
——その時、何かが落ちる音がした。
--キーーン…………
「ん?今の音は? 」……周りを見渡すもあるのは踏み締められた雪とそうでない積もった雪。
『…………? 』
みんなは首を
「キーちゃん何か聞こえたの? 」
「うん、教室で鍵が落ちたみたいな音」