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第2章 – 名前の重み


「失礼、クズ。」


その突き飛ばしは無駄がなく、だが確かだった。アレックスはほとんど動かなかった。


後ろに流した濃紺の髪、白い制服に金色の装飾、そして背中でなびく短いマントを身にまとった少年が、自信満々に前へと進み出た。彼の右手には、青白い光を放つピラミッドが輝いていた。


「彼は…キサラギ・レイジよ」と観客席の女子生徒が囁く。


「キサラギ家の出身…直系の後継者じゃない?」


「そうよ。彼の祖父は北方戦争で初めてカテゴリー3のシンジュウを倒した伝説の魔導士。」


「しかも、彼のピラミッドはその時の魔獣の残骸から作られたって噂…」


レイジは傲慢な仕草で手を挙げ、レンカイ教官を見据えた。


「試験、一番目を希望する。」


レンカイは無表情でうなずいた。


「許可する。」


レイジは顔を少しだけアレックスの方に向け、声が彼にだけ届くようにつぶやいた。


「貴様が次だ、核もない平民よ。ここにいるのがシステムのミスか、ただの冗談か…すぐにわかるだろう。」


アレックスは肩をすくめただけだった。


「よく知ってるね。まぁ…気が済むなら、それでいいよ。」


レイジは試験場の中央へと歩き出した。地面には召喚の陣が輝いている。彼の手のピラミッドが宙に浮き、ゆっくりと回転を始めた。そして、雷鳴のような声で命令を叫ぶ。


「目覚めろ、雷煌丸(ライコウマル)!」


雷光のサークルが地面に炸裂し、そこから鋼鉄の巨狼が現れる。全身が金属の装甲で覆われ、目は灼熱のように光り、牙からは電流がほとばしっていた。


森の奥から、シンジュウが現れた。骨に響くような虚ろな声で叫びながら進むそれは、霧と結晶でできた歪な怪物で、動きは予測不能だった。


レイジは口元に笑みを浮かべる。


「このクズが、ピラミッドの価値があるか見せてもらおうか。」


戦いは予想以上に激しかった。


雷煌丸が突進し、雷をまとって空気と大地を裂く。しかし、シンジュウは怯まなかった。液状の影のように動き、異常な敏捷さで攻撃を避け、酸性の霧を浴びせて召喚獣の装甲を溶かしていく。


レイジは歯を食いしばり、二歩後退した。


「うるさい!さっさと死ねッ!」


叫びと共にピラミッドのセカンダリコアを起動。雷煌丸が強烈な電撃を放ち、シンジュウの胸部に直撃。大地が震えた。怪物は悲鳴を上げ…煙と結晶の破片になって砕け散った。


沈黙が降りる。数人の生徒が拍手した。


「さすがキサラギ家の後継者。」


「やはり、エリートは違うな…」


レイジはマントを翻しながら振り返る。喝采を味わおうとしたその目が、アレックスを探す。


期待していたのは尊敬。嫉妬。恐れ。


だが、彼の目に映ったのは――芝生に膝をつき、地面をじっと見つめているアレックスの姿だった。


「…なんだと?」


三色の髪を持つ少年は、近くを這っていた小さなトカゲに完全に心を奪われていた。そのトカゲが好奇心いっぱいに顔を上げると、アレックスも首を傾ける。


「…踊ってる?」


トカゲがぎこちなく跳ね、尻尾をくるくると回す。


アレックスは微笑んだ。


「はは…かわいいな、こいつ。」


レイジの拳が震えた。


沈黙。緊張。静かな屈辱。


レイジは何も言わずに試験場を去った。拍手は次第に止み、その足音だけが怒りを響かせていた。


観覧席から、学園長が静かにそれを見つめていた。その表情は穏やかだが、目には楽しげで計算高い光が宿っていた。


「…やはりそうね。間違いない、彼だわ。」


教師の声が響き渡り、生徒たちのざわめきがぴたりと止まった。


「試験は個別に行われる。各自、シミュレーションフィールドの指定エリアに移動し、カテゴリー1のシンジュウと戦ってもらう。撃破に成功した者は、ピラミッドを保持したまま天龍魔導学園への正式な入学を許可される。失敗した場合は、教官が救助に向かうが…ピラミッドは没収、即帰宅だ。」


場に重たい沈黙が落ちる。


「えっ…厳しすぎじゃない…?」と誰かがつぶやき、ゴクリと喉を鳴らした。


「当たり前だろ。無能に魔導兵器なんか持たせるかよ…」と別の生徒が鼻で笑う。


アレックスは木にもたれて腕を組んだまま、他の生徒たちの顔を見ていた。興奮に震える者、自信に満ちた者、緊張で汗を流す者…。


そんな中、一人の少女が目に留まった。


彼女はゆっくりと自分の試験エリアへ向かっていた。制服は少し大きく、袖が手を覆いかけていた。茶色の髪はゆるく結ばれたツインテールで、震えるような大きな瞳は誰とも目を合わせようとしない。


「…うわ、魔法学園モノの典型キャラじゃん」とアレックスは心の中で呟く。


少女はエリアの入口で立ち止まり、ピラミッドを強く握りしめた。喉を鳴らして、唾を飲み込む。


「相当ビビってるな…」


アレックスはため息をつく。


「…可愛いじゃん。」


そして何事もなかったかのようにくる

りと背を向け、ポケットに手を突っ込んだまま自分の試験エリアへと向かって歩き出した。あまりの退屈さに、近くにベッドでもないかと探しているような表情だった。


「さて…お楽しみの時間だな」と、彼は木々の中へ消えながらつぶやいた。

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