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第3章 – 誇り、恐怖、そして怪物たち



大地が彼らの足元で変化した。訓練場の魔力によって、ポータルはそれぞれのシンジュウが潜む場所へとつながるリアルな環境へと変わっていった。ジャングル、雪原、沼地、古代遺跡――すべてが敵に合わせて精巧に再現されている。


学生たちは一人ずつ、割り当てられたポータルを通ってその場を去っていった。



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神崎ハルト。名門の魔術工芸士の家系に生まれた彼は、堂々とした態度で歩を進めた。制服は完璧に整えられており、首に下げたピラミッドは誇らしげに輝いていた。金属変成魔法を得意とし、黒鋼でできた光る文字の刻まれた槍を形成した。


彼の敵は、刃の脚を持つムカデ型のシンジュウ。緊張感のある戦いだったが、ハルトは一言も発することなく、正確かつ冷静に勝利を収めた。


「さすがは神崎家の後継者だな」と、教官の一人がタブレットに何かを書き込んだ。



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橘ミナ。没落した貴族の血を引く彼女は、戦場へと向かう足取りにわずかに震えを見せていた。以前、アレックスが目を止めた内気な少女だ。栗色のツインテールが揺れ、ラベンダー色のドレスと金色のロングブーツが印象的。彼女の視線は決して誰とも合わなかった。


彼女に与えられた敵は、液体の影でできたような四足の獣だった。ミナはなんとかピラミッドを起動し、小さな光の玉「導きのオーブ」を召喚した。当初は彼女の恐怖を映すかのように震えていたが、次第に安定して回り始めた。それらは彼女を囲み、光の盾となってシンジュウの攻撃を防いだ。


そして、思わず叫んだ。


「…やめてよっ! 来ないで!!」


光の玉が一斉に収縮し――爆発。純粋なエネルギーの波動が敵を飲み込み、影の獣は跡形もなく消えた。


ミナはその場に膝をつき、信じられないという表情で手を見つめていた。すぐに二人の教官が駆け寄る。


「面白いな…彼女はコアと非常に強い感情的な結びつきを持っているようだ。記録しておこう」



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村正ダイチ。自信家で陽気な彼は、誇張された動きで登場し、見えない観客に手を振った。


「かかってこいよ、シンジュウ! 主役はこの俺だ!」


ピラミッドから召喚されたのは、青い炎でできた巨大な剣。それをまるで舞台のパフォーマンスの一部かのように振るう。敵は金属の鱗に覆われたイノシシ型のクリーチャー。時間はかかったが、なんとか勝利を収めた。しかし彼自身も負傷していた。


それでも立ち上がり、満面の笑みで言った。


「――これにて、第一幕、完!」



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アレックスに割り当てられた森は静寂に包まれていた。


高い木々の隙間から陽光が差し込み、そよ風が葉を揺らす。その光景は、他の学生なら圧倒されそうな雰囲気を持っていたが、アレックスは手をポケットに入れ、無関心な様子で歩いていた。


「いい景色だな…戦いで台無しにするのが惜しいくらいだ」


目の前の茂みから、ゆっくりと一体のクリーチャーが現れる。黒い鱗と橙色の目を持つ、爬虫類型のシンジュウ。低く唸るその声が森に反響した。


アレックスは無表情のままため息をついた。ピラミッドに手を伸ばすこともなく、視線すら向けなかった。


「面白くない。でも、ここで一日中立ち止まるわけにもいかないしな」


その瞬間、彼の白・緑・赤が混ざった髪が淡く光を放ち始めた。まるで闘志ではなく、もっと深い何かに反応するかのように。赤いオーラが彼の体から立ち上がり、液体の炎のように揺れた。


周囲の木々が軋み、空気が重くなる。シンジュウは一歩後ずさりし、野生の本能で目の前の存在が「ただの人間」ではないことを察知した。


アレックスは一歩前へ進み、ただ一言。


「眠れ」


その瞬間、オーラが爆発的に高まり、目に見えぬエネルギーの波が森を駆け抜けた。シンジュウは一撃も受けぬまま、その場に崩れ落ち、気を失った。彼の周囲の地面は軽くひび割れていた。


彼はしゃがみ込む――倒れた敵を確認するためではない。葉の間で何かが光ったのを見たからだ。


「あぁ…また君か、踊るトカゲさん?」


不思議そうに観察する。小さなトカゲのような生物が、奇妙な動きで足を揺らしていた。


「…踊ってるのか? よしよし、もうちょっとで完成だな」



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「いまのは…霊的解放、しかもチャネル無しで?」教官がつぶやく。


「違うわ」と校長が鋭い笑みを浮かべる。「あれは本能。ピラミッドすら使っていない。あのオーラ…普通じゃない。まるでシンジュウ

が彼を“上位存在”として認識したみたいね」


モニターに目を細めながら立ち上がる。


「本当の問題は、他の誰かがその事実に気づくまで、あとどれくらいかかるか――ってことよ」


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