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第11章:勝利のキス



静かにスライドするドアの音が、アレックスとミサキ・タチバナの教室への帰還を告げた。二人は目を合わせることなく歩き、まるで同じ空気を吸っていることすら挑発のようだった。


ユメコは二人をちらりと見ただけで、まるで何事もなかったかのように授業を続けた。


「さて…ピラミッドは単なる魔法の遺物ではありません。これは太古のエネルギーを蓄える容器であり、この世界とは異なる魂の共鳴体なのです。

そして、皆さんが特定のピラミッドに選ばれたのは偶然ではなく、精神的な相性によるものです。」


浮遊する教室には緊張感と期待感が漂っていた。何人かの生徒はまだ注意深く話を聞いていたが、他の者たちはアレックスとミサキの言い争いについて小声で囁いていた。しかし大半は、ユメコ教官と、今や様々な色と形のピラミッドを映し出している魔法プロジェクターに視線を向けていた。


だが、ミサキは腕を組み、苛立った声で呟いた。


「こんな退屈な理論より…もう実戦した方がいいでしょ。」


アレックスは低く笑い始め、その笑いは次第に大きくなった。


「また君か?」とユメコは軽く振り返りつつも、ホログラムから目を離さずに言った。「今度は何がそんなに面白いの、アレックス君?」


「大したことじゃないよ」アレックスは肩をすくめながら答えた。「ただ、もう傲慢な生徒役は一人いるってことを、誰か教えてあげた方がいいかなって。」


「なにそれ!?」とミサキは目を輝かせながら振り向いた。


アレックスはゆっくりと立ち上がり、まるで昼寝から目覚めたかのように伸びをした。


「指一本動かさずに勝つ方法を見せてやるよ…いや、もしかしたら一本くらいは動かすかもね。」

そう言って、彼はミナの座る列へと歩き、彼女の後ろに立った。「君がミサキと戦うんだ。」


ミナ・タチバナは凍りついた。すでに青白かった顔が一気に赤く染まり、ゆっくりと大きな目でアレックスを見つめた。


「な、なに? 頭おかしいの!? 姉さんに勝てるわけないでしょ! 無理だよ!」


アレックスは不気味なほど落ち着いた笑みを浮かべた。


「もし勝ったら…キスしてやるよ。」


「えええっ!?!」ミナは立ち上がりそうな勢いで叫んだ。頬は真っ赤に染まり、教室のあちこちから笑いや驚きの声が上がった。


ミサキは教室の向こう側から嘲るように笑った。


「どうして妹があんたみたいなのと付き合ってるのか…理解不能だけど、どんな関係だろうと彼女が私に勝てるわけない。

これは面白くなりそうね。」


ミナは唇を噛み、視線をアレックスと姉の間で揺らした。目には恐怖が浮かんでいたが…その奥には、かすかな決意が顔を覗かせていた。


「…わかった。やる。

そのキス、欲しいから。」


教室中が騒然とした。


「なにぃぃぃぃ!?!」後ろの方の生徒が叫んだ。

「無口なあの子が戦うって!?」と誰かが囁いた。

「今日のビンゴにそれはなかった!」と別の生徒。


ユメコは初めてわずかに微笑みながら目を細めた。


「そこまで授業を邪魔する覚悟があるなら…私が審判を務めましょう。

さてアレックス君、これは一体どういうつもりかしらね…?」


彼女が指を鳴らすと、教室の机と椅子は煙のように消え、代わりに青く光る結界に包まれた浮遊魔法アリーナが出現した。


姉妹は向かい合って立った。ミナはごくりと唾を飲み込み、ミサキは余裕の笑みを浮かべ、すでに手を自分の浮遊ピラミッドへと伸ばしていた。


アレックスは観覧席に腰を下ろし、頬に手を当てながらじっと見つめていた。


「さあミナ。気を失うか、恥をかくだけの簡単な勝負さ。…ね、楽勝でしょ?」


ミナは眉をひそめてアレックスを睨んだが、次の瞬間、再び顔を赤らめ、小さく頷いた。


「…やってみせる。」


ユメコが片手を上げた。


「両者、ピラミッドを準備。模擬戦闘開始。目的:制御・主導権・決着。」


「こんなバカに負けるわけないでしょ」

ミサキの深紅のピラミッドが、荒々しいエネルギーを纏いながら

回転し始めた。


「そのキスが欲しいなら…負けられない」

ミナの淡い水色のピラミッドが、眩しく輝き始めた。


ユメコが手を下ろした。


「始め!」


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