浮遊するアリーナの静けさは、まるで神聖なもののようだった。
二人の姉妹が向かい合っていた。
一人は、自信に満ちた傲慢な態度で、まるでこれはただの遊びかのようにリラックスした姿勢をとっていた。
もう一人は、震える手と速くなる呼吸、そして胸の中で戦太鼓のように鳴る鼓動を抑えきれずにいた。
「始め!」と夢子が告げた。
美咲は歪んだ笑みを浮かべ、紅いピラミッドに手を伸ばす。それは一度だけ回転し、光となって分解され、彼女の右腕と融合した。瞬時にして、黒と赤の手袋が手を覆い、その上に光る魔法陣が浮かび上がった。
「負ける準備はいい?そんなに痛くしないから、安心して」
彼女はからかうように言いながら、小さな丸い球を手袋から放った。
その球はまるで縁日の玩具のように空を飛んでいったが、途中で急激に拡大し、エネルギーの波を放った。
パキィンッ。
その中から現れたのは、まるで悪夢の産物のような生き物だった。豹のようにしなやかな身体に、黒い鱗、背中に浮かぶ裂けた翼、そして燃えるような赤い瞳。咆哮はフィールド全体を震わせた。
「光を喰らえ、黒龍(クロンリュウ)」
その口を開いた瞬間、周囲の空気が暗く染まり、まるでアリーナの光そのものを吸収しているようだった。
ミナは唾を飲み込み、拳を握りしめた。
水色のピラミッドが彼女の前に浮かび、ゆっくりと回転しながら、そこから光る小さな球体が現れた。まるで空に浮かぶホタルのように五つ。
「なにそれ?」と、美咲は遠くから嘲笑った。「クリスマスのイルミネーション?」
ミナは何も答えなかった。球体たちは震え、彷徨いながら、まるで彼女の迷いを映すように揺れていた。
クロンリュウが咆哮し、猛烈な勢いで突進してきた。
「危ない!」観客席から女子生徒が叫んだ。
だが、獣の牙が届く直前——
球体たちが反応した。
ブンッ…ブンッ…!
彼女の前に並び、純粋な光の盾を形成した。衝突の瞬間、獣は後ろに弾かれ、怒りの咆哮をあげる。一つの球体は衝撃で消えたが、ミナは無傷のままだった。
遠くから夢子がじっと観察していた。
「面白いわね…あの球体たちは命令じゃなく、感情で動いている…」
アレックスはわずかに微笑んだ。
「いけ、ミナ。恐怖と希望、その両方を感じ続けるんだ。」
美咲は再び球を放ち、今度は鋭い爪と邪悪なエネルギーを宿した別の獣が現れた。
「さあ、光の粒で二体同時に守れるか見せてみなさい!」
二体の獣が一斉に突進。残った球体たちは再び盾を作ったが、明らかに力が弱まっていた。ミナは膝をつく。
「もう…だめ…!」
ドラゴンジャガーの牙が彼女の制服を裂き、地面へと押し倒す。球体たちも震え、彼女の絶望をそのまま映しているようだった。
その瞬間——
火花が散った。
ミナの脳裏にアレックスの笑顔が浮かぶ。待っていてくれる、約束してくれた、あのキスを。
「負けたくない…!」
彼女が叫ぶと、球体たちは心の声を聞いたかのように反応した。
彼女に向かって集まり——そして爆発した。
ドオォォォン!
純粋な光の衝撃波がアリーナ全体を包み込む。美咲の獣たちは数秒で消滅。防護壁が揺れ、空気には輝く粉塵と力強いエネルギーが満ちていた。
光が消えた後も、ミナは立っていた。息を切らしながら——
だが、異変が起きた。
光が…消えていく。
「な、なにが…?」ミナは震える声で呟いた。
夢子は眉をひそめ、審判席からつぶやく。
「吸収…美咲の獣が球体の光を喰らっている…」
美咲は勝ち誇ったように笑った。
「残念ね、妹ちゃん。クロンリュウは光のエネルギーで強くなるの。攻撃しても、守っても…彼が育つだけよ。」
ミナは後ずさりする。まだ球体は浮かんでいたが、その光は弱々しく揺れ、すでに一つは獣に喰われ消えていた。
影が迫る。 胸の圧迫感が増す。 呼吸が乱れる。
「勝てない…もう無理…」
美咲は第二の球を構える。さらにもう一体の獣が形を成しつつあった。
「終わりよ。」
獣が吠え、ミナへと突進。球体たちはかろうじて薄い盾を作ったが、それもすぐに崩れ、一つが粉々に砕けた。
ミナは倒れた。
静寂。
その心臓の音だけが響いていた。
そして——
「まだ負けていない。」
その声は、空気を切り裂く刃のようだった。
全員がそちらを振り返る。立っていたのはアレックス。ポケットに手を入れ、美咲を真っ直ぐに見つめていた。
「何を言ってるの?」美咲は苛立った声で返す。
アレックスはゆっくりと決闘場の端まで歩いた。ミナは地面に倒れたまま、意識を保とうと潤んだ目で彼を見つめる。
「君の獣は光を吸収する… でも、それだけじゃないだろう?ミナ、あの球体たちは…」
ミナは震えながら彼を見つめた。
「な、なに…?」
アレックスは穏やかに微笑んだ。まるで最初から結末を知っていた
かのように。
「教えてあげるよ… 聞いてて。」
ミナは息を飲んだ。浮かぶ球体たちも、まるでその言葉に耳を傾けるように、震えを止めた。空気は張り詰め、学生たちは皆、息を呑んだ。
アレックスは唇を開き、ただ一つの命令を伝えようとした。
そしてその瞬間——