森までの道中、女子3人はご機嫌ムードでコミュニケーションを取り合っていた。遠足気分の彼女たちだったが、戦闘もしっかり挟んでもいた。低級の魔物(キャタピラー、ロードマウス)との戦闘ばかりで、苦戦は全くしなかった。ゴブリン・ホブゴブリン戦後の各討伐数を配慮して、道中は一葉とひかりに魔物の
そんな感じで序盤は順調に魔物討伐・マップの踏破をこなしていた唯我チームだったが、少し奥へ進んだところに、思わぬ遭遇戦を迎えることとなった。
「おい野郎ども、こんなところに勇者どもが出てきやがったぜ!」
「マジか!身ぐるみ奪って、勇者は生け捕りにして売っちまおうぜ!」
「お宝の方から転がりこんできたぜ、ひゃっはー!」
セーフポイントにて休憩を挟もうとしたところ、先にそこを陣取っていた盗賊団と遭遇してしまい、戦闘を余儀なくされた。
「と、盗賊なんて本当にいるんすね………」
「ていうかあたしたちって人間とも戦わなきゃいけないの…!?」
「そ、そんな………」
初めてとなる
そして女子たちと違って初めての対人戦に全く臆した様子がない唯我は、目の前の敵に武器を悠々と振るっていた。
グサッ 「ぐうぅ………」
「くそっ、外したか!」
盗賊の腕に槍を突き刺した瞬間、唯我の意思とは関係無しに小さなホログラム画面がピコンと表示された
『人間を殺傷しても経験値は入りません』
(マジか!盗賊とかこっちに敵意を持つ人間を殺しても強くなれないし、ランクアップもしないのか。苦労して殺す意味は無いというわけか……)
対人間の殺傷システムについて把握した唯我は、比較的簡単な敵の無力化へと方針を切り替えた。腕を負傷して怯んでいる盗賊の顔面に膝蹴りをくらわして、意識を刈り取り、次の盗賊も同じように無力化させていく。
身体能力値は唯我らプレイヤーたちの方が優位となっていた。しかしそれを以てしても覆せなかったのが、「数の差」だった。
「く……っ何人いるのよもうっ、しつこい……!」
このチームいち強い璃音ですら多人数の同時相手には苦戦を強いられていた。身体能力値が彼女たちよりやや劣る唯我も多人数の相手は避け、一対一での戦闘を心掛けていた。
がそれでも数の差には抗えず、結果彼らに最悪の事態がおとずれた。
「やめろっ、放せこの(ドスッ)やろ――ぅ………………」
ひと際ガタイが大きい盗賊に不覚をとられた璃音が、盗賊に捕まってしまった。
「ひゃっはー!勇者一人捕まえたぜー!しかも女だぁー!」
「お頭ぁ、どうします?残りもとっちまいますか?」
「いや、思ったよりも手こずった。一人捕まえただけでも十分だろ。野郎ども、さっさとずらかるぞ!騎士団にでも見つかったらマズイしな!」
盗賊団は璃音を攫ったまま、唯我たちのもとから消え去ってしまった。
「り、璃音さーーーん!!」
「ヤバくないっすか、ヤバいっすよねこれ……!」
最悪の事態に一葉とひかりは動揺を露わにしていた。唯我もマズイなと爪を噛んでいた。
(………待てよ。生け捕りとかどうとか言ってたから、すぐに殺されることはないよな。殺すことが目的なら、俺たちとっくにここで皆殺しにされてたはずだし。戦う前も俺たちをどこかへ売りつけるとか言ってたし……すぐに後を追う必要は無いな、これは)
冷静に思考を組み立てていく唯我とは反対に、一葉とひかりは未だテンパった様子で相談し合っていた。
「あのー、金澤さんを攫って逃げた盗賊団の対処なんですけど」
唯我が話しかけると二人は何か良い作戦が!?と言わんばかりに期待の眼差しを彼に向ける。
が、
「このまま森を進み騎士団と合流して共闘を持ちかけて、盗賊団を一網打尽にするか。それとも一旦都市に引きかえして態勢を整えてシェリアイチームと合流して俺たちだけで奴らを倒すか。
二人はどっちが良いと思います?」
「「………え?」」
唯我の提案を聞いた途端、二人の表情が曇った。
「何言ってるんですか……?まずは、
「今すぐ殺されるなら、すぐに奴らの後を追う選択肢も出てくるけど、奴らは生け捕りにするとかどこかへ売り飛ばすとか言ってたんで、金澤さんがすぐ殺されることはないんじゃないですかね」
「そ、そうかもしれないっすけど、普通はすぐに助けに行くものでしょ、こういうのは!」
「俺たちだけで奴らを全滅させれるだけの力があれば、そうしても良いですけど、無理でしょさすがに。この中でいちばん強かった金澤さんですら苦戦してましたし。
まあ、一人一人闇討ちかけてちまちま消していけば出来なくもないだろうけど、そう上手く続く保証も無い」
盗賊団の中には璃音を気絶させる程の手練れが混じっていた。それと真正面から戦って勝つのは困難と言える。前回のように奇襲をかければ討てることは出来るが、今回は数がこちらを上回ってるため、これも困難。
「うぅ……でも相手は外道の盗賊なんすよ?気が変わったーとかで璃音さんが殺されるかもしれないじゃないすか!」
「確かにその線も考えられますけど、そんな“たられば”を挙げてたらキリがないですよ。
最終的にミッションが達成されれば、途中で殺されても生き返らせてくれる仕様ですし、それまでの安否についてあまり深く考えなくてもいいと思うんですけど」
「「――――――」」
「命が懸かっているからこそ、効率良くて勝ちやすい方法で攻略するのが妥当じゃないですかね………」
そこまで言ったところで唯我は「あれ?」と首をかしげる。二人のドン引き反応を見て「俺何かマズイこと言ったか?」と心の中で疑問をこぼしていた。
「それってつまり、璃音さんを見捨てるってこと?助けないの……?」
「や、だから助けるって言ってますよね?ミッションを全部達成すれば助かるわけだし」
一葉の悲痛げな問いかけに、唯我はあっけらかんと答える。
「あのぉ、昨日ちょっと聞いちゃったんすけど。璃音さん、きみに“あたしを助けて” って言ってたじゃないすか。なのに盗賊からの救出を先送りにするんすか?
年下にガミガミ言うのもアレかと思うんすけど、言わせもらうっす――きみってかなりのクズ男だと思うよ」
ひかりの非難がこめられた発言を聞いて、唯我は表情は平然ではあるものの内心舌打ちしていた。
「俺がクズかどうかは置いといて、俺の中では
「……六ツ川君、人は命さえ助かれば何でも救われるってわけじゃないと思うの。少なくとも、私はそう思ってます」
「そうですか。なら、金澤さんの救出云々は、國崎さんたちに任せます。俺は俺のやり方でミッションをこなすついで、彼女も助けに行くんで」
一葉の訴えに唯我は淡白にそう返した。その言葉が決定打となった。
「あ、こいつダメだわ」――と。
「~~っ!きみ、マジ最低っすね!行きましょ一葉ちゃん、私たちだけで!あいつらの後を追って行ったら騎士団と合流出来るかもしれないし。そうならなくても私たちだけでも盗賊団から璃音さんを助けましょう!」
「は、はい…!じゃあ、六ツ川君。私たち行きますね?一人にしてしまうけど、どうか気を付けて……」
「了解です。二人も無茶せずに。健闘祈ってます」
二人を引き止めるどころか、普通に見送る唯我だった。それがより癪に障ったのか、ひかりは苛立たしげに一葉の手を引いて、彼のもとから去って行った。
こうして唯我チームはバラバラとなってしまった。