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「合理的思考」2

 「おや?唯我チームがバラけてしまってるね。何があったんだろう」


 未踏破エリアが広がる地を突き進み続けているシェリアイチーム。そんな中彼女がマップ画面を開いてみたところ、唯我チームがバラけているのを知り、首をかしげる。


 「森で魔物と戦ってるうちにはぐれて、みんな迷子になっちまってるとか?」

 「その可能性も高いけれど、それならマップ機能を使えばすぐに合流しているはず。けれど唯我たちの動きを見る限り、アクシデントによる散り散りになったわけではなさそうだ」

 「魔物の襲撃ではぐれたわけじゃないのだとすると、何が考えられる?」

 「よほどの想定外の事態に遭遇し、やむなく分離する方針をとったか、もしくは……」

 「あ!待ってシェリーさん、俺に答えさせてくださいよ!唯我の奴ら何か揉めて、喧嘩別れしたんじゃね?」

 「うーん、私もそれを言おうとしてたのだけど、出来ればそうであって欲しくないと思うね」


 クイズ番組のノリでそう推測を述べた雅哉に、シェリアイは苦笑いを浮かべながらマップ画面の唯我たちの動きを観察していた。


 「っ、二人とも、また骨のありそうなのが出てきたぞ」


 先頭を歩いていた征司がそう告げると、その正面から大蛇アナコンダサイズのヘビの魔物が現れ、彼らの道を塞いだ。


 「おぉーまた中級の魔物じゃね?んじゃまたサクッと倒しちましょう!」

 「そうだね、唯我たちのことは後でまた考えるとして、今は目の前の敵に集中しよう」


 シェリアイチームの魔物討伐数は今日で既に全員トータル二十間近まできていた。今日こそは都市を一つ来訪したいと考えているシェリアイたちだった。





 「あぁ~~、マジムカつく!前回も気にくわないところあったけど、今回のは過去一っすよ!まだ二回目なんすけどね!」


 一方の別離した唯我チーム…一葉&ひかりは、璃音を攫って逃げ去った盗賊団の後を追っていた。マップ画面で璃音がどこにいるか逐一確認出来るため、盗賊団の追跡も容易だった。


 「私も……さっきの六ツ川君はちょっと冷たく感じました。でも、効率性とか最適性とかの視点で考えると、言ってることは正しいのかなとも思ってます」

 「そりゃあさ?合理的で模範っぽい答えなのかもって思ったすよ?でもだからってあんな、璃音さんの命を物みたいに考えてるような言い方はないでしょ!いくら後で復活すると分かってたとしても……あんなこと普通に言えるところとかさぁ」


 唯我と分かれてからずっと、ひかりは彼への不満を垂れ流していた。


 「六ツ川くんあの子、ちょっとどころか、かなりヤバいかも。こっちのチームでまともなのは私と一葉ちゃんだけっすよ!やっぱり」

 「え……?璃音さんはとても良い人だと思うんですけど。以前元の世界で一度会って話したんですけど、思いやりあって優しかったです」 

 「へぇ~現実世界で顔合わせしてたんすね。誤解しないで欲しいんすけど、私も璃音さんのことはあの子と違って普通だと思ってるよ。私のことも気にかけてくれる凄く良い子っす。

 ただ……何となくなんすけど心の壁がある気がするんすよね」


 まあその壁とやらが何なのかは昨日の夜中で少し知ったんすけどね……そう心の中で呟くひかりだった。


 「それより、ちゃっちゃと盗賊どもに追いついて、私たちで璃音さんを救出するっすよ!」

 「は、はい!(途中で騎士団と接触出来るといいなぁ………)」


 奇襲をかけるべく、二人は盗賊団の追跡速度を上げた。




 一方、攫われた璃音の救出を後回しにし、一葉たちと別れて一人ぼっちとなった唯我。


 (また一人になったな……。まあ一人の方が気楽にやれるから良いんだけど。ただそこそこ以上の強い敵と戦うのは避けた方が良いよな。慎重に行動しよう)


 唯我は引き続き単独で騎士団の捜索を行うことにした。魔物との戦闘は一人で倒せるレベルに絞り、強めの下級以上の魔物や盗賊といった集団とは遭遇しないよう、細心の注意を払いながら森の中を歩き回った。

 半刻ほど森中(未踏破エリア限定)を歩き回ったものの、騎士団との接触は叶わずのままだった。


 (やっぱりおかしい………ミッションに関係するものはマップ画面には赤い点で表示される仕様のはずなのに、騎士団ミッションの座標が一向に表れないのは何なんだ?自力で探せってことか?)


 だとしたらゲームマスターは中々の捻くれ性格だなと嘆息しつつ、さらに数十分間森の中を探し回り、気付けば北の森全域を踏破していた。それでも騎士団の発見には至らなかった。


 (森中すべて捜索したのに見つからなかったってことは、騎士団は既に自国へ帰って行ったか?だとしたら入れ違いになっちまったな、くそ…!)


 ここまでの捜索が無駄足に終わってしまったことに苛立ちをみせる唯我だったが、すぐに気持ちを切り替え小国シオンゲイトへ引き返すことにした。現在地点が来た道の入り口付近だったお陰で、夕刻前には都市に戻ることが出来た。


 「これは勇者様、他の勇者様方はどうされたので?」

 「いや、まあ……ちょっと。それより騎士団ってこっちに帰ってきてないですか?」


 騎士団のことを尋ねると市長は一刻(=2時間)程前に騎士団が任務から帰ってきたと答え、唯我を騎士団の基地まで案内してくれた。

 基地の管理人にも騎士たちが戻ってきてることを確認して、彼らがいる騎士舎へ向かった。


 「そこの者、騎士でも管理人でもないな?何者だ?」


 その道中、紫混じりの黒短髪の長身の男に呼び止められた。身なりからして彼が騎士であることは明らかだった。


 「あの、あなたはここの騎士団の一員ですか?」

 「ん?そうだが……ってあんたはもしかして、勇者か?」

 「あ、はい。六ツ川って言います。あなたは?」

 「俺はケリー、ケリー・ブロッズだ。ここが騎士団の基地と分かって、こんなところを歩き回ってるようだが、何用だ?」

 「えーと、実は……込み入った事情がありまして―――」


 自分たち勇者たちはここの騎士団と接触しなければならないこと(理由を問われた際、そういう予言が出たとテキトーに答えた)、自分と同じ勇者が盗賊団に攫われてしまったこと、勇者の救出を協力して欲しいことを騎士…ケリーに全て伝えた。


 「盗賊団だと?昨日から北の森の調査をしたが、全く遭遇しなかったな。奴ら、上手いこと俺たちの目をかいくぐってやがったか……。

 六ツ川といったな、盗賊団の情報を団長や同僚にも共有したいから、一緒に来てもらえるか?」

 「もちろん」


 プレイヤーと話す際、前回の村長や今回の市長のように敬語で話す者もいれば、ケリーのように普通にタメ口で接する者もいるのだなと思いつつ、唯我はケリーと共に騎士舎へ移った。


 「バリー団長!六ツ川と名乗る勇者から盗賊団の情報を得られましたので、そのご報告をしに参りました!」


 舎内にはケリーと同じ甲冑を身に纏っている騎士が数多く見られた。ようやく騎士団と合流を果たした唯我だったが、違和感に気付く。


 (ん……?騎士団と会えたのに、何でミッション達成の通知がこないんだ?)


 ケリーと会った時もミッション達成の通知がこなくて首をかしげていたが、個人との接触だけでは達成にはならないのだと思い、こうして組織のところへ潜り込んだのだが、それでも達成通知はこない。


 (ただ会うだけじゃミッション達成にはならないのか?接触したことにはならないのか?)


 「騎士団と接触する」という定義がただ単に会うことではないのだとしたら、いったい何を以ってして接触するということになるのだろうか。

 試しに唯我はケリーの体に触れてみた。ミッション達成の通知はこなかった。


 「ん?俺の体に何か付いてたか?」

 「あ、いや……何でもないです、すいません(くそ、単純接触これも違ったか……)」


 どうしたものかと思案しようとしたその時、ケリーが敬った態度で話しかけた老け顔の男が唯我に話しかけてきた。


 「勇者殿とお見受けする。私はこの騎士団の団長を務めているバリー・ブロッズという。北の森で盗賊団と遭遇したとのことらしいが、君の口から詳しく聞かせてもらえるだろうか?」


 接触とはどういう意味かということに頭を悩ませつつも、唯我はケリーや団長ら騎士団に盗賊団の情報を話した。



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