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「シオンゲイト騎士団」

 「……なるほど。それでその盗賊団にあなたと同じ勇者を攫われ、逃げられてしまったと。して勇者六ツ川殿、その盗賊団の特徴についても教えてもらえるか?」

 「えーと特徴、特徴……あ、そうだ。何かやたらガタイの良い大男を連れてましたね。俺のパーティメンバーが倒されたのもそいつでした」

 「大男……そうか、奴らか」


 バリー団長の奴らという単語に、ケリーら騎士たちに緊張が走る。唯我チームが遭遇した盗賊団が国内で指名手配中の悪名高い一味として知られているのが理由。団長いわくその盗賊団は数と戦力ともに相当な危険度…中位の中級魔物の群れに匹敵するとか。


 (マジか……あいつらそんなに強い集団だったのか。深追いしなくて良かったー。ていうか金澤さんを助けに追って行った國崎さんと館野さんあの二人、もヤバくね?………まいいか。死んでしまったらその時また考えよう)


 それよりも今は目の前のやるべきこと…「騎士団と接触する」の達成方法の模索が先だと再び思案しようとしたところで、


 「六ツ川殿、盗賊団が逃げ去った方角に、覚えはあるか?」

 「逃げた方向………あ!」


 バリー団長の質問を聞いた唯我に閃きが走った。まだ未踏破だらけだった森の中だったため盗賊団の逃走方向などほとんど記憶にないが、一味の位置を知る手がかりなら持っている。


 「あの、俺の職業スキル(本当はプレイヤー機能だけど)で逃げた盗賊団……というか攫われたパーティメンバーの現在地を知ることなら出来ます!」

 「おお、そんなスキルがあるのか」

 「はい。そこで一つ提案というか、お願いしたことがあるんですけど。俺と一緒に盗賊団と戦ってくれませんか?チームメイトを助けたいんです」

 「ふむ………」

 「えーと、金銭事情は今アレなんで、報酬金とかはあまり出せないんですけど、別の形で見返りを出す検討はするってことでいかせて欲しいんですけど………ダメ、ですかね?」


 そう言って頭を下げて頼み込む唯我の肩を、バリー団長がガシッと掴んだ。


 「あの極悪で厄介な盗賊団を追跡出来るとは、さすがは勇者殿!そう畏まって頼み込む必要は無い!むしろ、こちらからも協力を頼みたいくらいだ!

 勇者六ツ川殿、かの盗賊団の討滅作戦に是非加わっていただきたい!」

 「お、おう。それならもちろん、やらせてもらいます!」


 弾んだ声で了承した直後、唯我の目の前にホログラム画面がピコンと表示された。



ミッション『騎士団と接触する』:達成


 画面に記された文を見た唯我は「よし!」とガッツポーズした。


 (狙い通り、盗賊団の情報…居場所を提供することで共闘を持ちかけ、こっちに上手く抱き込めた!お互いに利益・メリットある話を持ちかけて、協力関係を築くところまでがミッションだったんだ!)


 「接触する」の定義がどこまでなのか明確に記されていなかった。そのため組織あるいはその一員と出会うのか、対象の人物に物理的に触れるのか、それとも交渉しこちら側に引き込むまでのことをするのか。

 それぞれを試してみた結果、三つ目の方法でようやく成功したのだった。


 (ミッション開始から三日目で一つ目のミッション達成した。残りのミッションも敵の強さや他の都市までの物理的な距離にもよるけど、そこまでの難易度じゃないはず。この調子で行けば、今回は割と余裕もってクリア出来そうだぞ…!)


 その後唯我は騎士団と盗賊団の追跡およびその討滅、それと攫われた璃音の救出作戦を練り出した(方針を決めたのはバリー団長で、唯我はただ黙って聞くだけだた)。

 討滅戦の決行日時は二日後の朝となった。任務を終えたばかりの騎士たちの休養、敵が侮れない以上十分な準対策を練ること、移動に使う馬車の調達などの準備にかかる時間を考えての結論だった。

 特に急ぐ理由はない唯我はこの時間を有効に使おうと考え、新しい武器やアイテムの作製や今後のミッション遂行についての方針を練ることにした。


 「あ、そういえば、この国って王様っていますか?」

 「王?そんなものはこの国にはいない。強いて王と呼ぶとするならこの都市の市長さんがこの国を上手くまとめてくれている」


 ケリーに尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。市長から魔物討伐の依頼がもらえないかと検証すべく、騎士団との作戦会議を終えた後早速市長のもとへ行こうとしたのだが、その道中である人物との思いもよらない再会に立ち入った。


 「はぁっ、はぁっ、六ツ川君……よかった。無事に戻ってたんですね」

 「え、ああ……うん。國崎さんも暗くなる前に無事に戻ってこれて良かったですね」


 攫われた璃音を救出すべく盗賊団を追っていたはずの一葉が、ここシオンゲイトに戻ってきていた。息を切らしていることからここまでずっと走って来たのだろう。


 (そういえばあれからマップ画面でみんなの動向チェックしてなかったな。結局救出を一旦断念して戻ってきてたのか)


 一葉が呼吸を整えたところで唯我は気になったことを尋ねる。


 「えーと?館野さんはどちらに?先に宿で休んでるとか?」

 「あ、あの!それが―――」


 一葉の報告をまとめると、以下の事が明らかとなった。

 唯我と別れた後、一葉とひかりはマップ機能を頼りに璃音を攫った盗賊団に追いつくことに成功。

 がしかし、止む無しの戦闘を強いられ、結果今度はひかりまで捕らわれてしまった。

 勝ち目が無いと悟った一葉は二人の救出を断念して逃走し、何とか逃げ延びることに成功、そのままここまで戻ってきた。


 (あーあ、あれだけ啖呵切っておいて、結局失敗して捕まっちゃってんじゃん。まあ薄々そうなることは予想してたけど。

 それにしても意外だな。國崎こいつの性格上、勝ち目が無いと分かっても二人を助け出そうと躍起になるのかと思ってたから。そういう合理的な判断もいちおう出来るんだ)


 璃音に続きひかりまでも盗賊団の手に落ちてしまい、現状はより悪化したが、騎士団と接触を果たしかつ彼らの協力も得られたことで、ここから好転させられる兆しを見出せられている。

 それ故チームが半分敵に捕まったことに、唯我はさして焦ってなどいなかった。


 「――まあそういうわけで、こっちは何とか騎士団と接触し、一緒に盗賊団を殲滅してくれることにもなりました。明後日の朝まで待ってもらうことになるけど、二人の救出に手を貸してもらえるのは確かです」

 「そ、そうなんだ。(あ、ミッションも一つ達成されてる……無我夢中で走ってたから気が付かなかった)良かった………」


 唯我の報告を聞いた一葉は安堵する。がその表情は暗いものへと変わり、彼に頭を下げる。


 「あの、ごめんなさい………勝手なことしたうえ、また仲間を一人捕らわれてしまって……………」

 「別に構わないですよ。仲間を助けようって気持ちは大事でしょうしね」

 「六ツ川君………私、どうしたらいいかな?私に出来ることって何かないかな?」

 「うーん………(いや、そんなの聞かれても答えられねーし)、とりあえず俺は明後日までにもっと強い武器を作製して、戦いに使えそうな新しいアイテムも作ってみようとは思ってますけど」

 「そう、ですか………」


 一葉の苦悩に応えることないまま、唯我は曇り顔の一葉を見送るのだった。





 唯我チームが遭遇した盗賊団のアジト、その地下牢―――



 「いや、助けにこないんかい、六ツ川っ!」

 「まあ、どうせそうだろうなって思ってたっすけどねー。とりあえず一葉ちゃんが無事に国に戻れたようで良かったぁ」


 囚われの身となった璃音とひかりは、ただひたすら助けを待つことしか出来ずにいた。


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