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6:さよなら月面湯豆腐、そしてお布団が吹っ飛んだ(宇宙規模)

月面「コズミック・ライブラリ」最深部。始原のコトノハ・プリズムを蝕む「コトノハ・ダークマター」との最終決戦は熾烈を極めた。ダークマターは邪悪な囁きと共に負の感情コトノハ(絶望、憎悪、無気力など)を津波のように放ち、みさきの愛情コトノハ・バリアや優子(仮)の記憶シャボン玉を容赦なく打ち砕いていく。


「くっ…! なんて強大な負のエネルギーなの…!」みさきは膝をつきそうになるが、田中への想いを力に変え必死に耐える。

優子(仮)の姿も、ダークマターの攻撃を受けるたびに薄くなり、今にも消えてしまいそうだ。「一郎さん…! 負けないで…!」


「田中君!君の『虚無』でプリズムの汚染そのものを『無』に還すのじゃ!それしか手はない!」通信機越しにヘンテコリン博士の檄が飛ぶ。「ただしそれはプリズムの記憶…つまり優子君のコトノハ・エコーをも消し去る可能性を意味する!それでもやるのか!?」


優子(仮)のコトノハ・エコーを消す? それは彼女との永遠の別れを意味するかもしれない。田中は一瞬ためらった。しかし、目の前で苦しむみさきの姿、そして優しく微笑む優子(仮)の儚い姿を見て、彼は決意を固めた。


「優子さん…あなたの想いは、僕が、そしてみさきさんが必ず受け継ぎます。だから…」

優子(仮)は静かに頷き、涙のコトノハを一粒だけ零して、そっと田中の背中を押した。「行って…一郎さん。そして、幸せになって…」


田中はみさきの手を強く握り、コトノハ・プリズムへと向き直った。彼の全身から放たれる「虚無ダサネス・フィールド」が、かつてないほど純粋で強大な輝きを放つ。それはもはや「ダサさ」という矮小な概念を超えた、宇宙の根源的な「無」そのものだった。


「…………………………」

田中は何も言わなかった。ただ、全ての意味、全ての感情、全ての存在すらも包み込み、そして消し去るような、絶対的な「無」の波動をプリズムへと放ったのだ。


黒く濁っていたプリズムは、その「無」の波動に触れた瞬間、激しく振動し、表面の黒い汚染がまるで吸い込まれるように消えていく。だが、同時にプリズム内部に微かに灯っていた優子(仮)のコトノハ・エコーもまた光を失い、静かに「無」へと還っていった。


ダークマターは最後の抵抗とばかりに巨大な絶望のコトノハ(それは何故か「締め切り前の作家の悲鳴」と「日曜日の夕方のサザエさんのテーマ曲」が混ざったような音と映像だった)を放ってきたが、田中の虚無フィールドの前にはそれすらも無力だった。全ての意味と感情が剥奪され、ただのノイズとなって霧散する。


やがてコトノハ・プリズムは本来の水晶のような透明度と輝きを取り戻し、穏やかで清浄なコトノハ・エネルギーを再び放ち始めた。封印は再構築され、地球と月の間のコトノハ・バランスは正常化したのだった。


戦いは終わった。優子(仮)の姿はもうどこにもない。ルナ・ラビットΩが深々と頭を下げた。

『アリガトウ、地球ノ勇者タチヨ。コレデ宇宙ノ危機ハ去ッタ。君タチノ勇気ト愛ニ、月面文明ノ末裔トシテ最大限ノ感謝ヲ…』

ウサギはシルクハットを取り、優雅にお辞儀をした。その目にはほんのりと涙(のようなコトノハ)が光っている。


「さようなら、ルナ・ラビットΩ。そして…ありがとう、優子さん」

田中は静かに月面に別れを告げた。みさきはそんな彼の腕にそっと寄り添い、言葉もなくその想いを共有する。怜花は一部始終を冷静に、しかしどこか感動した面持ちで記録し終えていた。


帰りの手段はもちろん、あの『コトノハ推進式・次元跳躍型湯豆腐(試作Ω)』だった。しかし、行きで大量の愛とダサ力(ぢから)のコトノハ・エネルギーを消費したため、帰りの燃料はかなり心許なかった。

「むぅ、これは計算外じゃった…! このままでは地球までギリギリ…いや、大気圏で燃え尽きるやもしれん!」ヘンテコリンが通信機越しに焦りの声を上げる。


その時、気絶からようやく復活した佐藤君が(なぜか月面まで意識だけワープしていたらしい)最後の力を振り絞り、渾身のポエムを絶叫した!

「燃えよ湯豆腐! 愛を乗せて! 地球(ふるさと)の食卓(ちゃぶだい)目指し翔べ! ダサ力こそが推進力! イチローの愛は無重力(時々福神漬けの重みはあるが)! このポエムが最後のブーストだ! ウオオオオオ!ダサみ!!!(意味不明の造語)」


その瞬間、湯豆腐エンジンが最後の輝きを放ち、凄まじい勢いで地球へと加速! …しすぎた結果、土鍋の底が抜け、三人は白菜やネギと共に宇宙空間(なぜか呼吸はできる安全地帯)へと放り出されてしまった!

「「「うわああああああああ!!!」」」


絶体絶命のピンチ! …と思われたその時、三人の眼下に広がる青い地球、その日本列島のあたりから、巨大な「何か」がものすごいスピードで上昇してくるのが見えた。

それは布団だった。どこにでもあるごく普通の綿布団だが、その大きさは日本列島を覆い隠すほど巨大で、柔らかそうな掛け布団部分が三人を優しく受け止めた。


「こ、これは…!?」

「『布団が吹っ飛んだ』…!?」

「しかも宇宙規模で…!?」


布団は三人を乗せたままゆっくりと地球へと降下し、無事にスマイルフーズの社屋の屋上に着地した(衝撃はマシュマロのように柔らかかった)。

呆然とする三人の前に、満足げな笑顔の五十嵐園長(にじいろスマイル保育園の)が立っていた。彼女の手には巨大な布団叩き。

「いやー、ヘンテコリン博士から連絡があってねぇ。地球への帰還エネルギーが足りないって言うから、私が秘蔵の『言霊布団叩き』で、保育園の布団を叩いて宇宙まで『吹っ飛ばして』差し上げたのよ! え? これくらい当然じゃない、世界の平和のためですもの、オホホホホ!」


五十嵐園長…あなた、一体何者なんですか…。


こうして、月を巡るコトノハ・ラプソディは、五十嵐園長の宇宙規模の「布団が吹っ飛んだ」によって、ゆるふわかつシュールな大団円(?)を迎えたのだった。

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