「時をかけるおでん(ヘンテコリン式・おでん出汁循環型クロノ・ジャンパー)」は、意外にもスムーズに(そして強烈な練り物の匂いを残して)時空の歪みへと突入した。みさき、怜花、ヘンテコリン博士、そして「ダサ力燃料」として自らのポエムを絶叫し続ける佐藤君を乗せたおでん鍋は、時空のトンネルをぐんぐんと進んでいく。
一方、田中一郎とジクウ・ルリコを乗せた「時間冷蔵庫(クロノ・フリッジ)」が最初に降り立ったのは、なんと江戸時代、元禄年間だった。
「ココガ、最初ノ『ダサ力(ぢから)特異点(シンギュラリティ)』! 伝説ノ俳聖、マツオ・バショーガ『奥ノホソ道』ノ旅ノ途中、詠ンダとされる『禁断ノ一句』ガ、コノ時代ノコトノハ・バランスヲ大キク狂ワセタ可能性ガ高イノ!」
ルリコは江戸の町並み(明らかに時代劇のセットのようなコトノハ風景)を見下ろしながら説明する。
二人が町に降り立つと、そこは確かに江戸時代風だが、どこか様子がおかしい。町人たちは皆妙にハイテンションで、意味不明なダジャレ(古風な言い回しだが内容は現代の小学生レベル)を連発し、その度に頭上から桜吹雪や小判のコトノハが舞い散っている。
「おっと、そこのお嬢さん、足元にご注意くだされ!この石畳、コケだけにコケやすいですぞ! なんつって! ドッカーン!(桜吹雪ドバー)」
「あんたこそ、その着物、色がキモノすごく素敵だねぇ! イヨォーッ!(小判ジャラジャラ)」
町全体が異常な「ダサ力フィーバー」状態なのだ。
「ヒドイ…コレガ『禁断ノ一句』ノ影響…! バショーノ一句ガ、人々ノ『ダサ力リミッター』ヲ外シテシマッタンダワ!」ルリコは顔をしかめる。
田中とルリコは、芭蕉の足取りを追って旅籠屋や茶屋を巡るが、出会う人々は皆「一句どうです?『茶碗蒸し、むせる心も、またをかし』なんちゃってな!」とダジャレ合戦を仕掛けてくるばかりで手がかりがない。
そんな中、とある川べりで一人釣り糸を垂れるみすぼらしい男に出会う。彼こそ松尾芭蕉その人だった。ただし、歴史の教科書で見た姿とは程遠く、髪はボサボサ、目は虚ろで、何やらブツブツと独り言を呟いている。
「……五月雨を…集めて涼し…最上川……いや違うな……五月雨を…冷蔵庫に集めたら…冷奴に合うかもしれん…でも製氷機が壊れててな……ああ…」
なんと芭蕉は、未来から偶然(時間冷蔵庫の時空航行の余波で)飛んできた「冷蔵庫」という単語とその概念に取り憑かれ、俳句そっちのけで「冷蔵庫五七五」を考え続けてスランプに陥っていたのだ。これがあの「禁断ノ一句」を生み出す直接の原因だったらしい。
「バショーサン! アナタノ迷イガ、コノ時代ヲ、ソシテ未来ヲモ狂ワセテルノヨ!」ルリコは芭蕉に詰め寄る。
芭蕉は「れ、冷蔵庫とは…なんと雅(みやび)にして謎めいた響き…そしてあの冷たき箱の中には…宇宙の真理が詰まっておるのでは…?」とあらぬ方向へと思考が飛んでいる。
このままではらちが明かない。田中は意を決して芭蕉に話しかけた。
「松尾殿…その、冷蔵庫というものは…確かに便利ですが…それよりも大切なのは…中に入っている…えーと…食べ物…それを作る人の…心…なのでは…」
田中がそう言った瞬間、彼の頭上から「ほかほかの肉じゃが(のコトノハ、湯気と香り付き)」と「みさきの手作りおにぎり(中身は鮭と何故か福神漬けのコトノハ)」が出現し、芭蕉の目の前にふわりと降り立った。
芭蕉は虚ろな目でそのコトノハの料理を見つめ、おもむろにそれを(食べる真似を)した。
「……! この…温もり…!そしてこの、計算も技巧もなき、ただひたすらに『誰かを想う心』から生まれた素朴な味…! そうか…! 麿(わし)が求めていたのは、小賢しい言葉の遊びではなかった…! この『食』にこそ…! 『情』にこそ…! 真の『風雅』があったのじゃ…!」
芭蕉は突然覚醒し、涙ながらに一句詠んだ!
「夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡 …そして冷蔵庫 よく冷えにけり」。
この超絶ダサいがどこか人間味溢れる一句が生まれた瞬間、芭蕉の頭上に輝く金色の「悟」のコトノハが出現し、江戸の町を覆っていた異常なダサ力フィーバーは嘘のように収束。町人たちも「あれ? 俺たち、さっきまで何を…?」と正気に戻った。芭蕉はその後、冷蔵庫のことはすっかり忘れ本来の俳句の道に戻り、「奥の細道」を完成させたという(歴史の教科書には「元禄俳諧リバイバル、謎の肉じゃがブームと共に」と記されるかもしれない)。
「ヨカッタ…! コレデ一ツノ『ダサ力特異点』ハ修復サレタワ!」ルリコは安堵の息を漏らす。その時、彼らの頭上に轟音と共に巨大な「おでん鍋」が落下してきた。ギリギリで避けた二人の前に、おでんの湯気の中からみさき、怜花、ヘンテコリン、そして気絶した佐藤君(燃料切れ)が現れた。
「田中さん! 大丈夫でしたか!?」
「皆さん! どうしてここに!?」
再会を喜ぶ間もなく、ジクウ・ルリコは新たな「ダサ力特異点」を感知する。
「次ハ…中世ヨーロッパ! ダサ力魔女狩リト、伝説ノ『絶対音痴賛美歌』ノ謎ヨ! イソグワヨ!」
こうして一行は(佐藤君を大根とこんにゃくの間に挟みつつ)、おでん鍋と冷蔵庫の二手に分かれ、さらなる時空を超えたダサ力修復の旅へと向かう。果たして彼らは歴史上のダサ力(ぢから)が引き起こすパラドックスを全て解決し、現代の「リリック・エコー」を止められるのか。
そして、この時空を超えた大騒動の背後に潜む真の「黒幕」の影が、徐々に輪郭を現し始めていた。それは「ダサさ」と「面白さ」の根源的な対立に関わる、宇宙規模の存在かもしれない。
江戸ダサ力絵巻の次は、中世ゴシック・ダサ力ロマン(?)。物語は時を駆け、歴史をゆるふわに改変しながら、予測不能のクライマックスへとひた走る!
(TT) ←(たぶん、芭蕉の詠んだ冷蔵庫の句の味わいと、おでん鍋の出汁の香りと、これからどこへ行くのっていうドキドキ感)