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五話 ロリに主導権を握られるとか聞いてないんですが

「いいのかい? こちらとしては多く入ってくれるほうが助かるけど」


「はい、大丈夫です。今後もお世話になります。失礼します」


 俺はバイト先に電話をかけていた。

 シフトを多く入れてほしいと交渉したのだ。


 ルリエを本格的に家に住まわせることに決めた俺。去年よりは大学生活も慣れてきたし、このくらいいける。


 以前の俺なら、絶対しない行動だ。まさか誰かの為に俺が働く日が来るなんて思いもしなかった。


 同居……といえば聞こえは良いが、相手は仮にもサキュバス。


 そして、ルリエは明日からサキュバスとしてのノルマがある。


 それは俺を心の底から満足させること。油断は出来ない。でも、童貞の俺が女の子と同居なんて心臓に悪い。


 朝から馬乗りで起こされたり、お風呂上がりの生肌を見たり、もしかしたら一緒のベッドでワンチャンなんていう、ドキドキでワクワク的なギャルゲー展開がこの先、待っているかもしれないんだぞ。


「お兄ちゃん、眠いからルリエは先に寝るね。おやすみなさい~」


「……おやすみ」


 うん、普通にないな。

 だってルリエだもんな。


「って、また俺のベッドを占領してるし」


 当然のようにルリエは、のそのそとベッドに潜り、就寝した。


 寝るの早すぎないか? サキュバスって夜型なんじゃないのか。ゲームで疲れたから寝るって、人間の子供と変わらないじゃないか。


 俺は明日から何をされるかわからないから緊張してるってのに、ルリエは緊張のきの字も見えないくらい平常心。


 いや、むしろ自分の欲求に素直だ。

 ……睡眠っていう欲求にな。


 これ以上、ラブコメ展開を期待するのはやめよう。俺は諦めることを覚えた。


 そして、俺は今日も硬い床で寝るのだった。


☆  ☆  ☆


「……んっ。あっ」


「う~ん」


 なんだろう。声がする。

 ……女の子の声だ。


その声色は甘すぎて、まるで溶けてしまいそうな。


それになんだ? このフニフニとした柔らかい感触は。ちょうど手に収まるくらいのサイズ。


 だけど、あたたかくて気持ちいい。


「やっ……」


「!?」


 目が覚めた俺の目に飛び込んできたのは、ルリエの……胸。


と、いうことは、さっきまで俺が触れていたのはルリエの……!


「悪い、ルリエ!」


 バッと手を離す。


 つーか、なんでルリエがここに!? たしか俺は床で寝て、ルリエはベッドだったはず。


 まさかルリエのやつ、ベッドから落ちたのか?


「お兄ちゃん〜、すぅすぅ」


「……」


 起きていると思ったが、どうやらまだ寝ているようだ。


 それにしても、朝からこんな甘い声を出されたら俺の理性が……いやいや、相手は高校生だぞ!? 


 動揺して、どうする俺。

 落ち着け。落ち着くんだ。


 そうだ! 深呼吸だ。

 吸って吐いて、吸って吐いて……これで大丈夫だ。


 それにしても、気持ち良さそうに寝てやがる。


 ラブコメ展開を期待するのは止めようと諦めていた矢先がコレとか心臓に悪すぎる。

 さすがの俺でもルリエの胸を触るとは予想もしていなかった。


 夢の中では、猫をモフって可愛いって……恐らくそれが原因なんだろうな。


 ちゃんと柔らかかった……。

 小さくても女の子なんだよな。


 やべぇ、せっかく落ち着いたはずなのにまた変な気持ちが。


 ツンツン。俺はルリエの頬に触れてみる。


「やー。う〜ん」


 ホント子供みてぇに頬っぺたもプニプニなんだな。男の俺とは何もかも違う。


 って、俺は寝てる女子になんてことを。やってることがまるで変態と同じじゃねぇか。


 本能の方が荒ぶってるのがわかる。寝てるんだから、どうせバレないだろ……と悪魔の俺が囁いてきている。


 女に触れる機会なんて、これを逃せばない。この際だから触っておけよ、そう聞こえる。


 ……駄目に決まってんだろ! 簡単に理性を飛ばしてたまるか。朝から自分自身と戦う羽目になるとはな。


 そういやルリエの服……俺のTシャツを貸したんだっけ。さすがに、ずっとこのままってわけにもいかないよな。


 俺は重たい身体を起こし、パソコンの電源をつける。そして、子供服と検索をかけた。


 ヒットしたのは小学生が着るような服。

 こんなの、履歴として残したくねぇな。


 俺が何かしらの事件で捕まったとしたら、まず家宅捜索をされ、パソコンの検索履歴を調べられる。


 それがニュースで流れれば、俺はロリコン野郎と言われ、一生ネットの晒し者されるだろう。そんなのは嫌だ。


 当然、普通に過ごしていればそんなことにはならない。が、普通に親に見られたとき、上手い言い訳が見つかりそうにないから後で消しておくか。


 こういうとき、姉や妹がいれば聞けたんだがな……って、仮にいたとしても俺が女性服について聞いたらドン引きされるだけか。


 どんなのがいいのか、サッパリわかんねぇ。スカートとズボンはどっちのほうがいいんだ?


 動きやすさを重視するなら、断然ズボンの方だが、年頃の女子だったらスカートのほうが……彼女いたことがない俺がわかるはずもない。


「お兄ちゃん、何してるの?」


「!?」


 後ろから、ひょこっと覗いてきたルリエ。いきなり声をかけられてビビった。

 一瞬、心臓が止まりかけたぞ。


「ねぇ、これってルリエの服?」


「あぁ、そうだが……」


 変態だと思われた? 

 つい、フイっと目を逸らしてしまう。


「ルリエ、服屋さんに行きたい!」


「一人では……無理だよな」


 というか、服がない。こんなことになるなら服くらい用意しておけば良かった。いや、俺一人で女物の服を買うのは無理だな。


 でもって、ルリエ一人でも不可能だ。初めての買い物は想像するだけでも不安だらけ。


 そもそも人間じゃないルリエが買い物なんて出来るわけがない。


「って、服屋を知ってるのか」


「人間界のことは魔界で勉強したから」


「そ、そうなのか」


 勉強したわりに料理はアレなのか。

 人には得意不得意があるわけだし、ルリエも同じと考えると納得がいく。


「あと、下着屋さんにも行きたい……」


「それは無理!」


「なんで?」


「……無理なものは無理なんだ」


 下着屋って、ようは女性下着ショップってことだろ?


 そんな場所に女と入るとか難易度が高すぎる。ゲームでいうところのレベル1で魔王を倒しに行くようなものだぞ。


 だからといって通販は……ルリエの胸を見る限り、下着屋でちゃんと採寸してもらったほうがいいだろうな。


「ダメ?」


「駄目だ」


「……お兄ちゃん、さっきルリエの触った」


 ジト目で見つめられる俺。


 ヤバい。冷や汗が止まらない。どうしよう、胸触ったことがバレた。触ったというか揉んだに近かったよなあれは。


「お前、起きてたのか」


「起きてた」


「わ、悪かった。確かに胸を触ったのは事実だけど、あれは事故っていうか……」


 目を逸らしながら謝る俺。なんだろう、目を合わせられない。今回のことは俺が100%悪い。


 ルリエが怒るのも当たり前だ。むしろ怒らないほうがどうかしている。


「ふぇ? ルリエは頬を触られたことを話したのに……! 胸も触ったの!? いつ!?」


「あ……」


 胸のときは起きてなかったのか。俺はてっきりそっちの事を言っているのかと。


「エッチ! 変態! お兄ちゃんの馬鹿っ!」


「悪かったって!」


 バシバシと胸を叩かれる。が、痛くないのはルリエの力がないからか。


「責任とって買い物に付き合って。あとお腹すいた!」


「……」


「返事は?」


「はい」


 おかしい、大黒柱は俺のはずなのに。


 ルリエに主導権を握られてしまった。そうか、これが肉食系女子……うん、多分違うな。


「それとお兄ちゃん」


「ん?」


「おはよう」


 チュッ。リップ音が響く。


「なっ……!」


「今日から、お兄ちゃんを気持ちよくするって決めたんだもん。だって私、サキュバスだから」


「そ、そのくらいじゃ俺は落ちないからな。仕方ないから買い物は付き合ってやる」


「わーい! ありがとう、お兄ちゃん♪」


 頬にキスをされただけ。口じゃないはずなのにめちゃくちゃドキドキした。


『だって私、サキュバスだから』


 ほんの一瞬だが、ルリエに色気を感じた。


 もしかして俺、ロリコンの道に片足突っ込んでないか?


 俺は友人と同じ道を辿りそうな危機感を感じながら、朝食の準備を始めるのだった。

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