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第8話 復活そして反撃開始

「おい、起きろ。稲城、起きろって...!」

肩を叩かれ、稲城はぼんやりと目を覚ました。身を動かすと、小石が擦れる音が耳に届いき、自身がアスファルトに転がっていたことに気づいた。

「ここは…たしか、あの時」

意識を失う直前に、後頭部を強く殴られた記憶が蘇る。頭に手を回すが、触っても痛みはなかった。

「目が覚めてよかった。目、見えるか?僕のこと、わかる?犯人みた?」

声の主を探して稲城は顔を上げる。

「五木...」

目の前には五木が膝をついて、稲城の顔を覗き込んでいた。あの爆発の中からどうにか生き延びたらしい。服は焼け焦げていたが、怪我はなさそうだった。

「お前、よく無事で…黒沼さんは…?犯人は見てない。気づいたら意識を失ってて」

稲城が口を開くと、五木は力なく苦笑を浮かべた。

「そっか、良かったよ。僕は見ての通り。黒沼さんも無事だ。というか、黒沼さんが助けてくれたおかげで、今こうしてここにいるんだけど。寝てたのに、あの人、急に起きて僕と自分のシートベルトを外し始めて。何事かと思ったら、魔法で外に引きずり出してくれてさ。おかげで爆発にほとんど巻き込まれなかったんだ。」

五木の視線を追うと、塀の近くで黒沼がぐったりと横たわっているのが見えた。顔色は悪く、五木と同じように服が少し焦げていたが、大きな怪我があるようには見えなかった。

「吐くものもなくなって、あれでもだいぶ落ち着いたんだ。とりあえず、僕の魔法で安全な場所に移動させて、他の人を探しに行こうとしたんだけど、バイクが見えたから…それで、お前にも何かあったのかもって。生きててよかった。」

安心したように稲城の肩に手を置く五木に、申し訳なさが込み上げてきて稲城は下を向いた。

「そういえば、合流予定だった班から、どこにいるってメールが来てたんだが…」

「多分、隠ぺいが解除されたのが罠だったんだ。僕は適性がないからよくわからないけど、やられたって、倒れる前の黒沼さんが言ってたから、僕たち犯人に魔法で隠されてるんだと思う。稲城がメールをもらったのが事実なら、携帯で連絡取れたかもしれないけど…熱で、僕のスマホも黒沼さんの携帯も壊れちゃって。お前の携帯は…あそこで粉々になってるから。検証できないんだけど」

代用に渡されていた携帯は、何度も踏みつけられたように無残な姿で破壊されていた。外部と連絡も取れず、動ける自分たちには適性がなく、一番頼りになる黒沼は現在戦力外。八方ふさがりか、と稲城は自分の足を見た。

「伊藤さんに怒られるな」

力なくそう呟けば、五木は苦笑交じりに天をあおいで口を開く。

「僕は篠宮さんにもだよ。さっきは無事逃げられたっていたんだけど、人形の腕が焦げてたんだ…。多分、逃げるときにケガしたんだ…使わないつもりだったのに。」

五木の言葉に稲城は内ポケットを覗き込んだ。思えば、あれだけの痛みがあったのに、目が覚めた時痛くなかった事を疑うべきだった。内ポケットの中では篠宮に渡された人形の頭がはじけ綿が飛び出ていた。もし、人形を持っていなければこうなっていたのは稲城だったのだろう。人には絶対に見せられないと、五木の視線が戻る前に視線を五木に戻す。

「こんな目に合ったんだ。篠宮さんだって許してくれるさ。元々そのために渡してくれてたんだから。」

自分にも言い聞かせるように稲城はそう言うと五木は少し笑みを浮かべた。


ふと視線を感じ稲城が、あたりを見ると横になっていたはずの黒沼と目が合った。

「黒沼さん…!起きたんですか?!」

おう、と手を挙げた黒沼はヨロヨロと立ち上がり二人のもとに移動する。

「お前らのそんな声聞いてたんじゃ。寝てなんていられなかったからな。」

顔色は悪いままで呼吸も荒いがその表情には最後別れる前まで合った焦りや怒りといったものは見られず、いつも通りの黒沼がそこにいた。

「篠宮には怒られる前に、お礼言ってやればいいだろう。そしたらあいつだって怒れないだろうしな。とりあえず、五木。お前、自分のバイクからあれ持ってこい。お前も捜査員なら、持ってきてるんだろ。」

そういわれて、五木ははっと立ち上がるとバイクに駆け寄り、リアボックスから缶を取り出し駆け戻ってくる。いぶかしげに見ている稲城の前に出されたのはゼロカフェインと書かれたいつもとは少し違うパッケージの見慣れた栄養ドリンクだった。

「缶!しかもノンカフェインかよ。」

「いいじゃないですか、眠気覚ましじゃなくて補給目的なんですから。」

渡された缶を嫌そうに見てはいたが、黒沼は背に腹は変えられないかと、缶をあけ一気に飲み干し次の缶に手を伸ばし飲んでいく。

「ふ・・・」

三本目を飲み終えたところで目を閉じ息を吐いた黒沼の顔色が少しだけ色を戻す。

「さて、反撃と行くぞ。五木、稲城。ガキにやられっぱなしじゃ恰好がつかねぇ」

「がき?」

黒沼の言葉に五木が首をかしげる。

「あぁ、捜査員の乗った車を襲撃したクソガキだよ。俺らが捜してたあの家の女子だった。こっちは必死で捜してたっていうのに…」

五木と稲城は驚いたように黒沼を見つめる。

「あの女の子が、俺たちを…!?どうして…」

「さぁな、だが、俺らに攻撃してきてたのは確かに伊藤が持ってた写真の顔だった。」

犯人を見逃さないなんて捜査官の鏡だろ?と少しふざけた口調で話す黒沼に一瞬張り詰めた空気が緩む。

「さっきはだまされたが、今度こそ正真正銘限界みたいだ。層が薄い。こんなんじゃ、すぐに見つかってしまうぞ。犯人ども。覚悟してろ」

黒沼は、ポケットから煙草を出し咥え、にやりと笑う。

今の今まで死にかけていたのだから少しは控えてほしい。と稲城は思が、黒沼はすでにやる気になっているようで、腕を回しながら肩を鳴らしている。

魔力も回復したのか黒沼の煙草の煙は、空気に逆らったような動きを見せていて、この栄養ドリンク本当に合法なんだろうかと、五木と稲城は缶とお互いの顔をみて苦笑した。

「五木、お前はどうするんだ?お前の熱に弱かっただろ。バイクに予備あるのか?」

五木の方を振り返った稲城に、五木は困ったように眉を下げる。

「予備は車と一緒に燃えちまって、手元にあるのもこんな様だ。」

焦げた服の中から五木が取り出したのは棒付きの飴だった。飴部分が溶けて包装紙からはみ出て棒を伝って固まっていたり、他の飴とくっついてしまっている。

「いくつかはつかえなくはないんだけど…効力は」

「察しってやつだな。」

「ですね。」

2人の会話に入ってきた黒沼の言葉に五木は苦笑しながらも飴をポケットに戻し、肩を落とした。

「今度は僕が戦力外なんで、邪魔にならないようついていきますよ。」

「それが良いだろ、こんなとこに残ってまた死にかけられたらたまったもんじゃない。まずは、この隔離された範囲からの離脱。それから連絡手段の確保か先に行った班と合流するぞ。準備はいいか」

「はい」

「『出口まで導け』」

二人の返事に黒沼はふうと口から煙が吐き出し、道を進み始めた。

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