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第13話 刃物使いと人形使い

「『解除!!』」

降り注ぐナイフに対して、1つ目の熊の人形を杖を振るい、元の大きさに戻し攻撃を防ぐ。手のひらサイズだった人形は、篠宮より大きくなったその体で、三人に覆いかぶさり、攻撃を受け止める。

「変化の魔法が使えるなんて知らなんだな。せやけど、まだまだ。最後まで防げるかな『飛べ』『貫け』『飛べ』『貫け』」

変化の魔法じゃねえよと呟きつつ篠宮は、両親を更に人形の中央へ移動させた。青年の懐から飛び出したナイフが、次々と人形に突き突き刺さる。

「…本当に羨ましいストック数だな。」

鈍い音とともに綿が飛び散り辺り白が舞う。しかし、人形は微動だにせず、篠宮たちを守っている。巨大化させた人形には、特殊な金属が入っている。ある程度の攻撃なら防げるが、正面からの攻撃でなくなった瞬間、アウトだ。青年がそれに気づく前に次の一手を打たなければならない。両親を逃がす為にも。次の人形を握りつつ、タイミングを見計らう。

「金属入りの人形だけなん?そんなんじゃしょーもないやん。もっとなんかやってみぃや。捜査官!」

「ナイフ野郎にだけは言われたくないな!望み通り『食らいつけ』」

篠宮は持っていた鰐の人形を放り投げる。人形の鋭い歯が青年の腕に食らいつく。

「いッ『切り裂け』」

痛みから青年は腕を振るうが、鰐は離れず。青年はすぐに鰐を排除しようとナイフを呼ぶ。しかし、ナイフによって鰐の頭と胴体を切り離されたが、切り離された首はそれでも青年に喰らい続け青年の腕から血が流れる。

「人形に凶悪ものつけるなんて!邪道やろ!このッ、全然離れへんッやん!!」

「可愛がる目的の人形じゃないんでね!!!『噛み切れ!!』」

篠宮が魔法を使うのとほぼ同時に、青年は腕と鰐の歯の間にナイフを差し込む。

「『切り裂け』」

鰐の口が裂け、頭が上下に分かれるがそれでも鰐の口はしっかりと青年の腕に噛みつき、噛み切ろうと動く。

「ッ!!」

「魔法を込めて作った人形なんだ。その程度で、止まるわけないだろ」

「『切り刻め』くそ、まだ離れへん!これ以上は自分のナイフがかする…!!」

青年が鰐に苦戦してる間にポケットから、それを取り出し両親を振り返る。

「今から隙を作ります。目を閉じて!合図したらすぐ走って下さい。」

「ッ」

両親の目が閉じたのを確認して、ピンを引き抜きそれを放り投げる。

「なにを!?」

青年が物を目に入れた瞬間、それが眩い光を放つ。

「スタングレネードか!!ッく!」

スタングレネードの閃光と爆音に包まれた室内は一瞬、混乱と静寂が支配する。篠宮自身も多少なりとも影響を受けたが、それを無視して準備してるだろう両親へと叫ぶ。

「行ってください!」

篠宮の声と同時に、両親は一度篠宮を振り返った後、止まることなく走り出しす。

「くそ、どこや。耳が…!目ぇ…!」

噛まれている痛みとスタングレネードの影響で、動けなくなっている青年の横を両親が駆け抜けて行ったのを見て、篠宮の気が一瞬緩む。ひとまず両親は逃がせた。

「『舞え狂え』」

青年の声にハッとした篠宮だったが、一瞬遅く部屋の中をナイフが縦横無尽に動き回り、篠宮の体を切り裂いた。

「ッ…」

篠宮の目の近くを切られ、血が目に入り視界が奪われる。腕や足からのも傷ができ血が出ており、ジクジクと痛む。その痛みで動きが鈍り、まだ飛び回っているナイフの攻撃さらに付け、攻撃の波から抜け出せなくなっていく。

「…。両親には逃げられたけど、一般人くらい後から何度でもできる。」

頭を押さえつつ、影響化から立ち直ったのか青年が忌々しげに出口を見てから篠宮の方に視線を向ける。切り刻まれた鰐は、魔法の効果が切れ無残に床に落ちていた。

「ハナからこうしておけば良かったわ。魔法使いのくせに魔法以外も使うとか、特殊系統なんやのうて邪道系統やん。魔法使いやめたら。」

「やめられる…ならやめ…てるさ…。だが…ハァ…今は…、魔法使い…の捜査官なん…でね。…邪道…だろうが…なんだ…ろうが…、守るため…ならなんだっ…て使う…。」

相変わらず、辺りを舞うナイフは篠宮に攻撃し続けている。このままでは、致命的な攻撃を食らう前に出血多量で死ぬことになるだろう。

「あっそ。ほんまに捜査官ってやなやつばっか!『貫け』」

篠宮はナイフを振り下ろした青年を見る。若い。若い青年だ。犯罪を犯す魔法使いは若い。思春期に目覚めやすく、目覚めてすぐ罪を犯すからだが。ここまで殺しに躊躇がない相手も珍しいと思ってしまった。

「『飲み込め』」

迫ってくるナイフを防ぐため、ウエストポーチから人形を投げる。これで後2つ。人の頭ほどのそのペリカンの人形は、投げ出されると同時に口を開き次々とナイフを飲み込む。

「頭悪いな、壊されて終わりとか思わへん分け『戻れ』ホラ、これで…?戻らへん?」

青年の魔法は発動し、一部のナイフたちは青年の下に戻ったが、ペリカンの口に収まったナイフは戻ることなく、ペリカンもその場にたたずんでいる。

「…なんなんだよ!あんたの魔法。巨大化したり、自分で動いたり、質量以上のものを飲み込んだり、万能すぎじゃん!!」

人の良さそうな青年の皮が剥がれ、幼い感情が出てきている。この青年もあまりいい環境にいたわけではないのだろう。

「邪…道って言った…り、万能…って言っ…たり、落と…すとか褒…めるか…どっちか…にしたら…どうだ…?それ…とも、羨ま…しい…だけか…?」

「喧しい!『貫け』」

友人の為に復讐に走った少女は、壊れかけていたと黒沼は言っていた。大切な人の為に行動した人ですら、壊れるのだ。ほぼ無関係の篠宮を殺そうとしているこの青年は、どうなのだろう。もうすでに壊れてしまってこうなのか、元々の性質なのか。

「『飲み込め』」

「『切り刻め!!』」

ペリカンが飛んできたナイフを飲み込む瞬間に別のナイフがペリカンを切り裂く。綿が飛び散り、首と胴の分かれたペリカンが床に落ち動かなくなる。さらに、1本のナイフがポーチを切り裂き、転がりでた人形も裂かれる。

「攻略法さえわかったらこっちのモンやん」

「人形…なもんで…ね。」

こういう時、篠宮は黒沼の魔法が羨ましくなる。形のない彼の魔法は基本的に防ぐ方法がないからだ。

「これで終い。てこづらされたけど、やっぱりこの程度やったな。捜査官さん。」

元の仮面をかぶり、見下ろしてくる青年に笑みが出る。

「何わろとんのさ。」

「いや‥、青い…なと…。」

青年が怒りの表情を浮かべる。

「『飛べ』『貫け』『切り裂け』『抉れ』」

青年の魔法で残っていたナイフがすべて浮き上がり、篠宮に向かってくる。どうやらもうストックはないらしい。なら出し惜しみしなくてもいいだろう。

「『飲み込め』」

「は…?」

篠宮の言葉と共に、首だけになったペリカンが、ナイフめがけて口を開き全てを飲み込む。

「なんでなん…」

「"巻き付け"。鰐だって動いただろ。」

唖然としている青年に畳み掛けるように、服の中にいたそれを投げつる。長い体をくねらせたそれは、青年の首に巻き付き青年の顔をのぞき込む。

「こないな人形…」

「動か…ないほう…が良いぞ…、それは…本物の…毒蛇だ…から」

「毒蛇…?」

舌を出し動くそれに、ナイフを振り上げようとしていた青年の手が止まる。

「ヤマ…カガシって…日本で…最も…毒性の…高い…蛇だ。死亡例…もある。」

篠宮の説明に青年の顔から、血の気が引き少しでも蛇から離れようと顔を動かそうとするが、首に巻き付いているため離れられず結局背けるだけだった。

「『身代わり』」

最後に残った人形で、体の傷を全て失くす。

青年の目が再度見開かれる。青年の手に拘束具をつけ、手に持っていたナイフをペリカンに食わせた後、その他の武装を解除していく。

「奥の手っていうのは、残しておくべきなんだよ。」

ほぼ裸状態にした青年の両手足を縛り毛布で簀巻きにし、轡をした篠宮は、ぺたりと床に座り込む。

役目は終えたとばかりに蛇が、青年の首を離れ篠宮の腕に巻き付きながら体を登る。

「投げてごめんな。」

ゆるりと体をなでると、がぶりと噛みつかれ蛇がそれなりに怒っているのを感じる。

噛まれた篠宮を見て、一瞬ザマァみろといった顔をした青年だったが、篠宮が何の反応も示さないことに困惑し、眉を寄せる。

「本物のヤマカガシを連れて歩けるわけないだろ。ちょっとは考えたらどうだ。魔法使い。」

転がった青年を見下ろし、篠宮は意地悪く笑った。

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