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第7話 25でも食べれますか?

「私は一応、神埼さんの記憶違いと言うか、誤ってる記憶の内容を把握しておきたいの。その上で危ない考えがあったら私が訂正していきますからね!」


俺は室内の椅子に座り出されたお茶を飲んで、ひとつ朝倉さんに頷いた。


「それじゃ、最初にだけど。ここにいる看護師はそれなりに訓練というか、慣れてるからいいけど、街中とかで女性に声をかけられる事もあると思うの」


朝倉さんの声色というか、喋り方が少し変わった。

なんだろう、まるで弟や子供に対する喋り方のようにも感じられるようになった。

言ってることは、そりゃそういう事もあるだろうなと思うような内容だ。


「でも基本的に男性はその相手に返事をしちゃダメなの。目を見るのもダメ、触られたら振り解かないと危ないよ」


………この世界の女性は猛獣か何かなのかな?


「世の中の女性全員がそうだとは言わないけど、中には何考えてるか分からないのもいるし、男性を拉致監禁しようとする輩もいるから」


「拉致って……そんなら事したら警察が動きますよね?」


「まぁねー……でもワンチャン狙いの女ってものいますからねぇ」


「ワンチャン狙いも何も、拉致監禁したら問答無用で逮捕なのでは?」


「そうか、それも知らないんだね。例えば犯罪者であっても、男児を妊娠してると発覚したら犯罪者であっても待遇が変わるのよ」


「そんな事があっていいんですか!?」


ちょっとじゃなく、かなり引く話だな、それ。


「男児の情操教育上、母親と引き離した育児は悪影響があると言われてて、犯罪歴に関係なく釈放をされたケースは結構多いのよ、もちろん育児放棄が認められたら即座に再逮捕だけどね」


朝倉さんも自分で入れたお茶を一口飲む。


「今はその辺りの法改正もされて、妊娠してても問答無用で子供を引き離す事になってるわよ」


「男児を妊娠できる可能性に賭けて、男を拉致監禁って……それくらいに男を出産することに価値があるんです?」


「宝くじを買うよりは可能性は高いよ。男児を出産したって経歴はこの国に置いてかなり重いの。年金は無償で特別給金が貰えるようになるし、育児にかかる消耗品や学費は申請すれば完全免除。男性を産んだというだけでもステータスになるし、自分の生活にだって支援金で困らなくなるの」


「それって男を産んだ場合ですよね。逆に女の子が産まれたらどうなるんです?」


「何も無いわ。そういった支援は一切ないのよね。でも男児を産めたらそのメリットは大きいの。刑務所じゃ効力は無くなったけど、出所後は男児を産んだメリットを存分に活かせるよ」


だから宝くじ感覚でワンチャン狙いで拉致監禁で強姦か……。

それで妊娠できなかったらと思うと大博打もいいところだ。いや、それくらい男不足で困窮しているって事なのかも。


「まぁ、普通じゃ計画性もなしで妊娠しようなんて人は居ないわ。人工授精だって無料じゃないもの。それ相応に働いている人じゃないと、そもそも出産というステージにすら上がれないわ。更に言ってしまうと人工授精だって100%着床するなんて保証はないの、失敗したからもう一度人工授精しようとしたら、当然その分の費用は追加で発生するわ」


なるほどな。そうなると失敗し続けて貧困になる人も居そうだなぁ……。


「そういったコストを度外視できるから拉致しちゃえばいいって危ない考えを持った人もいるのよね。でもねー、そんな事をすれば男性は心的ストレスを抱えて、最悪不能になった……なんて話もあるの」


そりゃそういうこともあるだろうなぁ……。

聞いてる話だと男って少ないんだろうし、誰かの暴走でトラウマになって不能になんてなったら、周りからめちゃくちゃ非難されそう。


「だから女性からの強姦については厳罰化しているの」


「ちょっと待ってください。それって男側からだとどうなるんです?」


「うーん、男性側からの強姦なんて話はあんまり聞いたことがないかな……」


無いのか。

俺の記憶だと、どっちもあっただろうけど件数でいったら圧倒的に男側のほうが多かったはずなんだけどな……。

というか、どういうことなんだろう……。この体の持ち主の名前は神埼 守で、俺は違う世界からこの体を乗っ取ってるって事なのか?

それとも、ここは未来とか?

駄目だ、何も分からない……。


「ちなみに、今は何年なんです?」


「ん? なにその質問。今は2025年だよ」


「元号は?」


令命れいめい7年だね」


令和じゃないのか。

でも西暦は一致してるってことは……ここはパラレルワールド的なものなんだろうか……。


「私からも質問していいかな?」


「はい、どうぞ」


「神埼さんは女性に嫌悪感はないの?」


なんだその質問は。


「別に、女性嫌いじゃないですよ。こう見えて未経験って訳でもないですし」


「え!? 経験あるの!?」


「えぇ、まぁそれなりには」


なんかすごい前のめりになって朝倉さんが聞いてくる。


「初めての人って、どんな人?」


「えーっと……」


昔の彼女、オタク趣味が合うかなと思って付き合いだしたけど、相手はファッションオタクだったんだよな。

実際はぜんぜんで、俺のオタク趣味までやめさせようとしてきて困ったもんだった。

でもそんな事は言う必要はないか。


「普通の人でしたよ、でも彼女は俺よりもずっと社交的でしたね」


「痩せてた? それとも太ってた?」


なんでそんなことを聞くんだろうか……。


「痩せ型だったと思います、個人的には肉付きがあるほうが好みですけど」


「なら、私みたいなスタイルは、どう?」


朝倉さんは細くもなく太くもないかな、俺としては丁度いい感じだ。

それより目立つのが胸の大きさだな、Fカップくらいありそう。


「あ、コレを見たね?」


っと、視線を読まれたか。

朝倉さんは胸を強調するように胸の下で腕を組んで持ち上げて見せた。

さすがにマジマジと見るわけにもいかないので、目線はそらした。


「すみません、大きいなと思って」


「大きいのは好き?」


ちょっと待て。

これひとつ間違えたら大変なことになる地雷原なんじゃないか?


「大きいの好きですね」


「ってことはやっぱり小さいのが好きなの?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「なら、どっちのほうが好みなの?」


おうふ。

やはり来たよ、踏み絵が……。

しかし甘いな、こういう時は中間を捕らえる返答が間違いないのだ!


「選べるものではないですよ、どちらも等しく魅力的です」


「ふーん。やっぱり神崎さんって変わってるね」


「そんなに変な回答でしたかね……?」


「男性は選べる立場だからね、こうだと言えばソレしかないの。それだったら胸が小さい人と大きな人、一緒に迫られたらどうするの?」


「どうって……」


同時に迫られた経験なんてないんだけど!


「ほら! そうやって迷うって事は、どっちでもいいの?」


それに答えるのは難しい。正直言ってしまえばそんなものは

でもここで聞かれてるのは肉体関係を持てるかどうかってことだよな? たぶん。


「えぇ、まぁ……」


求められるだけでも十分嬉しいし、そこに嫌悪感はないな。


「なら、年齢は? 相手が何歳までなら許容範囲なの!?」


随分と前のめりになって朝倉さんが聞いてくる。

なぜか荒くなってる鼻息が俺の顔にかかってる。


「年齢か……特に考えたことありませんけど、40歳くらい? いや、健康的で魅力的な人だったら50歳まで?」


「………若ければ若いほどいいとは思わないの?」


「そりゃそういう考えもあるでしょうけど、子供っぽいのはちょっと」


中身は中年のオッサンだしな。

こんなオッサンを相手してくれる相手も居ないだろう。


「わ、私は25歳なんだけどっ!」


「え、あ、はい」


「25歳はどうですか!?」


マジでなんなんだこの話。


「十分魅力的だと思いますよ」


「実はね!!」


急に大声を出したかと思ったけど、すぐに落ち着いて吐き出すように語りだした。


「私、人工授精を何度か試したのよ……でも着床はしてくれなかった。着床率の高い新鮮な精子って評判のものも試してみたんだけど、それも失敗しちゃって……。しかもさ、着床率が高い精子って1回で100万円以上もするの。それで去年も駄目で、一昨年も駄目で、今年も試して駄目なら諦めようかなって考えてて」


100万円以上も! 精子バンクの精子ってそんなに高いのか。


「もちろん完全に諦めるわけじゃないけど、値段の安いやつでいいかなって思ってたんだ……。でね、それで……もし神埼さんが良ければでいいの」


俺は、その先の言葉を脳内で処理するのに時間が掛かった。

予想外のことを言われると、思考が停止するって本当なんだな。


「今年の分、180万は貯めてて……お礼として渡すから……私に種付けしてくれないかな?」


「………ふぁ?」


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