目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第9話 外堀はゆるやかに埋めていくべし

「あのね、成人した女が未成年の男性と婚姻関係でないのに、契約も交わさず通姦したらそれだけで犯罪なの、知ってる?」


「知ってますけど、でもバレなきゃ問題ありませんよね!?」


「こうしてバレてんだけど?」


「………アッ………」


論破された朝倉さんはまた静かに土下座のポーズに戻った。

なんだか見てて可哀想になってきたな、それに女性の土下座を見るってのも、俺の精神衛生上よろしくないな……。


「いいですから、朝倉さんも立ってください」


「許してくれるんですか?」


「許すも何も、まだ何もしてないじゃないですか」


天使だわとか、素敵なんてボヤいてるけど、それはスルーすることにする。

とりあえず、朝倉さんは開きっぱなしだったファスナーを戻して橘さんの横にある椅子に腰をかけた。


「良かったわね、許されて。相手が相手だったら今頃警察沙汰だったわ」


「私だってそのくらいの分別はあります、本当に和姦だったんですって」


「だからまだ何もしてませんけどね!!」


いい加減、うら若き女性から和姦という単語を聞くの辛いわぁ……。


「とりあえず、どうして暴走したのか経緯を教えてくれる?」


至極真っ当な事を橘さんが言うので、俺はそれに従って経緯を説明すると、穏やかだった橘さんの顔色はみるみると神妙なものに変わっていった。


「………なるほどね。朝倉が暴走したのも頷けるわ」


「ですよね? 私は悪くないですよねぇ!?」


「悪いか悪くないかで言えば悪いわよ、でも私もあんまり責められない立場になりそうだから、これ以上はやめておくわ」


ん? なんか流れが変わった?


「単刀直入に聞くけど、私はどうかしら? 私も綺麗であろうとは心がけてるつもりなのよ?」


そう言って、橘さんも胸元を軽く開いてアピールしてくる。

元々の色気がある人だから、そのポーズの破壊力は中々のものだ。

なんだろう、精神的な部分は落ち着いていても、肉体的な部分は激しく自己主張してくる。

落ち着きたまえ、神埼くん!

いや、俺なのか? なんだかもうよく分からないな。


「君は女への要望というか、そういうものは無いの?」


俺の顔を覗き込むように橘さんが見つめてくる。

その仕草にも色気を感じてしまうな。


「ありませんよ、そんなの」


注文を付けられる立場じゃないしな。


「いい事を教えてあげる。あの遺言状通りなら君は分からないだろうけど、この世の男性は基本的に性欲が薄かったり、そもそも無かったりするの」


それはまた、若くて性欲がないって中年の俺より酷くないか?


「だから女性側は特定の男性が好む女性像というのを整える必要があるの。もちろんそれは個人差があるわ。20歳以下が良いとか、100キロ超えてないと魅力を感じないとか、体臭がキツくないと嫌だとか、ね」


「………なんかどれもマイナスイメージなものばかりですね」


「それでも、その男性が性的に興奮してくれるなら、女はそれに合わせるのが常識なの」


凄い常識だな、俺には理解できないぞ。


「まぁ、それも運良く周りに男性がいた場合の話だし、私が学生の頃にいた同学年の男性は30代以上の女を希望してたから、私じゃどうしようも無かったわ」


「私が学生の頃は希望身長150センチ以下って条件に引っかかってダメでしたね……、その他にも追加で希望体重が80キロだったので、背の小さい子達はみんな競うように食べてましたよ」


なんかあまり考えたくない光景だな………。

別に大食いの女の子もいいと思うけど、誰かの為に無理やり食べてると思うといたたまれないな。


いや、待てよ。


それってもしかして、意図的に不可能な条件にしてるんじゃないか?

学生なら周りは全員10代だろうし、大学でも20代がいい所だろうな。希望の30代となると一人もいないから逃げる口実としてはピッタリだ。

男には性欲が無いって話なら、そういった無理難題を押し付けて逃げてる可能性もある訳か。


「それで君の場合は希望条件は無し、年齢の足切りも魅力的なら50代でもって話じゃない? それって条件があって無いようなものだと思わない?」


そうなると俺は、誰でもOKで来る者拒まずな男という事になるのか。まぁ、実際そうだけどさ。


「一応補足しますけど、魅力的な女性ならって話ですからね?」


「それで、私は君から見たら魅力的なのかしら?」

「私も! 私もそれ! 気になります!」


「まぁ……そうですね」


そう答えると2人は花が開いたかのように喜んで手を取り合いだした。

うーん、どうする? この流れって2人を抱くって事でいいんだよな?

倫理観とかどうなってんだ?って、そういう世界じゃないのか。


2人とも子供を望んでて、それでいて若くて健康体の俺がいる。

ひとつ屋根の下で、部屋の外は箱庭状態。

どうせすぐに病院からは出れないなら、これも人助けだと割り切ればいいのか?

いや、ここはひとつ冷静になろう。

それだけじゃない、俺が本当に彼女たちを抱けるのか?って部分も問題なんじゃないか?


って思ったけど、全然行けそうだわ。

神埼くんは俺が思ってるより元気だわ。


「ここにはお風呂もあるし、綺麗にしてからでもいいけれど、君の好みも聞きたいわ」


「………と、言いますと?」


「匂いが残ってる方がいいのか?って聞いてるの」


赤裸々すぎる!

しかし、条件じゃなくて俺の好みか……。

というか、行為をするのは決定事項なのね。


「匂いはあってもいいと思いますけど、最初は湯船に入ってからの方が……」


「朝倉」


「承知しました!」


早いな!まるで阿吽の呼吸のように名前を言われただけで何をするべきか理解したんだな。

朝倉さんは早足で風呂場の方へと向かい、すぐに湯船を溜めるお湯の音が聞こえてきた。

そっちに気を取られていたら、今度は橘さんか俺の横に立っていた。


「私ももちろんお礼はするわ、だからよろしくお願いね♡」


可愛らしくウインクまでされてしまった。

完全に外堀も埋められちゃったし、ここまでされたんだから俺も覚悟を決めるとするか!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?