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第12話 対戦よろしくお願いします

ミッションコンプリート!

なんて言えるほどでは無いけど、ひと仕事終えたので、椅子に座ってテーブルに置きっぱなしになっていた俺の分のお茶を飲んで一息つく。

橘さんは満足してくれたようで、今はベッドの上で肩で息を整えながら余韻に浸っているようだ。

そしてもう1人の朝倉さんだけど……。


「…………」


してる最中は興味津々で見ていたけど、途中からマネキンのように固まって動かなくなってしまったので、とりあえず様子見で触らずにいた。


そのまま3人とも無言のままで数分程度の時間が流れて、最初に口を開いたのは朝倉さんだった。


「………橘先生、どうでしたか?」


「………想像以上に凄かったわ………」


プレイの評価を直で聞くのはだいぶ恥ずかしいな……。

下手だなんて言われたら立ち直れなかったかもしれないぞ!


「なんか途中から聞いた事ないような声を出してたので、苦しいのかと思いましたけど……」


「苦しさもあったけど、それ以上に……なんというか……凄いとしか表現のしようがないわ」


駄目だ、これをずっと聞いてたらなんか大変なことになりそうだ。

俺はとりあえず、あまり2人の話は聞かないようにして急いで服を着てから一言断って外に出た。


既に日は傾き、空に赤みがかかり出していた。


約束があるのでエレベーター側には向かわずに、俺は外周のフェンスの方へと向かって行った。

下を見ると建物の前に小さなロータリーがあり、その先には厳かな門がある。

よく見るとこの建物の周りにもコンクリートの外壁があり、病院じゃなくて刑務所のようにも見える作りだ。

その壁の奥にはさっきも見えた木の壁があり、隙間から街並みが見えるとかそういったものは一切無い。


しかし、流れされるまま目覚めた初日から、女性に手を出してしまった訳だけど、色々とすっきりしたのは事実だし、役得でもあるので特に後悔とかもない。

そもそも俺は貞操観念とかあまり深く気にするタイプでもないし。


まぁ、責任問題となると話は変わるんだけど………。


そのへんは神埼少年も了承済みということで、俺としては気にしないことにした。

なんかそれ以上に女性側の熱量が凄いというか、随分と導入までは積極的だったしなぁ……。

色んな話を聞いてからは、ある種の人助けというか、そういう気分でもあった。

でもなんというか、一抹の虚しさというのは拭いきれないけど。おそらく賢者タイムの副産物だろう。


それよりもこれからの事も気になるな、神埼少年の母親の事もまだ何も分からないし、正直どう接していいのかも分からない。

家族と言われて俺が思い返せるのは、俺を完全に拒絶した妹と、見栄えのいい妹を贔屓する父と母。

神埼少年の母親とは、なるようにしかならないだろうけど不安は募っていく、向こうは俺の事を神埼少年と思ってるだろうけど、俺はまったく違う人間だしな……そういうのも含めて俺が合わせるしか無いんだろうなってのも、なんとなくだけど飲み込むしかなさそうだ。


あーもう、面倒事なんて全部忘れてゲームに没頭したい……。ドラ〇エⅢのリメイクもまだクリアしてなかったのになぁ……。

FC版もGB版もSFC版もアプリ版も全部やったけど、やはりドラ〇エⅢはいつやっても面白い。こういうのを完成度の高いゲームって言うんだろう。


それも、もう出来ないのかな……。


ゲームが無理でもせめて漫画とかラノベくらいは、ここで読ませて貰えないだろうか。


………そういや、ドラ〇エとかFFって、こっちだとどうなっているんだ?

ここって俺が生きてきた世界と中身は似てるけど、違う世界って事なんだよな。って事はコンテンツも全く違う発展を遂げててもおかしくないんじゃないか?

俺が知らないシリーズ物のゲームとか、大人気のアニメや漫画が世の中に溢れてると思うと、なんだか気分が上がってくるな。

即売会とかコスプレ会場みたいなのもあるんだろうか?

退院したらその辺りも調べてみるのも楽しそうだ。

早速だけど、スマホでもいいから神埼少年がそういったデバイスを持ってないか聞いてくるか。


そう思って部屋に戻ろうとしたら、室内から橘さんが出てきた、もちろん白衣をしっかりと着ている。

俺と目が合うと、少しはにかんだ感じで微笑んでくれた。


「ありがとう、なんか少し視野が広くなった気がするわ」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


「なんで君が私に感謝するのよ、ホントに君は変わってるわ」


そう言って橘さんはエレベーターに向かっていく。

内側からは鍵が必要ないようで、扉に手を掛けたらすぐ開いた。


「私はまだ仕事があるから、また明日ね……守くん」


「はい、また明日、橘さん」


お互いに軽く手を振りあって、彼女はエレベーターの中へと消えていった。

さて、そういやあと1人いたっけか。

俺は気を取り直して部屋へと戻ると、朝倉さんはまだ布団の中に入ったままだった。


「大丈夫ですか?」


もう一度、さっきと同じ質問をすると朝倉さんは俺の目をしっかりと見て返事をしてきた。


「はい、もう落ち着けたし……大丈夫!」


さっきのテンパってる感じはを潜めて、今は落ち着いてまた年上のお姉ちゃんみたいな雰囲気を出していた。


「すんごい今更ですけど、仕事は?」


「私の仕事は神埼さんの看護だから、一緒にいる事も仕事のうち!」


俺専用みたいな言い方だな、実際入院患者が俺一人しかいないって言ってたし、そういう風に患者ひとりにナースさんひとりって勘定なのかな?

まぁいいか、俺はそのままベッドの脇に座って、朝倉さんのお腹の位置をポンポンと赤ん坊をあやす様に優しく何度か叩く。


「本当に慣れてるんだね、私は男の人がこんな事してくれるって思ったら、頭の中が真っ白になっちゃって……私が頑張らないといけないのに」


「頑張るとか考えすぎる事もないですよ。上手くやらなきゃとか、失敗したらどうしようとか、そんな心配する必要だってないんです。やってみたら、案外こんなものかって拍子抜けするかもしれませんよ?

もし、それでも不安なら俺がちゃんとリードしますから」


初めてだとやっぱ分からないよな、俺もそうだったし……これは俺の思い出したくない記憶だからあんまり掘り返さないでおこう。


「さっきの橘さんとシた事を見て、それでもまだ俺とヤってみたいですか? それともやっぱり辞めますか?」


俺もここまで話を聞ければ少しは理解してきている。行為をする事だけじゃなくて、色んな事柄において、主導権も決定権も本来は俺の方にあるんだろう。

それでも俺はこちら側の男性像に染まれるとは思えない。

長年ずっとそう生きてきて、いきなり社会のルールが変わりましたと言われても適応出来る気がしない。


「ふふっ、ならお願いしようかな………♡」


橘さんよりもずっと幼い感じてはにかみ、朝倉さんはようやっと布団から出てきてくれた。


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