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第13話 それは仕方ないよねという気持ち

時刻は朝の5時。私はいつも通りの準備をする。


「‪〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪」


シャワーを浴びつつ私はハミングをしている、こんなに気だるくて眠いのに気分が良い朝は初めてかもしれない。

昨日の夜の汗を流して身体を清めていく、彼はこんなものかと思うかもしれないと言ってたけど、慣れてきて目覚めた私は何度も夜通し彼を求めてしまった。

彼も苦笑いしながらも楽しそうに受け入れてくれたのはとても嬉しかった。


どころか、昨夜が人生最高の瞬間と言っても過言では無いと私は確信している! あんなんハマっちゃうわ!


シャワーから出て髪を乾かし、新しいナースウェアの袖を通していく。

昨日着ていたナースウェアはもうカバンの中にしまってある。

一通りの準備を終えて、ベッドを見る。

神埼さんはまだ熟睡しているようで、これだけ物音を立てても彼が起きる気配は無かった。昨日寝たの結構遅かったからなぁ……悪いことしちゃったかな?

少し掛布団がズレていたので、それを整えてから私は外に出る。


「いってきます」


神崎さんを起こさないように小声て言う。外に出て、私はエレベーターに乗り込む。

すぐに到着する目的の階で降りると、そこにはいつもの病棟内の風景、いつものナースステーション、そしていつものメンバー。

だけど、私のメンタルはいつも通りじゃない♪


「おはようございます!」


「おおー、朝倉今日は元気じゃん?」


「仕事がやっと出来ましたからね! これからもっと頑張らないと!」


私は看護師長の佐々木さんに挨拶をしてステーションの中へと入っていく。

女性の先生が務める男性専用病棟というのは基本的に凄く暇だったりする、だけどその分やれる技能や知識は多くを求められる。

半人前だとまずココには来れないのよねー。


「それで朝倉、アンタ昨日は夜勤いりだっけ?」


「いえ、違いますけど」


「だよね? それなら、なんでタイムカードが切られてないのさ」


「………あっ!」


ここの病棟のタイムカードは普通のそれとは全然違う。

男性専用病棟は看護師を含む従業員の出入りを管理されていて、その情報は同じ病棟で働く看護師であれば誰でも確認できてしまう。

これは相互の監視を目的とするもので、看護師の暴走を予防するためのもの。

この病棟の敷地の外に行くにはタイムカードを切らないと、外には出れない仕様になってるのよね。

つまり、タイムカードを切り忘れていたという言い訳は通用しないし、切られていないということは一晩中敷地の中にいた証明になってしまう。

普段、私はまったくそういうのを確認しないし、頭の中からすっぽ抜けてた!!


「夜勤じゃないのに、なんで病棟から出てないのよ」


私の退勤が押されていない理由はとっても簡単。

単純に家に帰りたくなかったから、それに力尽きちゃったからね!

でも、そんなの言える訳が無い!


「そ、それはアレです! 神埼さんのお世話を夜通し続けてましてね?」


いや、むしろお世話になったのは私の方だけど!


「んじゃ、ここまで残業だったって事ね?」


「はい! そうです!」


よし! なんとか誤魔化せそう!?


「それならなんで昨日の夜勤だった菊池に申し送りしなかったの? 彼女、貴女からの申し送りが無いって焦ってたわよ」


あっ、やっぱ駄目そうっ☆


「神埼さんは私の担当なので!」


「だから女性忌避感持ちの患者を相手に? 夜通し看護してたって?」


あーーーー、凄い睨まれてる!

そりゃそうですよね、気持ちはわかりますヨ!

私もそんなフザケた事を誰かが言ってたら100%信用しませんとも!

誰か助けて!って思ったけど、誰もが疑いの目をしてる!?

同期の佐藤さんは他の人よりも更に鋭い気がする!!

でも本当の事は誰にも言えないよぉー!!

口裏なんて合わせてないし、もしこれを神埼さんに抜き打ちで聞かれでもしたら……。


どうすれば……どうすればいいっ!?


「あら、みんな早くから揃ってるのね」


「橘先生、おはようございます。一応神埼さんの意識が回復しましたし、不測の事態備えて看護師全員早出にしてあります」


え?そんな連絡来てたっけ?


「それは大変よろしい。それで、随分と騒がしかったけど、どうしたの?」


「それが……朝倉が朝まで神埼さんの看護をしていたという話を聞きまして……」


アッ……橘先生までそんな目をしないで下さい!

橘先生には私の言葉が正しく伝わっているようで、呆れたようにため息をつかれた!


「朝倉の事については気にしなくていいわ。神埼さんの記憶障害の件は聞いているでしょう? その特別措置で上を使ってるのは知ってるわね?」


「もちろんです」


「あそこは中から外に出る時は鍵が無くても扉が開くのに、外から中に入る時は鍵が必要でしょう?

もし彼が何気なにげなく夜間に外に出て閉め出されてしまったら大変だから、鍵を朝倉に預けて徹夜で病室の外から見張るように、私からお願いしてたの」


「なるほど、そういう事でしたか。確かに朝倉の目にくまがありますね」


ほわあぁぁぁ!

橘先生!神すぎる!!

確かに私、鍵持ってる!!


「でも、それを佐々木に伝えてないのも、菊池に申し送りしてないのも、すべて朝倉の怠慢だから」


「え?」


あれ? ちょっと? 神様?


「そっちの方向でガッツリ灸を据えてあげて」


怒られたくないけど神埼さんとの関係を明らかにしたくないので、私は弁明せずにそのまま佐々木さんに怒られる道を選んだ。



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