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第28話 妹は心配性

由美さんと出会えたのは、俺とっては幸運だった。

話してみたら俺と同じレベルのオタクだということと同級生という事が発覚し、あれからずっと話し込んでしまった。

オタク談義が楽しすぎて施設の人から退室のコールが鳴るまで時間の経過に気がつけなかった。

交渉したけど延長は認められなかったので、由美さんがシャワーを浴びることが出来ないまま退室することになってしまった。

俺の配慮が足りなかったと謝ったけど、彼女は当分風呂に入りたくないから丁度いいなどとアホな事を言ってたので、結構強めに入るように説得しといた。


オタク仲間が出来た事以外にも、彼女から情報収集できたのもかなり大きい。


ヤる事は存分にやってしまった訳だけど、思い返せば俺が高校生の頃でも1人2人は妊娠して退学した、なんて話はあるにはあったな。

そう考えれば、向こうの世界もこちらの世界も大差ないのでは?

違いと言えば、男側の責任の重さだろうか。

こういった情報はとても有難いので、今後も由美さんとは二重の意味で密に連絡をとっていきたい。


そして、家まで送るという由美さんの提案は遠慮させてもらい、彼女とは駅前で別れた。

相変わらずジロジロみられたけど、そのままスマホの地図を辿って家に帰り、風呂掃除や部屋の掃除を終わらせる。

一人暮らしは長かったので、こういったスキルはちゃんと俺にもある。

家事も一段落したのでリビングで俺はあの謎の潜水艦女子高生のラノベを読んでいた。

一巻目だからかよく分からないけど、他の学校にも潜水艦があったり、それで海の向こうから来る機械生命体と戦うのが主な流れらしい。

潜水艦には魚雷や巡航ミサイルが搭載されてたり、切り札として波動砲みたいな物もあるみたいだ。

うーん。これはネタ的な作品として見るなら意外と面白いかもしれないぞ。

その潜水艦女子高生のラノベを読み終わる頃に、ヒナタが帰ってきた。


「ただいまー!」


「おかえり、風呂沸いてるから入ってきたら?」


「お兄ちゃんがやってくれたの? ありがとう、貰うね!」


そういや、ヒナタは運動系の部活をやってるらしいけど、なんの部活かは知らないな。

そもそも、俺はこちらの世界の事を学びたいがために、詩織さんの事とか、ヒナタの事をあんまり聞いていなかったな……。


ちょっと気が抜けてしまうと、俺はいつも自分のことばかりを気にしてしまう。


これじゃ前の世界の二の舞だ。今晩の家族の団欒は詩織さんとヒナタの事をもっと聞かせてもらおう。

そう思た矢先、俺のスマホが鳴った。相手は詩織さんだ。


『ごめんね、守。今日は仕事がトラブル続きで帰れそうにないの。ヒナタちゃんにこういう時の為のお金を預けてあるから、それで出前をとって頂戴』


「わかったよ」


『明日の夜は帰れると思うから、戸締りはしっかりお願いね』


「大丈夫だよ、こちらは心配しないで仕事頑張ってね」


『んふふ、ありがとう』


電話を終わると同時にヒナタがお風呂から出たようだ、まだホカホカと体から湯気が立ち上っていた。

今日は短パンとノースリーブを着てるのか。


「誰から電話だったの?」


「詩織さんから、今日は帰れないんだってさ」


「……えっ、そうなんだ」


「それで出前をとって食べてくれって言ってたけど、何が食べたい?」


「んー。お兄ちゃんが食べたいものでいいよ」


「そうじゃなくて、ヒナタが何を食べたいのか俺が知りたいんだ」


「私が食べたいものでいいの? それならファミレスの出前とろう!」


「ファミレスで出前なんかあるのか?」


「あるよ! ほらこれ」


ヒナタは俺の横に座って手に持っているスマホの画面を俺に見せてくれた。

そこには確かにファミレスのメニューが写真つきで並んでいて、値段もしっかり書いてあった。


「ヒナタはどれが食べたいんだ?」


「んーーー。私はこのデミチーズオムライスにしようかな。お兄ちゃんは?」


「俺はこのハンバーグセットにするよ」


「わかったよ、それじゃ頼んじゃうね!」


ヒナタは慣れた手つきでスマホのアプリを操作して、あっという間に注文を終わらせてしまった。

若い女の子ってそういう操作がものすごく上手いイメージがあるけど、ヒナタも例に漏れず上手かった、きっと手先も器用なんだろうな。


「40分くらいで届くって。それでこの本はどうしたの?」


ヒナタは俺が買ってきた漫画を手にとって、パラパラと読み出した。


「あぁ、駅前まで行って買ってきたんだ」


「えっ!? 大丈夫だった? 変な女の人に声かけられなかった!?」


声はかけられた。変かといえば……最初は変だったな、でも打ち解けてくるとだんだん普通に話してくれたから、最終的に変な女性だったか?と問われたら違う気がする。


「声はかけられたけど、変な女性じゃないぞ」


むしろ変な事をしたのは俺のほうだといっても良いかも。


「本当に? 今のお兄ちゃんってちょっと甘いところがあるよね?」


「そうかな、俺は普通のつもりなんだけど」


「一人で出歩くのもそうだけど、もっと危機感持ったほうがいいよ!」


それは大げさな気がする。

実際に出歩いてみたけど、ジロジロみられるだけで実害はないし……。


「ならヒナタは道端で男を見かけたら、所構わず襲っちゃうのか?」


「いや、それは違うけど……」


「ならヒナタの友達は?」


「ヒナタの友達だって襲ったりなんかしないよ」


「なら襲われてる男が目の前にいたら、ヒナタはどうするんだ?」


「そんなの、もちろん助けるよ!」


「そういうことだ。ちゃんと俺も人目の付く所から離れてるわけじゃないし、すぐに助けを呼べるところにいるから、問題ないよ」


「………うん、そこまで言うなら……」


そう簡単に通り魔に出会ったり、誘拐犯にさらわれたりなんて事はないだろうし、物なんかで釣られるほど俺は若くも無い。さすがにこれはヒナタの心配しすぎだ。


それから届いたご飯をヒナタと一緒に食べたり、雑談もしてヒナタがサッカー部だってことが発覚したり、また一緒に筋肉トレーニングをしたり、夜に一人でまた別のラノベを読んだりと、今日は本当に充実した一日を過ごせた。

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