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第30話 なんでそんな広まってるんですかね?

俺は樹里に先導されるまま学校へと向かった。

色々な人に見られるわ、何か言われるわで散々だった、背中の彼女も周りに顔を見られないように終始俺の背中に隠れていた。

学校に着くなり、そのままの状態で保健室まで彼女を運び、保健室の先生に彼女の治療をお願いしたのだった。


「酷い怪我だな、大丈夫か?」


擦り傷ではあるけど、運悪く下に小さな砂利があったのか、太ももや膝に小石にえぐられた様なきずあとができていた。


「これくらい大丈夫です……ご迷惑をお掛けしました……」


彼女はそれ以上は何も言わず、自分の怪我の具合いを確かめるように傷を見つめている。


「はいはい、男子がそんな女子の生脚を見つめるもんじゃないよ、はしたない」


保健室の先生は消毒液やガーゼ、包帯などを準備してこちらに来た。


「ただでさえ、男子が女子を背負って保健室に飛び込んでくるなんて驚きなのにさ、普通逆だよ?」


「いえ、当然のことをしただけです」


「なーに? 神っちって実は太ももフェチなん? そーいや、あーしの太ももも触ってたよねぇ?」


樹里はニヤニヤしながら的ハズレなことを言ってくる。


「んなわけあるか! 怪我が痛そうだから見てただけだ」


「にしてもその子の事、グイグイ守って行ったジャン? あれはカッコよかったゼッ!」


ぐっとサムズアップする樹里の事はもうスルーする事にする。

構ってたら永遠とイジられるやつだな、これは。


「それじゃ、俺たちはこれで失礼します」


「あっ! あーしも行くよ!」


やる事はもう終わったし、教室に行こうとしたら、彼女から呼び止められた。


「待ってください」


俺は振り向くと、彼女は顔を上げて俺の方を見つめていた。


「私は柳沢 すみれです。その……クラスとお名前を聞いても宜しいですか……?」


「俺は1年A組の神埼 守だよ」


「あーしは同じく1-Aの樹里ちゃんだよっ!」


そういや、樹里の苗字って聞いたことないな。

まぁ、別にそれはどうでもいいか。


「今日はありがとうございました……必ずお礼に参りますので……」


「いや、気にしないでいいよ。でも付き合っていく男はちゃんと選ばないとな」


「えっ……いや、あの………」


「それじゃ、失礼します」


彼女は何か言いかけてたけど、ずっと樹里が俺の事をニヤニヤして見てくるので逃げるように保健室から出てしまった。


「あのすみれって子、絶対に神っちに惚れたっしょ?」


「あれだけでか? そんな簡単なものじゃないだろ」


「いーや、間違いないね! こーいう時のあーしの推理は完璧なんだから!」


「推理って、お前はコ〇ンか金○一か」


「誰よ、それ?」


そんな他愛のない会話を繰り広げつつも、俺たちは自分たちの教室へと向かっていく。

ちなみに、女子生徒を背負っていた所をクラスの誰かに見られたらしく、教室内は俺が着いてから騒然とすることになってしまった。




そんなこんなで特に変わったことも無く今日の学業も滞りなく終わり、残りは終わりのHRだけとなった。

まぁ、休み時間で抱きつかれたり、触られたり色々あったけど、なんかもはや日常のように感じてしまっているので、変わったこととはカウントしない事にする。


時間になると引き戸を開けて、担任の我妻先生が教室に入ってくる。

その表情は優れない所か、すごく疲れてるような……。


「どしたん? 小夜子ちゃん! なんかいつもより疲れてんジャン」


「だからぁ! 先生を呼び捨てなしない!」


毎度の樹里と先生のやり取りをしつつ、今日は先生に続いて知らない女性が一緒に入ってきた。

パッと見では宝塚の人ですか?と聞きたくなるくらい綺麗でスラッとした長身の女性だけど、うちの学校の制服を着ているな。

その長身の女性が1歩前に出て通る声で話しだした。


「突然の来訪で失礼する。ホームルームの前に話さないといけないことがある、少々みんなの時間を拝借したい。それで、君が神埼くんかな?」


なぜ俺が指名されるんだ?


「はい、そうですけど。なんですか?」


なんか雰囲気があるし、思わず敬語になってしまった。


「わたしは生徒会長の高田 春香たかだ はるかだ。今日は君宛の苦情というか、陳情というか、希望書が大量に生徒会の方へと届けられている。心当たりはあるかな?」


「いえ、なにも」


本当に心当たりが無いんだけど、苦情ってなんの話だ?


「すみません、それではよく分からないので、中身を教えて貰えますか?」


「ふむ。一部はこのクラスにも関係することなので構わないが。本当に読み上げても?」


俺は「どうぞ」と言葉と手で合図すると、生徒会長は積み上がっている紙を1枚手に取った。


「男子のいないクラスもあるので、教室の外では女生徒と話さないで欲しい、話すのであれば校則の見直しを要求する」


ん?


「条件が無いのなら他のクラスにも来て欲しい」


え?


「1-Aだけズルい、再度クラス分けを希望します」


ちょっとまて、なんだそれは。


「他にも抽選で神埼くんと接触できるようにと、謎の要望も織り交ぜてはいるが、本日のみで50件以上のこういった内容のモノが生徒意見箱に投げ込まれた」


「あの、なんと言いますか。なんですかそれ?」


「因みに土曜日の段階で27件もあった、合計すればそろそろ100件に届く勢いだ」


そんなのは聞いてないんだけど?


「えーっと、そんなこと言われても、俺にどうしろと?」


「ヤバすぎジャン、神っち超大人気に昇格じゃんね!」


「樹里はチャカさないの、失礼しました」


騒ぎ出した樹里を凜花さんが押さえ込んで落ち着かせた、けれどそれを皮切りにクラス中に意見が飛び交う。


「何言ってるんですか! これは校則に則った正当なもののはずです!校則違反を生徒会が容認するんですか!?」

「神埼くんが別のクラスに行くって耐えられないんだけど!」

「誰だ!そんなの入れたヤツは!」

「神埼くんはうちらで独占……いや、囲うって決まってるのに!」

「私もそう思います!」


蜂の巣をつついたように皆が熱を持ちだした。なんでこうなった?

うわ! よく見ると教室の窓から知らん生徒が何人も覗き込んでるんだけど……怖いな。


「落ち着きたまえ、もちろん生徒会としては容認できない内容ではある。しかしながら静観できると全員も思ってはいまい?」


誰もがその言葉に沈黙する。

だから俺は手を挙げた。


「それで、生徒会としてはどうするのが妥当と考えてるんですか?」


「うむ! 話が早くて助かる。こちらとしては不要な反発を避けるために、神埼くんに限り緩和策を用意する段取りがある」


「その緩和作とはなんです?」


「面識のない他のクラスの女子生徒による男子生徒への接触不可という校則を取り払う。ただし、許されてるとはいえ神埼くんへの不必要な要求は厳禁だ」


つまり、知らない人から握手してほしいとか、ハグして欲しいって言われることはないのか、それは助かるかもな。

さすがに全校生徒からそんなこと言われたら泣くぞ。


「以上だ、代案が無いのなら異論は認めない。これは君達と柳沢 すみれさんへの救済案である事も考慮して欲しい」


ん? なんですみれさんの名前がここで出てくるんだ。


「君達は言わずもがなだが、柳沢さんは今朝神埼くんに背負われていたという目撃情報が多数寄せられている」


それを聞いて俺は樹里の方へ確認をとる。


「なぁ、もしかしてあれは校則違反なのか?」


「いんや、そんな事ないよん。でも背負ってって言い出したのがスミレンからならアウトだけどね」


まさかそれって。


「そうだ。こちらも事情は把握しているが、全ての生徒はそうではないという事だ。このままでは、柳沢さんの立ち位置が危うくなりかねない」


ってことは、俺の責任じゃねーか!

事情を知らない生徒は、その行為が俺からなのか、すみれさん発信なのかは分からない。

推定無罪だとしても、断罪しようとする人物まで居るってことか!?

そんな無茶苦茶な……。


「それと、神埼くんが復学してからたった2日でこの有様だ、生徒会の負担も重ねて考慮してくれると非常に助かる」


俺が悪いのか?

いや、俺が悪いのね。

ここまで言われちゃ、俺も頷くしかなかった。


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