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第32話 家族のために出来ること

俺はそのままヒナタを抱えたまま家に帰ったんだけど、玄関前でヒナタに降ろして欲しいと言い出したので、言われる通りに降ろしてあげた。

顔色がさっきよりは良くなっているのは見て分かるけど、どこかフラフラしているな、油断は禁物だ。


「それじゃ、ちゃんと部屋で休むんだぞ」


「……うん」


「すぐ水を持っていくからな」


俺はそう言って台所で水を水差しに入れる。

あと薬も必要か?

救急箱は直ぐに見つけたけど、肝心の薬がよく分からない。

どれもこれも俺が見たことないパッケージの箱の薬ばかりだ、一々説明を読まないとそれが何の薬なのか分からないのは面倒だな。

やっと見つけた胃薬と風邪薬を箱ごと、それと水差しとコップも一緒にトレーに乗せてヒナタの部屋に行く。


「水を持ってきたから開けるぞ」


「……はーい」


ヒナタの許可が出たから扉を開ける。

中は女の子らしい薄いピンクのラグや白のカーテンなど、とにかく部屋の中が明るく見える。

ヒナタはもうベッドの中にいるようで、俺は部屋の中にある足の短いテーブルの上に持ってきたものを全部置く。


「薬もあるから、体調が悪くなったら飲むんだぞ」


「うん……ありがと」


部屋を出ようとして目に入ったのが、脱ぎ散らかされたヒナタの制服だった。

体調が悪いのにそれをハンガーにかけろと言うのは流石に酷だと思い、俺はヒナタの制服を見えてたハンガーにかけてあげる。


「え、お兄ちゃん……そんな事しなくていいよ」


「いいから、ちゃんと寝てろって」


ヒナタは制服を自分でかけるつもりなのか、ヨロヨロとしながら布団から出てきたけど。


「おまっ! なんで下着で寝てるんだよ」


「あ、ごめん……そうだった……」


そのままヒナタはゆっくりと布団の中に戻っていく。

もしかしたら寝間着を着るのも辛いのか?


「ごめんね……変なもの見せちゃって……」


「いや、変じゃないから気にするなよ」


ヒナタは一応血の繋がってる種違いの妹らしいけど、俺からしたら妹という認識がまだ薄い。

近所に住んでる仲の良い年下の女の子と言われた方がしっくり来るくらいだ。


「……お兄ちゃん、どうしたの……?」


「いや、なんでもないよ。それじゃおやすみ」


こういう考え方も時間が解決してくれるんだろうか。

妹のようにヒナタと接していけば、ちゃんと俺も変われるだろうか。

今はまだ俺の中で確信を持ててはいない。


それから少しして、詩織さんも帰宅してきたけど、徹夜だったらしくかなりボロボロで帰ってきて、風呂も入らずダウンしてしまった。

詩織さんも若いけど、無理をするのは良くないよな。

でも、無理をするのもこの生活を維持する為でもあって、稼いだお金もヒナタの学費や日々の生活費に消えてるはずだ。

聞いた話だと、俺の学費とかは免除になってるはずだけど、それでも女性の一馬力で家庭を支えるのはかなり大変だろうな。


俺も働くべきか?


学生だし、バイトくらいしか出来ないけど、多少は生活の足しにはなるはずだ……。

だけど、ただでさえ見られる俺がバイトなんかしたらどうなることやら……、今思い返してみても男の店員なんてどこにも見かけないな、こんな状態で俺が働いても逆に働く店に迷惑を掛けかねない。


そこで、ふと思い出す。


そういや、神埼少年の机の引き出しにまだ帯付きが4束も眠ってる。

これを貰った理由が、女性へ種付けをするというなんとも生々しいものだけど、行為自体は喜ばれた。

もしこれなら、トラブルが起きても責任を取るのは俺1人、それで誰にも迷惑かけずに稼げるなら万々歳なのかもしれないな。

でも、そんな相手を探す伝手つてなんか俺には無い。

こんな話を持ちかけるのも気が引けるけど、頼れる人は1人しかいないな。

俺は心当たりのある人に電話をかけることにした。


『それで、私に白羽の矢が立ったって訳ね?』


「すみません、橘さん。俺の事情を知ってる上で頼れる人が他にいないんです」


『構わないわ、むしろどんどん頼ってくれていいのよ。で、守くんは働きたいって事でいいのかしら?』


「そうですね。この世界の男がどうやって稼いでるか知らなくて、それも教えて貰えたらなと」


『そうね……。基本的に男性は労働契約を結んで働くということはしないわ。もちろんあくまで基本の話だから絶対ではないわね』


「よかった。俺も働けるんですね!」


『守くんは無理だと思うわ。男性が働くというのは大体家業を手伝う場合であって、そもそも成人してたとしても労働契約を交わして働いている男性なんて私は1人も知らないわ』


それじゃ結局、普通の仕事は無いって事か……。


「そうですか……」


『そんな落ち込んだ声を出さないで。守くんにしか出来ない、守くんなら出来ることがあるでしょ?』


「やはり、しかないですかね」


『誰でも無条件にってのはあまりオススメはしないわ。どんなトラブルに巻き込まれるか分かった物じゃないから』


って事は詰んでないか?


『手っ取り早くお金を稼ぐってだけなら別の方法もあるわ』


「それはなんですか?」


『精子バンクに守くんの精子を売るのよ』


なるほど、精子バンクから精子を買う人がいるなら、当然売る人もいる訳か。


『とは言っても国営機関だし、売ったところでそれに見合った金額にはならないわ』


「稼げるならそれでもいいですよ」


『私は女だから分からないけど、他の男性患者の話だと不快感と精神的苦痛が凄いらしいわよ? それでもいい?』


うーん、稼ぎたいけど苦痛を我慢するってのはなんか嫌だな……。


『ここからは私からの提案なんだけど』


「なんでしょう?」


『私が男性に相手をして欲しいって望んでる女をリスト化して渡しましょうか? 守くんはそこから相手を探して、報酬を受け取る。どう? 守くんならそう悪い話じゃないでしょ?』


「そんな相手がいますかね?」


『いるに決まってるじゃない、私が保証するわ』


「でもそれって、法律的には大丈夫なんですか?」


前もそれで問い詰められて、朝倉さんが土下座してなかったっけ?


『女が成人してる場合は、個人間でちゃんとした男性の合意の上での精液提供契約があれば未成年でも問題ないわ』


「そうなんですか?」


『厳密にはそれは契約書ありきだったりするから、前の私や朝倉のはグレーゾーンだったりするわね……。 男性が成人してる場合や、お互いに未成年の場合ならそんなものは無いし、強制しなければ法律には触れないわ』


グレーゾーンか……って事は口約束でこういう事をする人がいるし、万が一俺が訴えたら黒ってならないか?

まぁ、俺からはそんな事しないけどさ。

確かに後から無理やり搾取されたとか、賃金が安すぎるとか言われたら契約書がないと揉めそうだもんな。

一応、そんなことはしないと俺が信用されてたって事で納得しとこう。


「でも、そこまでして貰うのは流石に申し訳ないと言いますか、気が引けますね」


『それなら私にも報酬を頂けるかしら?』


「では上手くいったら、その売上の何割かでいいですか?」


『お金はいらないわ。空いた時でもいいから、また私と寝て欲しいの』


ストレートなお誘いが来たな。


「俺で良ければ喜んで」


『ありがとう。それなら張り切ってリストを作るから、楽しみにしてて』


電話先の橘さんの声がすごく嬉しそうだ。

なんにせよ、喜んでもらえるのは俺としても嬉しいもんだな。

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