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第35話 蜘蛛の巣

それから、やや大変ではあったけど今週も乗り越えることが出来た。

相変わらず挨拶ラッシュはあるけど、もう面倒なので受身はやめて、こちらから全て先に挨拶するようにした。

というのも、自分の中で現状を消化して飲み込んだ時に、昔の癖とでも言うのか、知らない人とは関わらない、不用意に声も掛けないという暗黙の了解があるのに気がついた。

要はそれを踏み越えて接してくる相手にストレスを感じて疲れてしまう。

ならば、こちらから先に踏み越えてしまえばいいだけだ。


「それも今更しゃーないよね。もうさ、有名税だと思って割り切るしかないんじゃね?」


「アタシたちクラスのみんなで守れるように頑張るから」


そう樹里と凜花さんも言ってくれたので、俺としてはちょっとだけ気分が軽くなる思いだった。


そして約束した日曜日。


「本当に大丈夫なの?」


詩織さんが心配して聞いてくる。


「平気だよ、初めて会う相手じゃないから、それじゃ行ってくるよ」


ちなみにヒナタは友達と約束があって遊びに出るとの事で、朝からいなかった。


俺は相変わらずスマホの地図アプリが無ければ外は歩けないけど、それでもやっと道に関しては覚えてきた方だ。

真っ直ぐアトム書店へと向かうと、もう既に由美さん達が待っていた。


「すみません! 待たせちゃいましたか」


俺は待ち合わせの時間の15分前に到着してるんだけど、それでも待たせてしまったか。


「い、いえ。ウチ達もさっき来たばかりで!」


遠くから見て気がついていたけど、由美さんとは別に女の子が2人いた。

おそらく彼女達が紹介したい人なんだろうけど、3人が並ぶと身長差がかなりある。

FFのメーガ〇三姉妹みたいな感じだ。


「えっと……こっちの大きい方がリナリタ、小さい方が里穂です、はい」


「小さいとはなんだ! 小さいとは!」


凄く雑な紹介をされてラ〇、じゃなくて里穂さんが怒りだした。

そこまで小さいわけじゃないけど、小学生と言われても納得できるくらいの低身長だな。


「あのぉ〜、神埼さんって本当に話しかけても大丈夫なのぉ?」


逆に俺よりも頭1つ大きいリナリタさんが、おっとりしたお姉さんみたいな感じで話しかけてくる。

発育が凄く良いのか色々大きいし、スタイルも完璧に大人の女性だ。

これで同い年は無理があるだろ。


「もちろん、同じ趣味を持つもの同士、仲良くしよう」


俺が手を差し出すと、戸惑いながらもリナリタさんは応じてくれた。

つい先日も、こういった対応の緩さを指摘されたけど、でも相手は俺と同類なんだし多目に見て欲しい。


今度はこういった友好関係は積極的に広めていきたいと思ってる。


ちなみに由美さんはその中間くらいで、俺と同じくらいの身長か。


「それじゃ……オススメの作品を紹介しますので、本屋に行きますぞ」


「そうだね!」


前は某赤い人ごっこをしながら中に入ったけど、今度はそんな事はしない。

普通に歩いて由美さんとリナリタさんが漫画のコーナーで色んな作品の紹介してくれる。

相変わらず全ての漫画にラッピングがされているので、ざっとしたあらすじでも教えてくれるのはすごく助かる。


「あのー……そういえば、神埼氏の好きなジャンルは何なので?」


「俺は面白ければ何でも読むよ。恋愛ものとかギャグとか、SFとかロボット系も見るし、ファンタジーとか異能バトルみたいなのも好きかな」


「ふむふむ……それならこの辺りはどうですかな? コレなんかは人気が高いヤツですぞ」


そう言って、また1冊紹介してくれる。

表紙の見た目は可愛らしいけど、これは異能バトルものだろうか?

なんか右手が怪物みたいな女の子が描かれてる。ミ〇ーとかAR〇Sのみたいなのを連想する感じだ。


「ロマンス系が好きならこれもオススメするわ〜」


リナリタさんがオススメしてくれたのは、中世みたいなドレスを着た女性が主役の恋愛ものみたいだ。

だけど、なぜかドレスの女性が、どう見積っても持つのは無理だろと言いたくなるような大きい鋼鉄製のハンマーを持っている。


「なんでハンマーを?」


「ヒロインがハンマー好きなのよね〜、色んな悪役とか〜、魔物をそのハンマーで潰していくのよぉ、それがまた爽快なの」


説明を受けても、なお意味がわからない。

シティ〇ンターの〇村 香かな?

あれもロマンスと言えばロマンスか?

いや、難しいラインな気がするな……どっちかと言うとギャグが強いような、ハードボイルドのような。


「ありがとう、これも見てみるよ」


そんな感じで色々と本が積み重なっていくけど。


「里穂さんのオススメはないの?」


「ん? あぁ、オレはは専門外だから」


本を読まないって事か?

ならなんで付いてきたんだろうか?


「オレは本を読むのが苦手なんだよなー、漫画も嫌いじゃないけど連載中だと中途半端に終わるだろ? どうもあれが苦手なんだよ」


小さな女の子なのに、男勝りな喋り方なんだな。


「俺も完結したら買おうと思う作品はあったんだけど、完結する頃には忘れてるんだよな」


「そもそもオレは気が長い方じゃないからな。読み出したら一気に見たいし、キチっと終わらないのは嫌いなんだよ」


なるほどな、だとすると今日はなんで付いてきたんだ?

その疑問は置いといて、俺はオススメされた漫画とラノベを全て買い漁った。

結構な量になったので、駅前の貸ロッカーに一旦全て預けて、次の場所を目指す。


「それで、次はどこに行くの?」


「次はオレのオススメの所だよ」


里穂さんのオススメか、ちょっと興味があるな。

そのまま付いていくと、駅の逆側の出口から出て少し歩いた所に派手な看板の店があった。


「ゲームセンターか!」


「別にもっと大きなゲーセンがあるけど、コッチの方がバラエティが多いんだよ」


UFOという名前の店舗のようだ。

別にもっと大きなゲームセンターがあると言われても、こちらの店舗もかなり広い。

店に入り中を見渡すと、俺の知ってるゲームセンターが広がっている。

所狭しと並べられている筐体にはゲーム画面が映されているけど、どれもこれも知らないゲームだ。


「里穂はすごい量のゲームをやってるからねぇ〜、わたしには真似できないわぁ」


「ウチも。ゲームは好きだけどやり込みはしませんな」


俺はやり込みも好きだし、ゲームと名のつくものは何でもやる。

俺たちはフラフラと店の中を見て回る。

シューティングや、パズルや格闘のようなジャンルが揃ってるだけじゃなく、フルCGのような美麗と言われるようなグラフィックのものから、懐かしいドット絵のゲームと新旧揃ってる感じだ。


素晴らしい。


俺たちは4人揃ってガンシューティングをやったり、エアホッケーなど協力できるゲームを楽しんだ。

途中で由美さんとリナリタさんは疲れたらしく、ゲームセンター内の椅子に腰をかけてジュースを飲みながらお喋りしている。

俺と里穂さんはまた違うゲームをやる事にした。

今度は横スクロールのアクションゲームのようだ。ファイ〇ルファイトとか、初代熱血硬派く〇おくんに似ていて、2人で協力できるものだ。

横並びで2人でお金を入れて、ゲームを始める。

慣れ親しんだゲームセンターのアーケードコントローラーで操作出来るのは純粋に楽しいな。


初めは戸惑ったけど、慣れ親しんだゲームと操作性は大差ないのですぐに慣れてきた。

今では俺と里穂さんで、コンビネーション攻撃まで合図もなく出来るようになってきた。

そんな感じで2人でゲームを進めてくうちに、里穂さんが口を開く。


「なぁ」


呼びかけられたので、俺は里穂さんの方へと意識を向けた。


「お前、本当に由美とヤッたのか?」


言葉の意味が分からない訳じゃない。

でも、俺もそんな取り乱すような悪いことはしてないつもりだ。


「……どうしてそれを?」


「散々自慢されてな、鬱陶しいったらないぜ、まったく……」


ガチャガチャと、アケコンの音が響く。


「それで、どういうつもりだ?」


「どうって、お互いにそういう事がしたかった。それじゃ駄目なのか?」


「いや、別にソレを咎めるつもりはねぇよ。ただアイツをたぶらかすつもりなら辞めてくれ」


「誑かすって、そんな事をするつもりは無いぞ、由美さんは俺にとっても趣味を同じとする仲間だ」


「本当か? 最近は口説き落としてから手酷く女を扱う奴も増えてる。そんなクズに由美を泣かされたくない」


言いたい事は分かる。

また、あの小僧の顔が頭の中でチラついた。


「だから、そんなつもりはないって」


「なら何でなんの見返りもなく初対面の由美とヤったんだ? それがオレには納得できねぇ」


あ、そっちなのか。

俺が軟派な男で責められてると思ったけど、そうじゃなくて、価値がある物を俺が無償で由美さんに渡したから疑われてるようなものなのか。


「俺がそういう事をしたかった。それで由美さんもしたかった。お互い合意の上で進んだことだから、違う人に納得できないと言われても困るよ」


「お前が? それでヤったってのか? 由美が無理やり迫った訳でもなく?」


「俺も嫌なら嫌だってちゃんと言うよ」


「マジかよ………」


俺の言葉を聞いて、里穂さんが言葉を失っていた。

また2人でコンビネーションを決めながら、少しして里穂さんが口を開く。


「実はあれから、オレたち3人で色々話してたんだ」


「何を?」


「お前がどんなヤツなんだってな」


たしかに、俺を知らない人から見たら、俺はきっと胡散臭い人間でもあるんだろうな。


「今の言葉が本当なら、オレやリナリタともヤれるのか?」


「……は?」


「オレとリナリタは彼女にもならないし、結婚なんて絶対にしない、金だってお前にはビタ1文渡さない。それでもお前はヤれるのか? それで良いのかよ」


なんか話が違う方向に飛んだぞ?

そりゃあ、お金を稼ぎたいとは思っていたけど、学生からお金を取るなんて事はしたくないな。


欲という部分だけで考えたら……出来るな、うん。

神埼少年はいつも元気で喜ばしい限りだ。


「出来るよ。ふたりとも綺麗で可愛いし、こんな俺の相手をしてくれるなら、むしろ俺の方が助かるくらいだよ」


「そ、そんなことが……」


「だからさっきも言ったけど、俺がしたかっただけ。それ以上の理由はないし、それ以外の理由もないよ」


「だからウチが言ったのに……そんな人じゃないですぞって」


後ろから由美さんの声が聞こえて、俺は思わず振り向いた。


「んふふっ わたしもシたいんだけどなぁ〜」


由美さんとリナリタさんが俺の後ろで立っていた、ゲームセンターの騒音で後ろにいる事に気がつけなかった。里穂さんとの話を聞かれた?

いや、これはもしかして、最初から仕組まれてたのか?


「ねぇ、答えて。わたしとシたいって思ってくれる?」

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