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第42話 裏で糸を引いてる人がいます!

俺は風紀委員の江○島平八みたいな大きさの女性と一緒に指導室へと向うように指示された。

それと小僧を離すようにとも言われ、胸倉を掴んでいた手を離した途端に小僧が一目散に逃げ出した。

まぁ、そう簡単に逃げられる訳もなく、あっという間に江○島平八に取り押さえられて無理やり引きずられて戻ってきたのは、共感性羞恥というか、同じ男として情けない気持ちしかない。

その時も相変わらずキャンキャン吠えていたけど風紀委員は校則のルールを一部無視できるらしく、ひるむ事はなく、逃げ出した事もあって容赦がないようにも見えた。

学生の風紀委員のレベルを超えてる気もするけど、こんな男がいるんだし、こういうのも必要なんだろうな。

小僧は俺と別の指導室に入れられただろうけど、今頃どうなってるやら。


この部屋は始めて学校に来たときとは違う部屋なんだな、刑事ドラマとかでありそうな感じの、取調室みたいな机と椅子しかない部屋だ。

その部屋で待っていると、扉がノックされた。


「どうぞ」


「失礼するわ」


入ってきたのはたれ目で少し身長の高い女性だけど、江○島平八よりかはゴツくないな。


「わたしは3-Bの中野 睦月なかの むつき、風紀委員の一人よ」


「はじめまして、俺は」


「神埼 守くんよね? 知ってるわ」


やっぱり、俺が知らない人も俺を知ってるんだな。


「一応なんだけど、君にも話を聞かないといけない規則だからちょっとだけ聞かせてもらうわね」


「分かりました」


「吉田君は君に投げ飛ばされたって言ってたけど、それは事実なのかしら?」


吉田君? あぁ、あの小僧の名前か?


「投げたのは事実ですけど、投げ飛ばしたというのは誇張表現かと」


「殴られたとも言っていたけど、どうかしら?」


「いいえ、むしろ殴られたのは俺のほうですよ」


あの小僧、適当ばかり抜かして逃げる気満々じゃないか。


「でしょうね~、それで何か申し開きとかあれば聞くわよ?」


「俺は自分に恥ずべき事はしていませんし、間違ったと思うこともしてません。それでも規則で罰しないとならないのであれば従います」


はっきりとそう言うと、中野先輩はうんうんと頷いていた。


「いいでしょう、君は次の授業から教室に戻りなさいね」


え? 許された?


「なんて顔してるのよ。こっちもお互いのクラスから、ふたりのどちらから不和を持ち込んだのか話も聞いてるし、なにより私たちに連絡してくれた人の証言もあるからね」


「証言ですか?」


「入ってきていいわよ」


中野さんがそう言うと、扉が開いた。

その奥にはすみれさんが立っていたのだった。


あとは2人で話しなさいね。と言い残して中野さんは部屋から出て行ってしまい、俺とすみれさんが部屋に残された。


「度重なるご迷惑……なんと謝ればいいのか、私にはもう分かりません」


ただでさえ小柄なすみれさんが、更に小さくなってしまっていた。

どういう事だ? 別に彼女は小僧の婚約者でもなんでもないなら、彼女が謝る理由なんてどこにも無いはずだ。


「詳しく聞いてもいいのかな?」


「………はい、全ての経緯をお話します」


「とりあえず、こちらに座って話そうか。俺だけ座ってるのは決まりが悪いし」


「はい、失礼します」


すみれさんは椅子に座り、ぽつりぽつりと話し出した。

事の始まりは彼女の母親が原因だ。

彼女の実家はかなり太いらしく、何をしてるかは話してくれなかったが、かなり権力のある御家のようだ。

生まれも育ちも良い彼女は箱入り娘として育てられてきて、そしてそろそろ結婚できる年齢になるので婚約者を、という母親の勧めがあったらしい。

それで見繕われたのがあの小僧だった。

どうしても御家の為に結婚相手と男児が欲しかった母親は、婚約を推し進めた。

すみれさん自身は種を恵んでもらう側だという意識を持っていて、あんな男にも従うしか無かった。


『性交渉でできた子供は男児である可能性が人工授精の時よりも高いのよ』


下らない話だ。

中身は家の為の政略結婚みたいなもんだな。

特に男の少ないこの世界だと、結婚してくれる男を探すだけでも一苦労だろうし、そんな御家の事を気にするような親なら、更に相手の家格かかくとかも気にするはずだ、そうなると男を選ぶなんて到底出来ないんだろうな。


「それで、今日の事とそれに何の関係があるんだ?」


「それがですね。私の家からの支援が無くなって、あの方の家が大変になったようでして……」


「婚約者じゃなくて赤の他人に戻ったから、支援がなくなって慌ててた、ってこと?」


「それだけじゃないんですが……それも一端と申しますか……今朝方、あの方に寄りを戻すようにと迫られまして……」


「それを断ったのか?」


「その通りです。そうしたら激怒してしまい……」


「すみれさんの家はどういう判断なんだ?」


「この前の私の怪我が原因で母も大変怒っておりまして、正式に婚約相談の破棄と支援の中止を申し渡しています」


それで俺のせいだって殴り掛かるのは違くないか?

他責思考もここに極まれりだな、あの小僧は腐りきってるようだ。


「すみません。実はそれだけではないのです」


「どういうこと?」


「私が怪我をした際に神埼様に助けて頂いて、それを母に伝えました。それはトーキンでもお伝えしましたが、実はまだ母に発破を掛けられているんです……」


「え? まだ?」


「それだけ出来てる殿方を逃がすな、と……母も神埼様の話を聞いてからは、あの方との婚約の再相談は現状では断固として受け付けないそうです……」


すみれさんはリンゴのように赤くなって俯いてしまった。

つまり、俺はすみれさんの母親にロックオンされてるって事か!?


「なんだかな……すみれさんも色々と大変なんだな」


「私が今まで平穏に生活出来てきているのは母のお陰でもあるのです、このくらいの孝行は当然です……当然、なんですが……」


「無理しない方がいいよ。そういった感情面の部分は自分でも覆せるものじゃないし、親への孝行や、親の望みであろうと出来ないものは出来ない。それが普通だよ」


「………それは違います」


「ん?」


「私は……その、助けて貰ったあの日から……神埼様をお慕いしているのです……」


え? 俺を? そんな要素があったか!?


「あまりにしつこくあの方に付き纏われたので、私は言ってしまったのです。お慕いしている殿方がいるので、あなたと復縁するつもりはない、と」


なるほど、それで俺のせいなのか……。


「その際に神埼様の名前を出してはおりません。ですがあの方の怒りの矛先が神埼様に向かってしまい……私は、軽率な発言をしてしまいました……」


小僧からすれば、俺が横から現れて奪って行ったとでも思ってるんだろうなぁ……。

でもこれはNTR展開になる以前の話で、小僧はすみれさんに惚れられても無かったんだけど。


「事情は分かったよ。話を聞いてもやっぱりすみれさんは悪くないし、俺は今日の事については何とも思ってないから」


ただし、小僧は除く。

痛くなかったとしても、殴られた恨みは忘れないぞー。フゥハハハー。


「俺の名前を出さなかったって事だけど、そんな気を使わなくてもいいよ、その時は全面的に俺の名前を出してくれ」


「えっ……ですが、そんなことをすれば……」


「あの程度の逆恨みなんか痛くも痒くもないしな。なんかあれば俺も助けになるからさ!」


「……ありがとう、ございます」


すみれさんは深く頭を下げて、感謝と謝罪をしてくれた。

俺はすみれさんに何とも思ってもないのに、周りに巻き込まれて、こんな事になって……あまりに不憫すぎる子だな。


「そう言えば、俺もすみれさんに話したい事があったんだよ、クラスを知らないから探そうと思ってたんだけど、手間が省けたよ」


「それはなんでしょうか?」


すみれさんはまだ少し赤い顔を上げて俺の目を見てくる。


「まずはこれを見て欲しいんだけど」


俺の内ポケットに忍ばせていた紙を取り出して、彼女に差し出した。


「拝見させて頂きます」


丁寧に俺の手の中にある紙を彼女は受け取った。

彼女は畳まれた紙を開いて中身をあらためていく。読み進めるほどに、彼女の顔は更に赤くなり、手が震えだした。


「………こ、これは!?」


「すみれさんはそれを知ってる?」


「い、いえ! まさか、そんな事!」


って事は、これもすみれさんの母親単独の仕業なのか。

俺が手渡した紙は昨日橘さんから貰った、相手をして欲しいと望んでいる女性のリストの1部だ。

その中身は、柳沢 すみれさん本人の顔写真が載っていた。

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