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蝶舞山揺 弐 その1

 クリーム色の車体。

 黒い布のサンルーフ。

 どうやら長い間ワックスされていないであろうフィアット500チンクェチェントが、一般道とは思えない速度で突っ走っている。


 大阪駅から近い曾根崎そねざき警察署を飛び出し、梅新東うめしんひがしの交差点から京橋方面へメイン道路をかっ飛ばす。

 JR大阪環状線の内側、『結界内』と呼ばれる区域は、季節によるが日が暮れるこの時間、極端に車や人の数が減る。

 他の車がまばららとは言え、それでもスピード出し過ぎだ。


 チンクェチェントのハンドルを握っているのは、ゴスロリ。

 どっからどう見てもゴスロリ。

 無表情でハンドルをさばく顔が、浮世離れしていて驚く。

 この時代にわざわざミッションに乗ってるって事に、何か変なこだわりを持ってんじゃないかと性格を勘繰かんぐったりしてしまう。


 無表情な顔がキレイ過ぎて、ちょっと怖い。

 陶器とうきのように無機質な乳白色ミルクホワイトの肌は、着ている服が服だけにパッと見、高級で精工な欧州ヨーロッパ製の愛玩人形が運転しているようだった。


 桜宮橋が前方に見えた時、無表情のドライバーが付けているヘッドフォンに、落ち着いてはいるが、妙に軽い調子の声が聞こえた。


 「片町線の方やで~。ウチのカンでは寝屋川添いの道で結界に入るとみた! ルネ、間に合う?」


 ルネと呼ばれた無表情のゴスロリが微笑わらう。

 それが、病的に美しい。


 「よゆー♡」


 言った時にはもう橋を越え、東野田の交差点をタイヤをきしませて曲がるところだった。


 「楓~~」

 逆ハンを戻しながら、ルネはヘッドフォンに付いたマイクに話しかける。


 「情報ちょ~だ~ぃ」

 マイクの向こう、楓の口調は相変わらず軽い。


 「はいは~い。関目一丁目の信用金庫で閉店後、かねパクって日が暮れる時間まで中で隠れとった犯人アホ、報告では六人組」

 「大所帯の強盗ねぇ」

 「現場の警官が保護した行員の話やと、少のうてもEGイージー使いが二人はるらしいで」


 ハンドルを握りながら、ニヤリと笑う。


 「ルネ~、あんた今、絶対笑ってるやろ」

 「いやだわ」

 「なに澄ましとんねん。EG使いが二人って聞いて、“撃てる”って思ってるやろ!」

 「はて?」

 「はて? ちゃうわ! なんでもかんでもスグ撃ったらアカンねんで!」


 バタン!

 フィアットのドアを閉める音は、マイクを通して楓にも聞こえた。




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