クリーム色の車体。
黒い布のサンルーフ。
どうやら長い間ワックスされていないであろうフィアット500チンクェチェントが、一般道とは思えない速度で突っ走っている。
大阪駅から近い
JR大阪環状線の内側、『結界内』と呼ばれる区域は、季節によるが日が暮れるこの時間、極端に車や人の数が減る。
他の車が
チンクェチェントのハンドルを握っているのは、ゴスロリ。
どっからどう見てもゴスロリ。
無表情でハンドルを
この時代にわざわざミッションに乗ってるって事に、何か変なこだわりを持ってんじゃないかと性格を
無表情な顔がキレイ過ぎて、ちょっと怖い。
桜宮橋が前方に見えた時、無表情のドライバーが付けているヘッドフォンに、落ち着いてはいるが、妙に軽い調子の声が聞こえた。
「片町線の方やで~。ウチの
ルネと呼ばれた無表情のゴスロリが
それが、病的に美しい。
「よゆー♡」
言った時にはもう橋を越え、東野田の交差点をタイヤを
「楓~~」
逆ハンを戻しながら、ルネはヘッドフォンに付いたマイクに話しかける。
「情報ちょ~だ~ぃ」
マイクの向こう、楓の口調は相変わらず軽い。
「はいは~い。関目一丁目の信用金庫で閉店後、
「大所帯の強盗ねぇ」
「現場の警官が保護した行員の話やと、少のうても
ハンドルを握りながら、ニヤリと笑う。
「ルネ~、あんた今、絶対笑ってるやろ」
「いやだわ」
「なに澄ましとんねん。EG使いが二人って聞いて、“撃てる”って思ってるやろ!」
「はて?」
「はて? ちゃうわ! なんでもかんでもスグ撃ったらアカンねんで!」
バタン!
フィアットのドアを閉める音は、マイクを通して楓にも聞こえた。