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蝶舞山揺 参 その1

 黒いロングコート。

 と見間違えたが、キャソックを羽織った三人の男が大阪に降り立った。


 特急電車から三人が降りたのは、天王寺駅。

 関西国際空港から電車でJR大阪環状線に向かうと、一番初めに着くのがここ、天王寺駅だ。


 三人は興奮していた。

 あの噂に聞く、日本のEG使いたちが巣食う『KEKKAIケッカイ』に来たのだから。


 「キース、顔がゆるみ過ぎだ。もう少し自重じちょうしなさい」


 三人の中で一番年上の眼鏡を掛けた男が、横の男に言った。

 キースと呼ばれた男は、キレイな金髪短髪。

 光の加減で白く光って見えるベリーショートは目つきが鋭く、性格のキツさを隠す事無く周囲に振り撒いていた。


 彼、キースは興奮すると、すぐ顔が赤くなる。

 現に今も、赤くなっている。

 少し後ろを振り返った。

 そこには三人の中で一番若い、まだあどけなさの残る栗毛色の髪色をした、おそらく天パの青年が付いて来ていた。


 「どうだマーク、ついに来たんだぞ?」


 マークと呼ばれた青年は、キースの言葉を肯定するよう何度も頷く。


 「ヤバいです!日本のEG使いがたくさん居るのでしょう? ヤバいです!」


 興奮して声を上げるマークにあきれ、でも小さく笑って、二人を見守る役の眼鏡の男は少しだけとがめるように言葉を吐く。


 「マーク、はしゃぎ過ぎだ。キースも彼を助長しないように」


 キースはお道化どけた顔をマークに見せて、年寄りはノリが悪いなぁと言わんばかりに肩をすくめる。

 正にアメリカ人特有のジェスチャーっぽい。

 そんなくだらない会話をしていると、眼鏡の男は自分の名前を呼ばれていることに気付いた。


 「ハミルトンさん! ジョシュ・ハミルトンさん!」


 声のする方へ首を振る。

 そちらを見ると、ちゃんと英語のスペルで三人の名前が書かれた大きな画用紙を頭上で振る日本人が居た。


 ジョシュ・ハミルトン。

 ラグ・キース。

 そしてマーク・マグワイア。


 間違いない。

 三人の名前。

 しっかりスペルも合っていた。

 二人を促し、ハミルトンはその男の所へ歩く。

 迎えたダークスーツの男は、両手を大袈裟に広げてにこやかに待ち構えた。


 「ようこそ、遠い所を! 疲れは出ていませんか?」

 「やぁ、あなたがムトゥーさんですか?」


 ダークスーツの男はにこやかに訂正。


 「武藤です。ム・ト・ウ」

 「お~、ムトウ! ムトウ!」


 ハミルトンはそうだそうだと大袈裟に武藤の背中を叩き、親交を深めようとした。

 「カメラでは何度も見ていましたが、実際に会うと背が高いですね~」


 打ち合わせで武藤とハミルトンは、数回ウェブカメラで互いを見ている。

 だがその姿は実際に今、会ってるのとは印象から何から全然違っていた。

 ハミルトンの後ろに居る二人に気付き、武藤は挨拶をした。


 「初めまして、キースさん。初めまして、マグワイアさん」


 ひとり一人に頭を下げ、を見せる。

 こうすると、外国人が喜ぶことを知っている。


 キースも同じように真似て頭を下げ、お辞儀をしてみる。

 同じようにマークもお辞儀。

 ちょっと楽しそう。


 その間に武藤に付いていた若い男が、借りてきたカーゴに三人の荷物を黙々と積んでいた。

 積み終えると、待たせてあるタクシーへせっせと運ぶ。


 「ささ、まずはホテルで少し休みましょう」


 スッ、と武藤の前に掌を向け、キースが首を振った。

 「いやいや、まずはスシ、テンプラでしょう」


 横でマークが大きく頷いていた。

 「スシ! テンプラ!!」


 はしゃぐ二人に反し、武藤の顔がみるみる曇っていった。




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