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蝶舞山揺 肆 その1

 大阪マリオットホテルの一室。

 長い髪を一つに束ねた女性が、窓から外を眺めていた。

 スーツを着た後姿は、ちょっと疲れが見えた。


 彼女の名は、李楠りなん


 15時間前に言い渡された上官からのムチャブリにこたえ、飛行機で海を渡って日本に居た。

 ここはハルカス上層のホテル。


 四ヶ月前に日本で起こった、EG使いによる歴史的事件。

 その事件を起こした能力者が居なくなってもなお、JR大阪環状線を使った巨大な結界が存在している。


 EG波で創った、巨大結界。


 その結界の中がどうなっているのかを調査しろ、と彼女に命令が下っていた。

 世界的に、ゲリラ的に起こり始めたEG使いによる犯罪。

 それを詳しく知るためのヒントが、この結界内の凝縮された世界にあると当局は考えている。


 っていうか、主に我が国の主席サマがそう言ってた。

 窓の外を眺める格好で、李楠は日本に来る羽目ハメになった出来事を想起していた。

 で、苦々にがにがしく心の中でつぶやく。


 ――エラそうに、、、


 いち早くエレクトリック・ゴーストだのEG使いだのをコントロール出来た者が、次に世界を手中に収めるだろうと、、、。


 ――領土拡大の次はそう来ますか


 モニターに映る主席サマが、やたら熱く語る。

 熱弁。

 、、、の割には、当たり前の事しか言ってない。

 それを観た上官がまったく同じ事を、これまたエラそうに言ってくる。


 ――ハイ。これ無駄な時間~~


 主席サマの語りから李楠の心の突っ込みまでが、ワンセットになっている。

 そんなやり取りが数日前にあって、李楠に部下の一人が報告してきた。


 「結界内の“管理者”と呼ばれる人物とコンタクトが取れました」


 ムチャブリのキッカケは、部下から言われたこの言葉。


 「管理者?」


 李楠は質問で応える。


 「はい」

 「誰、それ? 私はモノアイとコンタクトを取れと言ったんだけど」

 「そうですが、管理者は結界内で独自に行っている“賞金ポスシステム”ってのを開発・管理・運営している人物です」


 何言ってんだコイツは? と思った。

 リクエストした仕事内容と全然違うのに、満載で言って来る。

 自信満々の顔。


 ――コイツ、言葉が通じないのか?


 なんて真剣に思ったりもした。





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