黒い月の影の暖かい、風の穏やかな日にあいつが現れた。
墓地に向かってくる三人の人影。
先頭を歩くものは、生者なのだろうが、俺の目に映る、あいつは半分「黒い」
そして、あの左腕は銀色なのか?
背後に控える一人からは青い光がにじみ出ている。
おそらく聖職者だろう。
その隣の小さいもう一人は真っ赤だ。
俺は、その半分黒いやつも気になったが、青い聖職者に増悪を募らせていた。
エッジが直剣を担いで俺の元へきて肩を叩く。
一度頷いてから、俺を指さし、聖職者を指さす。
「殺っていいぞ」
そういう事なのだろう。
おそらく、エッジにもあの「青い光」が見えているが、前回の事もあり、俺に譲ると。
粋な計らいだ。
エッジは直剣を担ぎ、半分黒いヤツに向かい合っている。
既に剣先を地面に垂らし、だらりとした姿勢だ。
俺はエッジから離れ、聖職者を見据えてジリジリと迫る。
浄化の魔法を打ってみろ。
今度は避けてやる。そして俺がお前を「浄化」してやる。
募る増悪に、走り出しそうになる体を押さえる。
聖職者は何か祈っているのか?
ジリジリと迫る俺の足元に、小さい奴が何かを数個、ぽいぽいと言った感じで投げつける。
当てる気はないようだが、俺は警戒して数歩後退した。
地面に落ちたそれは白い液体?粉末?それが四つ。
警戒しながら小さいやつと聖職者を見る。
お互いの距離感は五メートルほどの三角形の位置取りだ。
聖職者に近寄っていると、聖職者は祈りをやめた。
直後、地に落ちた白い液体から白い紐が伸びた。
紐は光を放ちながら、細く伸び、俺の足を捕え巻きつく。
足が動かん
小指程度の太さの白い紐は、俺の足首当たりから腓骨と脛骨に絡みつきちぎれない。
その隙に、小さい奴はスリングかパチンコかで小さな粒を飛ばす。
その粒は俺の体に当たると、べちゃりと張り付いた。
嫌な予感がし、はがそうとするが、剥がれない。
さらに飛来する何かを防御しようと、手で払う。
肘に当たった白くべたつく何かは、肘の関節に吸い込まれるように消えた。
動かん
足も肘も動かん。
あれはダメージを与える攻撃ではない。
搦め手だ。
まんまと引っかかってしまった。
なにか、この白い…
咄嗟にしゃがむ。
頭上を閃光を放つ小さな玉が通過した。
浄化だ。
行動を阻害し、浄化の魔法でとどめをさす。
なるほど、効率的だ。
無意識に肋骨に手を突っ込み、黒い指で白い蔓を触れる。それだけで蔓は破裂した。
肘に触れると、白い汁が垂れたが何の抵抗も無く動く。
慌てた顔の小さい方は火花を散らす粉を振りまいていたが、そんなものダメージにならん。
素早く地を這うように小さい方に迫り、下から首を狙う。
手のガードを、するりと滑るように抜けた指先は細い首を捕えた。
黒い指先は、まるで豆腐を握りつぶすかのごとく、首の皮を突き破り、肉に食い込んだ。
そのまま首を掴み持ち上げる。そのまま地に叩きつける。
聖職者からの光玉の飛来。
視界の端に捕える。
掴んだままの小さい奴で受け止める。
うなり声をあげた感触が指先から伝わる。
しかし、声は出ていない。
カタカタ
あごの骨がなる。
首を握ったまま、小さい奴を盾にして聖職者に迫る。
しかし、しびれる感覚が全身を襲う。
回復魔法か。
首に食い込んだ指が、復元しようとする肉に押し返される。
カッと思い出したかのように、腹の底から怒りがこみ上げる。
小さいほうが、何かのビンを投げつけ、体に当たる。
かまうものか
小さい奴の首を掴んだまま、その体で聖職者を殴る。
小さな手で自らの頭を守る姿勢の聖職者の、隙だらけの腹に足のつま先をねじ込む。
内臓までつま先の骨が届いた感触が全身を貫く。
カタカタ
歓喜が身を包むが、俺の内側は、聖職者憎しの黒いものが塗りつぶしていく。
楽には殺さん。
抵抗のなくなった俺の武器。
小さい人型の赤い色は薄い。
先ほどと同じように小さい奴で上から叩きつけ、足を蹴り、どこと無く殴り、突く。
倒れた聖職者に、白くなった小さいヤツを叩きつけるように投げた。
腹に小さいヤツの頭が当たると「げふっ」と小さな声が聞こえた。
その顔面に拳を叩きつけたい気持ちを押さえ、馬乗りになる。
「自身を回復しろ」
声にならない声で、そう叫んだ。
貴様の魔力が尽きるまで、殴り、回復させ、殴り、回復させて、いたぶって殺す。
自らの考えに「我ながらいい考えだ」と自画自賛し、聖職者の首を締めた。
嫌な予感
抵抗も回復もない。
咄嗟に飛びのき、数歩下がると、聖職者は白く爆発した。
しかし、その範囲は狭く、俺は無傷だった。
くそっ
楽に死にやがって。
顔を上げると、エッジはまだ戦っていた。