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エッジ 対 ホディトの戦士二人

 エッジと対峙している冒険者二人の盾は、明らかに斬られていた。

 剣士の丸盾は半分になり、長方形だった大盾はどう斬られたのか、正方形に近い。

 エッジは敢えて挟撃を受ける位置に自ら移動し、頻繁に盾を蹴っている。

 実に面白そうだ。


 大盾を蹴ると、バク転し、後ろ向きのまま剣士に切りかかる。

 生者のような、関節の動きに縛られる事のない体ならではの動き。

 頭もクルクルと周り、足はつま先が前後を向いている。

 腕の関節は常に緩んでいるのか、二人に向かい、鞭のようにしなり、伸びる。

 それでいて、力強い斬撃は間合いの外からも届く。

 攻撃の範囲外に逃げた方の裏に素早く回り込み、素早い連撃を繰り出し、立ち位置を誘導する。

 近い位置取りに二人がまとまると、その間に強引に割って入り、自ら二人を同時に相手する。

 実に見事だ。

 このエッジの戦い方のお陰で、俺は一切の邪魔を受けなかったのだな。



 俺の頭蓋骨は、遠くの視線を感じた。

 誰かが見ているな。

 赤く見える生者の「索敵範囲」ギリギリの位置にいる。

 エッジの戦いの邪魔はさせんぞ、生者め。

 それとも、ただ見ているだけか。

 俺はその方向を見て、指差す。


 一歩

 二歩


 ゆっくりと指さしたまま、その生者の方に歩き出す。

 三歩目を踏み出した時に、生者の姿は赤く染まる。

 その瞬間に、見ていた生者は走り去ったようだ。

 赤く見えない範囲に消えた生者に、俺は興味を失った。



 振り返り、戦闘を見る。

 生者二人は、肩で息をしているな。

 ほぼ無傷だが、もうすぐ終わるのだろう。


 その後、しばらく攻防が続く中、エッジは体を斜めに傾け回転し始めた。

 斜めのコマのような激しい回転に、二人は近付けない。

 ぴょんぴょんと小さく跳ねながら大盾に迫る。

 想像よりも小さい、コンと言う軽い音を立て衝突する。

 大盾を斜めに両断した。

 エッジの回転が停止する。

 剣士に向き直ると、その背後で、大盾の生者の体も斜めに崩れる。

 切り離された上部分が滑り落ちた後に、中身をまき散らしながら、ゆっくりと下半分も崩れた。


 残された剣士は、叫び、盾を投げ捨てた。

 両手で剣を握り、エッジに向かう。

 エッジは一本のシミターをいつの間にか鞘に収め、一刀流になっていた。

 そして、大きく振り上げたシミターを両手で持ち、待ち構えている。

 剣士は袈裟に剣を振る。

 エッジは残像を残し、踏み込む。

 俺の目に、エッジの剣の振りも、移動もはっきりと見えなかった。

 立ち位置の入れ替わった二人は剣を振り切った姿勢で止まる。


 数秒か、数分たったのか、しばらく停止していた。

 エッジは血もついていないシミターを鞘に収める。

 そして振り返ると、無造作に剣士の手から剣を奪い取った。

 剣士は動かない。

 そして俺の前までくると、奪った剣を掲げて見せた。

 まるで、「この剣はどう思う」と語りかけるようだ。


 なにかがこみ上げてる。楽しくなってきた。

 俺は顎をカタカタと鳴らすと、エッジは俺の顔を見る。

 そして同じようにカタカタと顎を鳴らす。

 その背後で、頭から股まで縦に分かれた剣士が左右に倒れた。








 デリバロスの冒険者組合

 そのギルドマスターの部屋のドアが二度ノックされる。

 ギルドマスターのナラヤンは、頭髪のない後頭部をボリボリと掻きながらドアを開ける。

 ホディトのメンバーを墓地に送り出してから、ずっと嫌な胸騒ぎがしていた。

 ホディトとスケルトンの戦いの「監視」の依頼をギルドの資金で依頼していた。

 その結果だろう。

 無事に「依頼達成」の報告ならいいのだが、違うだろうな・・・



「失礼します。依頼の報告書はまだなのですが、監視していた者が直接報告したいと」

 ナラヤンに話す、ギルド職員の顔色の悪さで察してしまう。

「ホディトのヤツらは…いや、わかった。応接室だな」

 職員の返事を聞かず、ナラヤンは応接室へ向かう。


 ドアをノックすることもなく「入るぞ」と言って入室する。

 監視を依頼していた者は、気配感知や隠密、遠視といったスキルを備えたスカウトだった。

 だが、その姿が室内には無い。

 キョロキョロと室内を見まわし、気配を探る。

 ドア側の壁際で、気配を消している存在に気付く。

 身構え、研ぎ澄ませた神経を緩めながらナラヤンは問う。

「お前、何を…そうか、それほどの相手だったのか」

 もう、話しを聞かずとも結果はわかってしまった。


 スカウトは戦闘開始から、途中までしか見ていないようだった。

 ホディトの二人が倒された時点で気付かれ、恐怖で逃げ帰ってきた。

 そこまでの話しを聞く。

 スケルトンは二体だが、その一体でホディトのメンバー四人を手玉に取っていた。

 そして、二体が二体とも「倒せるのに、倒さずに戦闘を楽しんでいる」ように見えたようだ。


「マスター!本当に…本当にあいつらは墓地から出ないのか?あそこからこの街を見ているんじゃないのか?ホディトでも止められないヤツらを誰が止められるんだ?」

 椅子に掛けず、立ったまま震える手を広げて訴えるスカウト。

 確かに、聖王国トップクラスと言われるホディトでも無理だったとなると…

 ナラヤンは目を閉じて俯く。


 ラウタロ、アミール

 すまん、仇を取ってやることはできない


 顔をあげてスカウトを見る。彼は怯え切っている。

「ご苦労だった。報酬は受付で貰ってくれ。おい」

 部屋の外に控えるギルド職員を呼ぶ。

「俺は軍に行く。戻らなかったら副支部長に任せると伝えてくれ」

 慌てる職員と振り切るナラヤン。

「そ、そんな。一度、副支部長と話し合ってから…」

「緊急を要するのだ。それと、墓地とその周辺の依頼は全て取り下げて、今後一切受けるなよ」

 そうして、ナラヤンは軍司令部に走った。





 その後、数日をかけ、軍と冒険者組合は合同で会議をした。

 災害級のモンスターを放置するのは、誰にとっても危険だ。

 軍と冒険者は協力して、墓地の調査を行った。


 しかし、スケルトンの姿は、もう確認できなかった。

 何度も、何日も調べたが、アンデッドの姿すらも一度も見かけない。

 だが、散乱する遺体と、突き立てられた剣が「何かがあった」形跡を残している。


 いつか、スケルトンが街を襲うのではないか?

 そんな疑念に囚われながらも、何もなく月日は過ぎ去っていった。


 墓地は冷たい風音だけの静寂を取り戻していた。

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