ラウタロとマイガは阿吽の呼吸で、左右に広がりながらスケルトンに迫る。
スケルトンは踊りを続けている。
左右から挟み撃ちの形をとれた。
ラウタロの袈裟切りと、マイガのシールドバッシュが同時にスケルトンに迫る。
マイガの大盾と、ラウタロの剣先が触れ合うような攻撃。
だが
二人に手ごたえは無い。
足元には崩れ去ったスケルトンの全身の骨がある。
全身の関節を外し、「伏せ」たのか?
そして立ち上がりながらシミターを振るう。
マイガは盾で防ぐ。
ラウタロが後方に跳ねて飛びのく。
その一回の跳躍の間に、盾を叩くシミターの音は十回を超えていた。
マイガの大盾の一部が欠けていた。
その後も二人は攻撃を繰り返す。
スケルトンを若干押せているようで、大きな反撃は来ない。
そもそも、後衛二人の回復時間を稼ぐ為だ。
倒しきる必要はない。
しかし
ラウタロもマイガも視界の端では捉えていた。
アミール・ラリサと交戦している、もう一体のスケルトンを。
マイガは思考を巡らせる。
「自分一人で、このスケルトンを押さえてラウタロを向こうの救援に向かわせるか」
「二人で攻め切って、倒してから向かうか」
「あの二人ならば、向こうを処理してから、こちらに援護に来てくれるか」
深い思考をする余裕も、よそ見をする余裕もない。
そして、この相手を一人で押さえられる自信もなかった。
距離を置こうと離れる相手を必要に狙い、向かってくる攻撃には反撃をしない。
体勢を崩し、致命傷を与えるチャンスがあっても、このスケルトンはそれをしない。
何故だ?何が狙いだ?手加減をしているのか? それとも、こちらを追い詰めるための何かがあるのか?
そんな事を考えている余裕がなくなる。
一瞬、視界全体が血の色に染まったかのようだった。まばたきすら間に合わず、気づけばアミールとラリサが燃えている。
「おい!マイガ!」
焦りの声を上げるラウタロ。
「落ち着くんだ!あの二人なら、回復できる。仲間を信じるんだ」
そういうマイガ自身も、焦る自分に言い聞かせていた。
「よ、よし。コイツを早く倒して救援に行こう」
シミターの連撃を躱しながら、ラウタロは叫ぶ。
徐々に疲労が溜まり、精細さを欠いた攻撃を繰り出す二人。
しかし、スケルトンは致命的な攻撃をしてこない。
シミターの峰で叩いたり、盾や体を蹴るような行動が多い。
ラウタロの視界に、崩れ落ちるアミールの姿が入ってしまった。
「アミール!」
咄嗟に走り出すラウタロに迫るスケルトンは、滑り込むように足をひっかけてラウタロを転倒させた。
大きく振りかぶったシミターを、ブンと振る。
「ラウタロ!」
マイガはシールドを押し出し、ラウタロに向かうも、彼は無事だった。
倒れて咄嗟に構えた丸盾を、横一文字に斬られていた。
大盾を倒れるラウタロの前で構え、スケルトンに向かいながらマイガは叫ぶ。
「俺が抑える!行け、ラウ!」
ラウタロが立ち上がる眼前に、二本のシミターをバツ印のようにクロスして構えるスケルトンが立ちはだかる。
「なんだと?盾の前にいたはず。目を放してないぞ!」
いつのまにか背後に回られていた。
マイガは立ち上がるラウタロの前に立つと、盾にかすかな衝撃を覚える。
視界が広くなる。
盾の強化している縁部分が全て斬られていた。
そして、盾の上にスケルトンが乗っている。
動きの変わるスケルトン。
先ほどまでの、守備的な動きから、攻撃的になる。
盾蹴りから、躍動感のある飛翔をし、連撃を討つ。
視界の隅に、どうしても捉えてしまう倒れている仲間。
それが映った瞬間に、このスケルトンは攻撃をしてくる。
まるで「自分から目を離すな」そう言っているようだ。
ラウタロとマイガが並び立つと、その間にシミターを振り回しながら割って入る。
自ら挟み撃ちの位置に立ち、前後の敵を作っているのか?
その隙を付き、攻撃をしようと踏み込むと、シミターが伸びてくる。
肘は逆に折れ曲がり、手首も肩も関節がないような、軟体動物を思わせる動きで。
足もつま先が常に二人を捉えていて、後ろにも踏み込んでくる。
「なんだ、なんなんだ、こいつは」
ラウタロの打ち下ろした剣を、肘を折るように引いて受け流す。通常ならばありえない角度のはずなのに。
そして、左右の連撃から、スケルトンは回りだした。
大気をもヒュンヒュンと切り裂く音が響く。
高速で回転する刃の嵐。
二人とも近付けないと判断し、盾を構える。
マイガの小さくなった大盾に吸い寄せられるように迫る。
コツン
そんな軽い音と共に、スケルトンの回転は停止した。
マイガの大盾が斜めに切断された。
そしてラウタロに向き合うスケルトン。
ラウタロはスケルトンの背後でマイガの体が、上下に切断された上の部分だけが、ゆっくりと斜めに滑るのを見た。
「う、うわああああああああああ」
ラウタロは盾を投げ捨て、両手で剣を握る。
大上段に構えている一本のシミターが見えた。
ラウタロは激情に駆られながらも鋭く踏み込む。
渾身の袈裟切りを放つ。
ラウタロの目には、左右に分かれて傾いてゆく景色が見えた。
それを最後に、視界は暗転した。