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取引の間

「おかえりなさいませ、マスター」


 ルーに従い、先ほどのルーの「書斎」と呼べるような部屋に戻る。

 ドロシーと呼ばれたスケルトンは入口脇に跪いているが、発言できるようだ。


「して、どうだ、エッジよ」

「ああ、悪くない。あれほどの使い手は久しぶりに見た」

 満足そうなエッジの答え。しかし、俺は発言ができない。指一本動かない。

「お前はどうだ。何かわかったか、ケイ…おっと」

 ケイ?そしてわざとらしい驚愕の表情。コイツ、俺だけ喋れない事も名前を呼んだのも、全て「故意」だな。

 俺は押し黙り、思考を押し殺す。

「いい心がけですわね。しかし、マスター。ここは私が」

「なんじゃ、明日は忙しいの。明後日?まあ、よい。行こうか」

 俺の視界はまた暗転する。

 一体なにをしたいのだ?



 何度目かの「取引の部屋」

 ルーを中心に両脇の石柱のような椅子に座る俺とエッジ。

 目の前には冒険者風の六人。


 何か違う。

 赤い生者に増悪が募る。


「アンデッドの部屋?」

「も、もう無理だ」

「しっかりしろ、リッチなら取引できるかもしれない」


 一人は意識を失っているのか、抱えられている。

 満身創痍と言った様相のパーティだ。


「ワシを討ちに来たか、来い!」


 ルーの空気を震わせる言葉に、震える冒険者。

 一人が出入口の扉に手をかけ「開かない」と騒いでいる。

 別の一人は剣を抜いた。

 それを抑え、「剣を収めろ、落ち着け」と叫んでいる。奴がリーダー格か。

 奴がこちらを向き「取引させてほしい!」と大声を張り上げる。


「ほう、何を出せる?希望を申せ」


 ルーの言葉に、一人が「助けてくれ」といい、他の者に口を塞がれた。

 そのまま窒息させてしまえと願う。

 少し考えたリーダー格は、メンバーを手で制止させて口を開く。


「この迷宮から抜け出したい。抜け道か転移できないか?」

 そして、メンバー全員から金貨袋を集め、差し出した。

「これでどうだ?」

 なるほど、この場慣れした感じ。このリーダーは元盗賊か山賊と言ったところか。現役かもしれん。

 しかし、ルーは口角を上げる。

「かっかっか。金なぞいらぬ」

「なら助け…」

 また何か言いかけたヤツが口を塞がれた。

「休息でもいい。ここは安全そうだし、少し休ませてほしい。何を出せばいい?」

 リーダーは中々したたかだな。


 だが

「お前達で殺しあえ。二人、いや三人。生き残りは休んでいくがよい」

「バカが、お前…」

 リッチが発言に向かい指を伸ばす。

 さっきから、すぐに口を開く冒険者が火柱に飲まれた。

 絶叫を上げるも、炎の渦巻く音に飲まれる。


「さて、かえるもトンビもどう飛ぶか」


 俺の体はふっと軽くなる。

 動ける。

 一番近いリーダー格に飛び掛かる。

 金属で補強されている皮の鎧と兜。

 その兜を掴み、捩じる。

 兜ごと頭をひねりにひねる。骨が砕ける音とともに引き千切った。

 近くにいる、同じような装備の生者に手渡すと受け取った。

「わっ」と驚いた顔に拳を打ち込むと、仰向けに倒れた。

 その隣のヤツは剣を抜く。

 剣を抜いて構えるまでが遅すぎて、俺は両目に指を深々と差し込んでいた。

 そして、最初から気絶している仰向けに倒れているヤツの頭を踏み砕く。

 残り二人は武器を手に、身構えている。


 いいぜ、こいよ


 手をたたく音


 そこで俺の体は動かなくなる。

 武器を構えた生者二人も止まっている。

「ああ、三人残せと言ったのに。まあ良いか。交渉決裂」

 リッチが手を叩くと、残った二人は倒れた。


「穴の種が~ゆであが~る」


 リッチの言葉で倒れた二人は起き上がり、自動で開いたドアから出ていく。

 ヤツらはもう赤くなかった。

「残りも。おい」

 俺の体は勝手に動く。

 散らばった死体や武器を、俺は開いたドアの向こうに運ぶ。

 いつのまにか、ドロシーとエッジも死体を運び、室内をほうきで掃いたり、飛び散った血を拭きとっている。

 その行いに、不快感や怒りは感じなかった。

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