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ラウルとマート

 その後も街の異変の報告は上がっていた。

 そして、冒険者がラウルの元に来たが「報告はギルドで行う」と同伴して冒険者ギルドの応接室に来た。

「ラウルの旦那。ちょっと、いや、かなりまずい事態ですぜ」

 ギルドマスターは束になった報告書を、向かいに座るラウルの前に置いた。

「その中に書いてますが、かなりの数の井戸や水源がやられている」


 ラウルはギルドマスターの話を聞きながら、報告書をパラパラとめくる。

「これは…毒なのか?」

「いや、まあ毒っちゃー毒なんだけど、なんていうか『気分の良くなる』毒だ」

 ギルドマスターは歯切れの悪い言い方をする。

「違法薬物の類か。水源の汚染は回復できるのか?」

「もう出来るトコはやってますよ。ウチのメンバーもおかしくなったら困るんで、この辺りからね。ただ、全域になったら金も手も無い」


 ああ、そういう事か。ギルドとしても仕事として受けたいのだな。

「わかった。議会を通して依頼と報酬を準備しよう」



 そうして取り組もうと思った…いや、思っていた。

 だが、もう誰も私の言葉に耳を傾ける者はいなかった。

 軍派閥の者でさえ、私に会おうともしない。

 商業ギルドも、神殿も、門前払いだった。


「お前と勇者のせいで、俺の店は燃えちまった。悪魔め」

 商業ギルドの前では、そんな事も言われた。

 仕方ないので、動かせる兵士たちを動員して、水源の回復に動くことにした。




 しかし、街では暴動が起こるようになってしまった。

 一部の、協力的な商家が資金を援助してくれて、神殿の導師たちの浄化の力を借りて、井戸などを回っていたのだが…

 汚染が回復した地域を中心に、汚染水に依存していた者たちが、浄化によって水から切り離され、禁断症状を起こし始めた。

 禁断症状を起こして暴れ出すと、連鎖的に人々が暴力的になり、瞬く間に大きな暴動になってしまった。

 兵士たちの一部も鎮圧しているが、どさくさにまぎれ、商業ギルドや神殿に押し入るものも出ている。


 一体、何故…

 本当に、マートが災厄を運んでいるのか。

 そういえば、最近、マートの顔を見ていない気がする。

 屋敷のマートの部屋に向かうと、ドアが開いていた。

 そして、マートと誰かが話している。


 部屋に入ると、ベッドの上で痙攣するようなマートと、その脇に立つスケルトン。


 私は咄嗟にスケルトンに殴りかかる。

 スケルトンは簡単に私の拳を、骨の手のひらで受け止めた。

「勇者よ。これがお前の『答え』なのか。では、やるか」

「ま、待ってくれ!ラウルは、彼は関係ないんだ!やめてくれ!」

「ああ、待つとも。時間が掛かればかかる程…くっくっく」

「マート!これは一体…こいつはなんだ?」

「ラウル、逃げるんだ!」

 そこに、廊下から走りこんできた執事の姿が見えた。


 執事は、スケルトンの姿を見て「ひっ」と言って固まった。

「貴族様、お客さんのようだ。では、また来るよ、勇者」

 スケルトンは部屋から出ていく。


 しばし、呆けていると

 ガシャン

 と、窓ガラスが割れる音が、静まり返った屋敷に響く。

「出てこい、ホルマン!お前が勇者を、悪魔を呼び込んだんだ!」

 外から怒号が聞こえる。

 窓の外には、たくさんの者たちが見えた。

 手には松明を持つものがいる。

 まさか…



 燃え盛る屋敷の中、マートはラウルの前に立ち剣を構えた。

 向かい合うのは、街の市民たち。

 その目はギラギラと炎を反射している。

「待て、マート。街の者を斬ってはダメだ」

「で、でも、彼らはラウルを攻撃しようと」

 飛んでくる石や松明を剣で弾きながら、マートは答える。


 やっぱり、マートは強いんだな。

「ラウル、一緒に逃げよう!」

「マート…私はこの街の人間だ。かつての『勇者マーティン』のように、困難に立ち向かわないと」

 ラウルはマートを押しのけて、手を広げて人だかりに向かう。

「みなさん、落ち着いてください。まだ、間に合います。皆でこの街を救おうではな…」

 話している途中で、石が飛び、こん棒を構えた人が殺到する。


 マートは…剣を握りしめ、窓を破って逃げ出した。

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