Fallen Angel’s Lover ―僕の恋のキューピッドは堕天使のようです―
作者・皐月紫音 様
最初に思ったことをそのまま書くと、ミスマッチ。
地の文章のレベルは高いのに、それを生かし切れずにセリフが多いという印象を受けた。
おそらく、作者の中ではセリフを言っている間もキャラクターは動いているのだろうが、それが全く表現されていない。予想だが、作者の頭の中ではアニメのように生き生きとキャラクターが動いているように思うが、その情景が小説の文体にアウトプットできていない。
セリフはセリフであり、動的なセリフというのはとても難しい。それを補う為の地の文であるのだが、その地の文が適切な量が用意されていないという感覚。
会話もテンポがよく進む部分もあるが、そういうところに限って地の描写がなく会話だけで進む。
コメディ部分も思わず吹き出してしまうようなセンスもあり、面白い。
ミクロな視点でそれぞれを見れば尖った才能で面白い文章を書いているのだが、ひいてマクロにするとバランスが悪いと感じてしまう。
そういった意味でミスマッチが多いと感じた。
本当にそれぞれのレベルは高いのだが、ひたすらに惜しい。
ストーリーとしては初手のインパクトが薄く、だらだらと1話を読んでしまったような感覚。
もう少しガツンとくるフックが欲しい。この1話で2話を読んで貰えるかはかなり不安。
一方で最後まで読めばまあまあ面白い。構成がWeb小説でなく、単行本のそれである。
1話の最初に『僕が振られる5分前の話』くらいのアオリを入れてもいいのではないかと思う。
一番問題なのは最後の歌であり、ここはかなり好き嫌いが分かれると思う。
ちなみに私は嫌いだった。
何故ならば堕天使の『願いを叶えると報われる』という描写がなにも為されず、ストーリーが完全に不完全燃焼になっているから。
それを綺麗な歌で誤魔化しているという印象。故にかなりの悪印象である。
話を素直に読み解けば『願いを叶えていないのだから報われるはずがない』と読み解けるのだが、それにしては堕天使のやる気が感じにくい。
そういったキャラクターといえばそれまでなのだが、設定と矛盾している気がしてならないのだ。
以下、書き出し。
文章力 10/20
文章力自体は高いのだが、構成や地の文などの絡ませ方が大分うまくいっていない。
5点マイナスの倍としての評価で10点とした。
先ほども書いたが、作者の頭の中ではアニメ調の生き生きとした活劇になっていると思うのだが、それを小説として文面に落とした時にどう思われるかを今一度見直した方が良い。
キャラクター設定 10/20
設定自体はとてもいいのだが、全く生かし切れていない。他人に惚れる女性に惚れる男性と、願いを叶えれば堕天使から天使に戻れる女性。
こんないい配牌を引き寄せているのに、テンパイすらできずに流局した気分である。こちらも5点マイナスの倍で10点評価。
盛り上がる物語の終点を決めて、そこに向かって書いていくと良いかもしれない。
世界観と設定 12/20
現実世界に、願いを叶える天使を混ぜ込んだ世界観。普通と言えば普通であり、普通によい素材をどう生かすかというのが論旨であるはず。
の、だが。結局、他人の恋路を応援するだけで終わってしまった。「自分の恋人が欲しい」というのが本音であるのか疑問であるが、そこはいい。問題はその願いを聞いたサハリエルがどう対応するかである。
そこが全く表現できていなかったので、4点減点の倍で12点評価。
テーマとメッセージ性 18/20
これはかなりしゃんと一本筋が通っていた。「他人の恋愛を成就させる」という方向で主人公もヒロインも一致しており、その表現は見事である。
一方で、この方向で掘り下げるならもっと面白くできるだろうという期待感も強い。
満点にするほど成長性がない訳ではないので、未来への期待として2点マイナスをした。この2点は成長分の余地である。
主観による加減点 15/20
ストーリーが好みか好みでないかといえば、かなり好みである。主人公に安易な恋人ができないのは大分好き。
一方で、自分で提示した問題にほとんど答えていないのはどうかと思う。5点減点なのはその点。
堕天使サハリエルの目標を最後に聞いてみたいところである。
総評 65/100
作家としての一つ一つのレベルは高いのに、総評するとこの点数になってしまう。自分が納得してしまうのが悲しい。
自分で提示した問題の解決と、地の文・会話・テンポの組み合わせ。これを意識するだけで限りなく満点に近づくと思う。