彼は、英雄とは呼ばれずに(1章)
作者・トド 様
とっ散らかった作品、という感想がまず最初に出てくる。
読後感はかなり悪く、更には必要の無い情報もたくさん書かれており、それ必要だった? と読み終わってから思う事も少なくなかった。
群像劇を書きたいのは伝わるが、まず必要なのは読者に続きを読みたいと思わせる事である。
初手から4人も5人も自己紹介染みたキャラを登場させても頭に入ってこない。一目で特徴が掴める、もしくは掴みやすい漫画と違い、外見的特徴を書き連ねても小説では効果が薄い。目が滑るのみである。
多数のキャラを登場させているが、その役割がしっかりとしていない。例えば団長と副団長の両方を登場させているが、その両方を出す意味はあったのか。団長のみ、もしくは副団長のみを登場させても話は進んだのではなかったのか。
最初に自警団のレイを登場させて、彼が主人公のように話を進めていた。が、しかし彼は主人公ではなく主人公であるジェノを別視点で見る役割しか与えられなかった。そんな彼の話に長々とした文字数を割く必要はあったのか。彼の弟の話を1章に差し込む必要はあったのか。
更に読後感が悪いというところに切り込むと、だいたい誰も得をせずに損をするかもしくは悪感情を他者に持って終わる部分である。
自警団はその誇りを傷つけられ、その発端となった冒険者ギルドと主人公であるジェノを恨んで終わりであり、なんのフォローもされていない。
冒険者ギルドは結局名声を自警団に渡し、冒険者たちに支払った金だけ損をしただけである。ギルドマスターの自己陶酔以外に得たものがなく、こういう事をしているから嫌われるんだなぁと納得するしかない所作であった。
自警団のレイもプライドを傷つけられたあげく、自分を舐め腐ったジェノに正当な怒りを向けるもジェノの知り合いからは「何も知らないくせに」と言われる始末。明らかに「何も言わなかった」ジェノが悪い話であり、少なくとも自警団の仲間と思っていたジェノに裏切られたレイが気の毒過ぎる。
ジェノも自分のトラウマに似たコウを助ける事を優先して、自分の評価を著しく落とした。自警団からは嫌悪の目を向けられる事は当然であり、彼の所属する冒険者ギルドも評価が下がる事が避けられない。社会人として三流以下の仕事しかしておらず、自分の過去のキズに浸っている場合ではない。金のために信頼を裏切る事を認めた男なぞ、誰が信用できようか。物語の初手として決してやってはいけない話の作り方である。
正直に言って、褒めるところが何もないレベルである。キャラは立たない、主人公は途中から変わる、読後感は悪い。
世の中の名作はなぜ名作であるのか、それを見つめ直すところからはじめた方が良いかもしれない。
以下、書き出し。
文章力 4/20
0点にするほど基本が出来ていない訳ではないが、とにかく目が滑る文章である。
作者の書きたい事を優先して、読者にどう思われるのかを意識していない。これが特に顕著なのが最初のキャラ紹介であり、何人ものキャラの特徴をひたすら書き連ねられて、とにかく情報が頭に入ってこない。
4点の倍減点、更に倍減点として評価した。
『読まれる文章』というものと真っ正面から向き合うべきだと思う。
キャラクター設定 5/20
とにかくキャラクターに魅力がない。これに尽きる。読んでいて応援したくなる気持ちがわくのはレイくらいであるし、ジェノのうじうじとして他人に敬意を払わない部分などは不快であると言い切っていい。
リットも希少な魔術師であるのに気楽に出し過ぎて、しかもへらへらとし過ぎていて違和感しかない。国に召し抱えられる魔法使いレベルであるリットが普通にいるのがおかしい。手綱を握れないなら国が暗殺しなくてはいけないと思うようなキャラであると思うのだが。
作者の都合のいいようにキャラを作りすぎて、それがストーリーを明らかに歪めている。5点の3倍減点と評価した。
世界観と設定 10/20
普通の剣と魔法の世界と言った風情であり、可もなく不可もなくといったところ。そういう意味での世界観はしっかりと描かれている。
ただ、それがありふれている昨今、突出していい世界観や設定であるかというとそうではない。
もう一工夫と言わずに、三工夫くらい欲しいところである。
テーマとメッセージ性 15/20
理解されない正義の味方、という題材がまあまあ描けている。が、それにしては「私はあなたの事を分かっている」という人物が多すぎるように思う。
中途半端に理解されるから、中途半端に嫌悪感を持つ典型的な主人公がジェノであると言っていい。その分を5点減点とした。
少なくともマイナスの意味で英雄には呼ばれない理由は納得できるし、応援したいとも思えないキャラがジェノである。他人に興味がなさ過ぎて人間性がないものを正義の味方としていかがなものかとは思う。
主観による加減点 0/20
どこかで見たような設定とキャラを継ぎ足し縫い合わせたような作品であるという印象しか受けなかった。
その上で「作者がカッコイイと思う英雄像」を提示された上に、その英雄像に共感を得る事もできなかった。
これは作者が自分の世界を確立していない事に起因する、根深い問題であるように思う。
自分のない作品を私は全く評価しない。よって0点とさせていただいた。
総評 34/100
まずは厳しい評価になってしまったと言うべきだろう。
自分の描きたい物語はなんなのか、そしてそれは果たして多くの人の共感を得られるのだろうか。
もしも共感が得られない、もしくは得られにくいとしたら、それはどう改善していくべきだろうか。
がむしゃらに進むのではなく、一度立ち止まって自分の事を見つめ直してもいいのではないだろうか。
文章量は多く、熱意があることは認める人は多いだろう。私もその1人であることは否定しない。
だが、守破離のうちでまだ守も道半ばのように思う。まずは良い師匠を見つけるべきか、そうでないなら感銘を受けた名作を繰り返し読むような事を推奨したい。
焦らず、基礎を固める段階であるように思う。