「どうかした？　大丈夫？」

　じっと彼女を見つめる僕に向かってきた言葉で我に返る。

「あ、そっか、日本語しゃべったから驚いちゃったのね。私、芳野聖実よしのさとみ日本人よ、よろしくね」

「ぼ、僕は朝比奈和颯あさひなかずさです、さっきは、あの、た、助かりました」

　慌てて視線を外しながら挨拶を返した。顔が火照っているのが自分でも分かる、恥ずかしさなのか、異性を意識し過ぎたのか……。

　耳まで真っ赤なんだろうな……。

　視線を逸らしてもまだ彼女の顔が映し出されている……目ではない何かが彼女を投影している。

　心が彼女の顔をいつまでも瞳の奥から消さないようにしているのだろうか？　彼女に気持ちを悟られないよう距離を取る。

　そして違うことを色々思い出して考えてみる。

　さっき怒った中国人があの時の家政婦に思えた。そしてあの時と同じように僕は気持ちを隠した。

　隠したのは……何から何を隠そうとしたのかも良く分からずに。