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第6話

 僕には父母の記憶はほぼない。祖父のいつきと二人で生きてきた。

 父母は事故で死んだようで、保険金なのか慰謝料なのか二人で暮らすには、さほど困ってはいなかった。




 中学校を卒業するころまで、家には家政婦がいて身の回りの世話をしてくれていた。

 高校に入ってからは僕も家事をこなせるようになって、じいちゃんも寝たきりになることなく二人で力を合わせて暮らしていた。


 僕の寂しさが人並み程度で済んでいたのは、じいちゃんのおかげであるところが大きい。




 小学校の頃いた一人目の家政婦のおばちゃんは身体も大きく太っていて、いつもぶつくさ文句を言いながら碌に家事もしていなかったのを覚えている。


「いいかい、これはおじいちゃんに頼まれて後で買い物に行くお金なんだからね。おじいちゃんには絶対言っちゃだめだよ、分かってるね」


 僕が小学二年生の時、仏壇下の引き出しから、家政婦が自分のポケットにお金を入れているのを見た。

 父母の仏壇だった。一年の内、何回かしか拭かないけれども、ほぼ毎日お線香をあげているその仏壇は茶の間に置かれており、じいちゃんは珍しくそこに居なかった。



 ものすごい怖い顔で睨まれて、今でもその顔は忘れられていない。




 後でじいちゃんは気付いたようだったが、特別騒ぐこともしなかった。

「『いっちょういっし』だよ、和颯かずさ


 ただ一言僕にそう言った。


 だから僕は『おばちゃんが言ったことが間違いじゃない』のか『ポケットに入れたお金が少しだからじいちゃんが気にしない』のかどっちかだと思った。


 それは僕の嘘だ、家政婦のおばちゃんが怖かったのと、じいちゃんが可哀そうに感じた、その気持ちを隠すために、そう思うことにしたんだと思う。


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