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第3話 二人の光「エターナルガールLiLi」

 アンデッドガールLaLa。変身したLaLaは、立ち上がろうとする甲冑に肉薄、兜を蹴り飛ばし、首の内側についている刻印の一つを破壊する。

「やっぱりこの甲冑、『終ワラズノ騎士』にゃね! それならこの刻印を壊せば甲冑を動かせなくなるでしょ!」

 LaLaの宣言通り、刻印を壊された甲冑は動かなくなる。しかし、甲冑のマントがぐい、と伸び、LaLaの首に巻きつく。

「にゃっ!?」

「マントにも刻印!!」

 歌折も息を飲んだ。けれど、黙って見るなんてできない、とLaLaに巻きつく布に手を伸ばす。

 びりびりと、歌折の手でマントが破かれる。

「た、助かったにゃ」

「よかった。装飾のマントは掴まれたら隙ができるから、破けやすい場合があるって聞いたことがあるの」

「なるほど。ありがとにゃ。でもアナタは隠れてるにゃ」

「できることはない?」

「そろそろシオリが帰ってくるにゃ。『グリムローズが来た』って伝言お願い、にゃ!」

 言いながら、動かない甲冑を盾に、他の甲冑の攻撃を防ぐLaLa。歌折の行動から、敵のマントを剥ぎ取り、目眩ましにばっと広げて使う。

 シオリというのは先程も口にしていた名前だ。リサイクルショップの店主だろうか。変身するLaLaの事情も知っているなら、話は早いだろう。

 足手纏いになるよりは、と歌折は表口に向かう。甲冑はLaLaが押さえてくれているので、追っ手もなく来られた。商品の時計がかちかちと時を刻んでいる。時間は午後四時に向かおうとしていた。

 何か武器になるものはないだろうか、と探す。LaLaを信じてはいるが、護身用に何かあった方が安心だ。

「ん、お客サン? って、アンタ」

 少女の声がし、振り向く。歌折を見るなり、「うお、まぶし!」と目元に手を当てる短めのボブヘアの少女。学校帰りらしく、ブレザーを着ていた。

「あなたがシオリさん? 今、ララちゃんが大変なの! 『グリムローズが来た』って」

 グリムローズと聞いた瞬間に、少女の顔色が変わる。歌折の顔を見て、苦々しげに「なるほどな」と呟いた。

「オッケー。そこのコンパクト持ってくれる?」

「? はい」

 コンパクトと言われ、ララが持っていたのと似たようなものがあることに気づく。それを手に取り振り向く頃には、少女はゴーグルをつけ、目元を隠していた。表情がわからない。

 行くよ、と言われ、歌折はついていく。あの、これ、と少女——シオリにコンパクトを差し出すが、シオリは全く受け取ろうとしない。

 早足で裏手に向かいながら、シオリが説明する。

「それは『FLOWERWORKSシステム』って変身機能が組み込まれた俗に言う『魔法のコンパクト』ってヤツだ。グリムローズって悪いヤツらと戦うために、オレが作った」

「あなたが!?」

 歌折の反応に「実はすごいヤツなんだぜ?」と得意げな笑みを閃かせるシオリ。けれどすぐ前に向き直ってしまう。

 続く声は暗い。

「でもオレは変身できない。そのコンパクトじゃダメみたいだ」

「だったらなんで」

「持たせたかって?」

 シオリはニシシッと悪戯な色をした声で笑った。歌折が疑問符を浮かべたままでいるところに、告げる。

「アンタなら使うかと思って」

「……へえっ!?」

 何故。シオリとは初対面のはずだ。

「アンタ、由比歌折だろ」

「えっ、あの」

「ダイジョーブ、変装はできてる。でもオーラまでは隠せねえよな。ハハッ」

 そういえば、シオリはカオリンのファンだ、みたいなことをララが言っていた気がする。歌折をフォローしたつもりだろうが、バレているのなら、変装に意味なんてないのだ。

 からからとした笑いを収めると、シオリはトーンを落とした声で続ける。

「ヤツらが狙ってんのはアンタだ」

 心当たりのない断定。断定的な表現とは、通常、受け入れづらいもののはずである。けれど、シオリの言葉は確信の色が強く、歌折は思わず「そうなんだ」と納得してしまった。

 でもなんで?

「なんでどうしては当然あるだろうが、それは話すと長くなる。ララが変身するの、見たんだろ? これは戦う力になるんだ。アンタには身を守る力が必要だろう。それなら、使ってほしい。アンタなら使える」

 歌折の疑問を予期していたようにシオリは補足し、コンパクトを持つ歌折の手を軽く叩く。添えるような優しさ。思いを託すような。

 代わりに戦ってくれ、ということなのだろうか。歌折はゴーグルに隠れて見えないシオリの表情に思いを馳せる。

 変身できないと言っていた。試した上で駄目だったのだろう。戦う力を得るための変身アイテムまで作ったのに、自分は使えない。戦えない。どれだけ悔しいことか。

 それなら、私は、と歌折が決断を述べるより先に、甲冑が剣を振るい、襲いかかってくる。シオリは飛び退き、チッと舌打ちした。

「ムセイか。厄介な」

「知ってるの?」

「ああ。甲冑とかマントとかに紋章が刻まれてるだろ? あの紋章のついたものを物理的に操ることができるグリムローズの上級戦闘員だ」

 紋章さえあれば、自在に操れる。だからあの甲冑の中身は空なのだ。繰り出される剣から逃げていると、LaLaが吹き飛ばされてきた。

「にゃっ」

「ララちゃん!」

「大丈夫か、LaLa」

 シオリの声に、LaLaがぱっと表情を明るくする。

「シオリ! LiLiパクトから、武器は出せないにゃ?」

「LiLiパクトはLiLiに変身したヤツしか使えないぞ。互換性ねぇから」

 変身はしたものの武器がないらしい。今までどうやって戦っていたのだろう。

「甲冑が落とした剣、うまく使えないにゃ! 勝手に動くにゃ」

「紋章が仕込んであんだろ。終ワラズノはそういうヤツだ」

「でもでも、操ってるってことは高見の見物にゃ。どうやって止めるにゃ?」

 向かってくる甲冑をLaLaは徒手空拳でいなし、シオリに意見を求める。歌折はあれ、と思った。


『見つけた』


 歌折は甲冑の人物の声を聞いている。あれはどう考えてもマイクを介して出た機械音声などではない。アイドルという仕事柄、声質の聞き分けはできる。

「この中に、本体がいるはずです」

「えっ」

「声を聞きました。あれは絶対生声です」

「由比歌折が言うんだ。そうなんだろう。ただ……見分けつくか?」

 シオリの言葉に、堂々としていた歌折も縮こまる。

 甲冑たちの動きは、人が入っていないのが不思議なくらいに熟練されている。対応も臨機応変。空洞なのを事前に見ていなければ、操られているなんてわからない。

 わかるとしたら、実際に打ち合うしかないだろう。空洞とそうじゃないのでは、一撃の重みが違うはずだ。だから——

「使っても、いいんですよね、これ」

 歌折が、コンパクトを胸の前に持ってきて示す。LaLaが、なんでこの子が! と驚いたような顔をするが、甲冑たちからの絶え間ない連撃に、こちらへ意識を割くことができない。

 シオリが加勢しようと腰に挿していたレンチを構える。歌折はそれをそっと制した。

「ありがとう。でもね、私も守りたい。わかったんだ。どうしたいか。なんで歌いたいか」

 だから、選んだよ——朗らかに笑うと、歌折はサングラスを取り、シオリに預けた。隠されていた煌めきが露になると、心持ち、周辺が明るくなったような錯覚さえ覚える。

 その輝き、衰えることを知らず。スーパーアイドルカオリンこと、由比歌折は、ステージ衣装でなくとも、輝ける少女。

 コンパクトを構え、ぽんと叩くと呪文を叫ぶ。

「FLOWERWORKS! SHINE!!」

 リィン、と鈴のような音色。それと共に円形に広がった光が、迫る甲冑の騎士たちを弾き飛ばす。

 肩ほどまでだったサイドテールは太腿のあたりまで伸び、そのシルバーピンクはいっそう鮮やかに。星をあしらった髪飾り、紫色の花のブローチ。レース飾りで彩られたミスティピンクのフレアスカート。そこにも星のモチーフが光る。ひっそりと寄り添う月が、その輝きの中に佇んでいた。

 金色の瞳は夏に咲く花のような紫。ステージのアイドルと同じ、可能性に満ちた煌めきを宿してぱちりと瞬く。

「私の輝きは、いつだってここに! エターナルガールLiLi!!

 LaLaちゃん、シオリちゃん、守ろうとしてくれてありがとう。私……私もね、守りたいんだ。応援してくれるみんなを、守りたかった。だから、たたかうよ!」

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