怜と心が通じ合った日向はあの日以来、誰が見ても分かるぐらいに笑顔が増えた。
「最近日向、いいことあった?」
大学で亜里沙が尋ねる。
「え?」
「だっていっつも嬉しそう」
だっていつも日向のことを見ていたんだから、と亜里沙が目で訴えるが、
「そうかな……フフ」と言われただけであった。
サークルでも日向は嬉しそうに話すことが増えた。
亜里沙は一体彼に何があったのか、気になって仕方がない。
「まさか彼女でもできたのかな」と亜里沙が友人と電話で話す。
「それはあるね、けど亜里沙のことだから何かしらのアピールはしたんでしょう?」
「うーん……日向とは仲良いつもりだったけど。いっつもあたしが喋っていたし」
「それはまずいかもね。ちゃんと聞き役に回らないと」
「でも日向はあたしには必要なこと以外は何も話してくれない……」
「そっかぁ。本当に諦めきれないなら、待つのも一つかな。まず相手がいるなら誰かどうかを確認したら? その子がどんなタイプかを見て、あとはその子と友人になって日向くんのことを聞けばいいじゃない」
「何それ。どこかの漫画みたいな話。どうやって確認するのよ」
「それは尾行でしょ?」
「あのさ、他人事だと思ってるよね?」
「うん、聞いてる分には楽しいわよ」
「あぁ……いっそのこと、直接聞けたらいいのに。でも聞いちゃったら日向にどう思われるか」
「まぁ頑張って。良い報告を待ってるわ」
「わかったわよ」
亜里沙が電話を切る。
あんなに可愛い見た目をしている日向だ。きっと周りの女性が放っておかないだろう。
それにしても彼がどういう女性が好きなのか、普段どういう生活をしているのか……亜里沙は全然知らない。
大学でも初めて所属したサークルはきっと亜里沙が連れていったところに違いない。
大人しくて、何を考えているのかわからない日向。
そしていつも別のところを見つめているような日向。
もともとあたしのことは眼中にもなかったのかな。どんなに頑張ったところであたしには……
だけど、一度確認しなきゃね。
※※※
日向が怜のバーである「ルパン」でアルバイトを始めた。初めてのアルバイト、まずは注文を取るところから……だが、お酒を飲めない日向にとってこんなに多くの種類を一度には把握できない。
さらにお酒を飲めない日向が、客からメニューの内容を聞かれた場合、それに答えられるのか。
「何だか僕……お役に立てそうにないです」
そう言って日向がシュンとしていたが、怜は
「ビールばかり飲む奴だって最初はなかなか把握できないさ。少しずつでいいんだよ。まずは慣れることだな」と言う。
これが社会勉強というものか。
初日は途中で眠くなってしまった日向。
アルバイトとはいえ社会に出て働くことは、学生生活とは別の体力や精神力を使う。
そしてノンアルコールでも眠くなるほどの日向の体力である。あまりにもフラフラしていたため、いつも通り怜に2階に連れて行かれた。
そして翌朝。日向が怜に話す。
「僕……アルバイト向いてないのかも」
「ひな、毎日じゃなくていいんだぞ。無理して倒れるわけにはいかないだろう?」
「そうだね」
「お前にはまず大学生活があるんだから。学生時代はあっという間だぞ? 例えば夏休みとか、そういう時にバイトするのがいいかもな」
「そっか……」
「いや、そもそもバイトに誘った俺が良くなかったな」
「ううん、僕が一緒にいたいって言ったから……」
怜を見つめる日向。じゃあ、どうすれば一緒にいられるの? といった顔である。
そんな日向に怜は優しくキスをする。
「お前の来たい時に来たらいい。この店に来たら100%、2階に行って一晩過ごすじゃないか」
「あ……ほんとだ……ハハ……」
「もう半分ぐらい一緒にいるようなものだろう?」
「うん……」
日向は笑顔で怜に抱きついた。もういつだって怜の所に来ても良いのだ。