「今日行ってもいい?」
「いいぞ」
……と、嬉しそうにメールのやり取りをする日向を見た亜里沙。これは……今日彼女(?)と会うんじゃない? と女の勘が働く。
「日向、今日はこの後サークル行く?」
「ううん、今日は帰るよ」
やっぱり会うんだわ……よし、尾行してみよう。あたしは決心した。こんなこといけないとは分かっているけれど、知りたいの。日向のことをもっと知りたくてたまらない。
日向に見つからないように遠くから彼の後をつける。電車に乗って着いた先は……日向の家の最寄り駅だった。前に酔い潰れた日向を連れて降りた駅。
これは普通に家に帰るだけかしら?
しばらく様子を見ていると路地裏に入って行く。あそこは、以前に酔い潰れた日向が向かった場所。そこにある「ルパン」の看板の店に入って行った。
ここは明らかにバーだわ。お酒の飲めない日向がどうしてこんな場所に?
そしてあたしも思い切って「ルパン」に入ってみた。
「お一人様ですね、カウンターへどうぞ」
結局1人だとカウンターに通され、そこで日向に見つかるのだが……
「亜里沙? どうしてここに?」と日向に聞かれる。
「えーーーーっと……そう! 前に日向が酔い潰れた時にいい雰囲気のバーがあるなーって思ってて、気になって♪ 」
「そうだったんだ、ここはノンアルコールもあるから、僕気に入ってるんだ」
いや、最近はどこもノンアルコールあるわよ? とあたしは思いながら、
「そうなのね」と言った。
奥からバーテンダーが出てくる。
「おや、今日は君も一緒か?」
「あ、どうも……」
日向の父親っぽいこの人はバーテンダーだったのね。そしてあたしは普通のカクテルを飲んで、日向やバーテンダーと世間話をする。そこそこ時間が経過した。
……あれ? 誰も来なくない?
「日向は今日1人でここに?」
「うん、そうだよ」
日向が1人でこのバーに来てノンアルコールカクテルを飲んで……それだけ?
もう分からない! こうなったら思い切って聞くわよ?
「最近日向、嬉しそうなんです」とバーテンダーに言ってみる。
「そうか、ひなは分かりやすいからな」
「怜さん……そんなに僕分かりやすい?」
「そうだな、今だって嬉しそうにして」
「え? だって……」
怜さんがいるんだもの、と日向は思って頬が染まる。
「あら? 日向やっぱりいいことあったんでしょう? あたし気になるなぁ♪」
「君に分かるかな?」とバーテンダーに言われる。
「そうねぇ……」
確かめたい。でも彼女ができたんでしょう? と聞いてもしそうだと言われたら。あぁ、聞く勇気がない……
あたしがうーんと考えている間も日向とバーテンダーは2人で笑顔で話している。うぅ……ここまで来たのにどうしたら……もういいわ、一度探ってみるわよ!
「あたしは日向が恋でもしているように見えたけど。その相手は……今日は来ないのね?」
聞いちゃった……じっと日向を見る。
「来ないというか」日向がバーテンダーの方を向く。
「そうだな、今から来るわけではないな」とバーテンダーが言う。
目の前にいる俺に会いに来たんだよ、ひなは……と怜は思っている。
あたしは少々酔っていることもあり、「?」の状態。恋はしているけれど、今日ではなかったってこと? じゃあいつ会うのかしら……?
「ごめんあたし……そろそろ帰るね」
そう言ってあたしはバーを出た。空振りかぁ……だけど、日向は誰かに恋をしているのね。
そう思うと涙がぽろぽろと出てくる。
あたしじゃない誰かに、日向が恋をした。
やっぱり辛いなぁ。こういうのって。
※※※
亜里沙が帰った後、怜が言う。
「あの亜里沙っていう子、明らかにお前に気があるようだが」
「え? 何で?」
「ひな、鈍感だな……」
「だって、何も言われていないもん」
「フフ……そうか、じゃあ何か言われたらどうするんだ? 付き合ってほしいとか」
「僕には一緒にいたい人がいるって言うよ」
「それでいいのか? 俺みたいなおじさんではなく、普通の恋愛をしたいとか……これまでなかったのか?」
「なかったよ。僕にとってはこれが普通の恋愛だから……ね?」
じっと見つめる日向を見て、今すぐ2階に連れて行きたくなってしまう怜であった。
「そうか」
何が普通かだなんて、人によって違うとは思っていても……怜は日向とこのような関係を持つことが許されるのか、少し不安に思っていた。
「怜さん……」
「ん?」
「眠い……」
「あ、そうだったな」
日向と怜は2階に行く。
「毎回ソファじゃ疲れるだろう? ベッドを使ってくれても良いぞ」
「ありがとう……今日はそうしようかな」
「じゃあ俺は店に戻るから」
そう怜は言ったが、日向がいつものように大きな瞳で見つめている。何かを欲しがるような瞳である。
怜は日向をギュッと抱いて頭を撫でた。そして彼と唇を重ねる。日向は幸せそうな顔になった。
「怜さん、お店……いってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」