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第13話 尊敬から始まる恋愛、そして本当にしたい恋愛

「へぇー良かったじゃないの」

 亜里沙が友人に怜のバーで相談したことを話していた。

「日向が好きになるのも分かるって感じ……どうすればああいう年の取り方をするのかしら」

「亜里沙……まさか怜さんのことを?」

「んなわけないでしょう! あたしはフツーの恋愛がしたいだけ!」

「普通ねぇ……私も行こうかしら、そこのバー」


 そういうことで今度は亜里沙の友人が怜のバー「ルパン」に1人で入ってみた。

「いらっしゃいませ、どうぞカウンターへ」

 奥でグラスを拭いている怜がいる。

「お、君は確か前に来てくれたね」

「はい、前は日向くんと亜里沙と3人だったけど、今日は私ひとりで」

「名前は確か……」

景子けいこです」


 景子は怜のおすすめでカクテルを作ってもらった。紫で落ち着いた色である。

「さすが怜さん、私の好みを分かっていますね」

「気に入ってくれたなら良かったよ」

「亜里沙が喜んでいました、怜さんに相談に乗ってもらったと」

「そうか」

「今日は私の話……聞いてくれる?」


 景子が首を傾げて怜の方を見る。

「フフ……どうぞ」と怜。

「絶対叶わない恋愛があったとして、それでも諦められなかったらどうすれば良いと思いますか?」

「そんなことがあったのか」


「私は……同年代の人と話しても、まず恋愛には発展しない。好きになる人は大体年が離れている人で、既婚者だったこともあるわ。大体男性って30代後半ぐらいから素敵に見えてくるのよ。これまでの生き様が表情や仕草に出ている。そこに私は憧れてしまう。でも大体……すでにお相手がいるのよ」

「君は精神年齢がだいぶ大人なのかもな」

「大人……かしら?」

「もしくは……甘えたいといったところか」


「そうですね、甘えられるのはいいですよね。あとは……年上の人と付き合うと自分も成長できるような気がして」

「確かにそうだな、自分の知らないことを知っているとなれば……そういう所を好きになってしまいそうだ」


 怜が続ける。

「年齢関係なく尊敬できる人っていうのは、付き合う上では大切になってくると思うよ。相手を敬い、相手を認めることが……恋愛でも人間関係でも必要となってくるかもな」

「そう、尊敬できるかって大事ですよね? それがなくなってしまうと途端に『どうしてこの人と付き合っているのだろう』って思っちゃうわ」


「案外それまで何とも思っていなかった人と話した時に……状況によっては尊敬できるところが見つかるかもしれない、タイミング次第かもしれないがな」

「そうですね……」

「無理に見つけようとしなくていいんだ、時間と経験を積み重ねれば……自分の考え方だって変わることもあるさ」

「そっかぁ……じゃあ私もこれまでと変わらず色々な人と会って、自分に合いそうな人を見つけていけば……そのうちって感じよね」


「大学生なんて、まだまだこれからだぞ? フフ……」

「じゃあ怜さんは……叶わない恋愛ってしたことあるの?」

 景子が思い切って聞いてみた。そして怜が考えている。

「このぐらいの年になれば、そこそこは」

「ふーん、怜さんって昔モテていたでしょう?」

「……そんなことないぞ」

「そう言う人に限ってね、気づいていないだけだったりするんだから」


「確かに。俺は気づいていなさそうだな」

「怜さん……それ、若い頃は多分モテていたんだぞって言ってるようなものだから」

「あ……そうきたか。君には参ったな」

「ハハハッ……」


 そして景子が唐突に言う。

「もし……私が怜さんのこと好きになったら……どうします?」

「この年でも俺はモテるんだな、と思うさ」

「そうじゃなくて……本気だったらの話」

 景子がまた首を傾げて目をトロンとさせて……怜の答えを待っている。


「俺みたいなおじさんはお勧めしないな」

「あら、さっき年齢は関係なく尊敬できることが大切って言ってたじゃない。私は怜さんを……尊敬しているのよ?」

「そうか……」

「うふふ……日向くんがいるから?」


 怜の表情が一瞬変わったが、

「あいつは……何だかんだで放っておけないからな」と言った。

「日向くんが羨ましいわ、私もそうなりたいわね」

 ひなみたいなのがもう一人いたら、どう相手すればいいんだ? ただ、それはそれで面白そうだなと怜は思った。



「いらっしゃいませ」と言う声と共に日向が現れた。

「あ、景子さん……こんにちは」

「日向くん、こんにちは♪」

「今日は亜里沙と一緒じゃないの?」

「ええ、私も気になっちゃってね。このバーと……怜さんのことが♪」

「ええっ? れ……怜さんと……どんな話してたの?」

 明らかに動揺している日向を見て景子がニヤっと笑う。


「そうねぇ……恋愛には尊敬の心が大切で、私は怜さんを尊敬しているっていう話をしたわよ」

「えーー? どういうこと? 景子さんは、怜さんのことを……」

 ひな、いちいち驚きすぎなんだよ。そこがまた可愛いのだが、と怜が笑いを堪えながら思う。

「ふふ……まぁあれだけ話を聞いてもらったら、尊敬はするわよ。ああ楽しかったわー! じゃあ怜さん、また来るから♪」

 そう言って景子が帰っていった。


「僕が亜里沙と景子さんを連れて来ちゃったからかな……うぅ……もう怜さんの店に誰も連れて来ないんだからっ」

「まぁまぁひな、落ち着け」


 いつもの日向のオレンジ色のノンアルコールカクテルが置かれた。

「怜さん嬉しそう。景子さんと話せて楽しかった?」

 また明らかに嫉妬している日向である。

「お客様との会話だからな、色々話せるのは楽しいぞ」

「そうだよね……」


「見てて飽きないのはお前だからな」

 日向の頬が染まっていく。

「僕も……ここに来るのは飽きないよ」

「それは良かった」

「それで……怜さんは……誰か尊敬する人がいるの?」

 恋愛には尊敬の心が大切、と言っていた景子のことが気になったようだな、ひな……と思いながら優しい目をする怜。

「何人もいるさ」


「な……何人も?」

「ある人の明るい所、また別の人の一生懸命な姿、またまた別の人の……素直で正直なところとか。人それぞれ良い所が見つかると、ああこの人すごいなって思うことが……あるものさ」

「怜さん……僕もいつか誰かに尊敬されるようなすごい人になれるかな」


「きっとなれるさ、ひな。今でも十分大学で頑張っているんだろう? 出来ることからやればいいんじゃないか?」

「うん……じゃあ2階でもっと話しよ?」

やっぱり早めの2階行きである。



 2階のソファで日向が言う。

「いいなぁ……」

「どうした?」

「僕にとっては普通のことだと思ってた。ちゃんと怜さんと付き合っているって思ってた。なのに何でだろう……やっぱり気になっちゃうんだ」

「何が気になる?」

「怜さんと亜里沙や景子さんが喋ってるところを見ると……楽しそうに見えてしまって……だってこの世の中、ほとんどが男女の恋人同士なんだもの。怜さんは僕と一緒にいるより、亜里沙達の方が……お似合いなんじゃないかって……」


「ひな……」

「僕は……自信がないんだ。怜さんのことが好きなのに……ああいう風に怜さんが景子さんと楽しそうに話していたんだって思うと……これで良いのかわからなくなってしまって」

 日向が半泣きになりながら怜を見ている。怜が日向の肩を優しく抱き寄せた。


「分かるさ……俺だって……お前の周りにはあの子達のような、女子大生がたくさんいるだろう? 自分なんかよりも……って思うことはあるさ」

「そうなの?」

「仕事だから、ああいう風に客の相談に乗っているし、普通に話が盛り上がって楽しいことだってあるが……本当の俺は……」


 話を聞こうとしている日向に向かい、怜がキスで日向の唇を塞ぐ。

「……んっ……(怜さん?)」

「さっきからもお前のことしか……考えられなかったさ」

 日向が涙を流している。

「僕達……このままでいいんだよね?」

「俺はそう思う。ひなはどうしたい?」


 答えるよりも先に、日向が怜の首に手を回してすぐさまキスをした。

「こうしていたいに決まってるよ……怜さん」

 今後も生活していく中で色々と気になる事が出て来るかもしれないが、2人の気持ちは同じ。一緒にいたい、お互いを強く求め合っている……そんな2人であった。



「景子、行って来たんだ。怜さんのバー」

 亜里沙が景子と電話していた。

「亜里沙の言うとおり、怜さんって何でも知っているかのよう……素敵だわ」

「景子、怜さんを狙ってるの? 駄目よ。日向がいるんだから」

「知ってる? 手取り早く良い男を捕まえる方法……それは、誰かから奪うことよ」


「ちょっと景子! 何言ってるのよ……けっこう酔ってるわね?」

「はぁーちょっと怜さんいいかもって思っちゃった♪」

「日向を泣かせたら許さないわよ?」

「分かってるわよ! ……今のところはね」

「ああ……これだから景子は……心配だわ」

 まぁ、あの日向と怜さんだから……景子がいたところで何ともなさそうではあるけれど。そう思う亜里沙である。

「明日も早いんでしょう? そんなんじゃ二日酔いになるわよ、無理しないでね」

 そう言って亜里沙は電話を切った。

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