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第21話 クリスマスと色々

 亜里沙には別の急展開が待っていた。

「俺と……付き合ってくれませんか?」

 いつも亜里沙を気にかけてくれるサークルの先輩から告白されたのだった。

「就職先が決まったら、真っ先に君に伝えようと思ってた」

 何ということ……ずっと一緒にいたけれど日向ばかり見ていたため、亜里沙は先輩のことを意識したことなんてなかったのだ。


「あの……少し心の整理ができていなくて」

「そうだよね、ごめん。待ってるから」


 翌日、亜里沙がボーッとしているとそこに日向がやって来た。

「亜里沙、次の試験はここまでが範囲だっけ?」

「……」

「亜里沙?」

「あっ 日向……」

「どうしたの?」

「……えーと……何だっけ」

「次の試験の話」

「あぁそれは確か……」


 自分で心の整理と言っておきながら、何をどう整理したら良いのかわからない……何も考えられない……どうしよ……

「ねぇ日向」

「ん?」

「日向は怜さんから告白されたの?」

 亜里沙自身も、何故日向にこんなことを聞いたのか分からなかったが、気づいたら勝手に口がそう言っていた。そしてその数秒後に、自分で言ったことが恥ずかしくなってきた。

「あ……ごめん日向。いきなりこんなこと聞いて」


 日向が真っ赤になって俯く。亜里沙が思った通りの反応だ。

「えーと……気づいたら……怜さんが……」

 怜に「抱き締めていいか?」と聞かれたことを思い出したが、急に身体中が温かくなってきてうまく喋ることが出来ない。

「日向ったら……怜さんに愛されてるのね。あたしも本当に愛されるのかな……」

「亜里沙だったら大丈夫だよ、だって……こんな僕にでも優しく話しかけてくれたでしょ? 僕は人と話すのがそこまで得意じゃないから……亜里沙が話しに来てくれて嬉しかった」

「日向……ありがとう。日向に言われたらちょっと自信出てきたわ」



「良かったじゃないの亜里沙」と景子が電話で話す。

「うん……急すぎて心が追いついていない」

「日向くんばかり見ていた上に、尾行していたからね」

「尾行しろって言ったの景子じゃないの」

「そんなこともあったわね……まぁ正直に言いなさいよ。先輩のこと嫌いではないんでしょう? 友達から、とかゆっくりお付き合いさせてください、とかでいいんじゃない?」


「そうね……」

「聞いてる限り良い人そうね、あまり待たせると他の子に取られるかもしれないわよ」

「……景子みたいな人に?」

「ちょっと! 失礼ね。まぁ亜里沙の彼氏は取らないから」

「うん、それが普通よ」

「素敵じゃない、クリスマス前よ? クリスマス、お正月、バレンタインとイベント盛り沢山ね♡」

「ハハハ……」


 結局お友達から少しずつ、といった形で先輩からの告白を受け入れることにした亜里沙。

「一歩踏み出せたのかな……」亜里沙は少し緊張しながら、初めてのデートの服を選んでいた。



 12月に入り、辺りはクリスマス一色といった雰囲気である。「クリスマス限定カクテルあり」とのことで日向と亜里沙、景子は怜のバーへ向かった。カウンターに3人が座ると、後から亜里沙の先輩が来てくれて、亜里沙の隣に座る。

「あ! 先輩……こんばんは」と日向。

「日向くんもここ知ってるんだ、俺は今日初めてで」


 亜里沙と仲良さそうに話す先輩。すぐに怜は2人の関係に気づいた。

「こちらがクリスマスメニューだ」と怜がメニューを見せてくれる。

「あら、ホットワインもあるの? 飲んでみたいわ」と景子。

「サンタの赤ね、こっちのメープル風味のものはトナカイね」と亜里沙。

 日向はメニューを見て気づく。可愛いクリスマスツリーの飾りのついた抹茶オレがある。自分が抹茶を好きなの知っててこのメニューを用意してくれたのだろうか。怜の顔を見ると彼が頷いている。


 ウェイターが話す。

「このツリー付きの抹茶オレは今年からになる新メニューです」

 日向は嬉しくなって、その抹茶オレを注文した。



「来てくれて嬉しいよ、どうぞごゆっくり」と怜は亜里沙の先輩に声をかけた。

「こんな場所に隠れ家的なバーがあるなんて、知らなかったよ亜里沙。ありがとう」

 亜里沙が嬉しそうにしている。

「今度は2人で来たいな」と先輩が言い、

「是非」と亜里沙が応える。

「亜里沙を泣かせたら先輩とはいえ許さないわよ、お幸せに♪」と景子。


 日向はその会話を聞いてようやく気付いたようで、

「え? 亜里沙と先輩付き合ってるの?」と言った。

 ああ……この鈍感なところ、可愛い……と怜が思う。

「まだ付き合ったばかりだけどね」と亜里沙。

「そうなんだぁ……」日向も嬉しそうにしている。


 そしてツリーの飾りのついた抹茶オレを飲んだ日向。

「怜さん、美味しい! 今までの抹茶の中で一番美味しい♪」

「え、日向くん……うちのサークルで結構いい場所でのお茶会もあったけど……それかなり美味しいの?」と先輩が尋ねる。

「あ……これはその……」日向が恥ずかしそうにしている。

「日向くんは怜さんが作った飲み物だったら何でも美味しいのよね♪ ここはもともと日向くんの行きつけだったのよ。日向くんが私と亜里沙を連れて来てくれたんです」と景子がフォローする。


「そうなんだ、亜里沙と日向くん大体一緒にいるから……最初は2人がそういう仲なのかと思ってたんだよ」

「それは違いますよ、日向くんも恋人いるもんね? 一緒に住んでるんだっけ? フフ……」と景子がニヤっと笑う。

「ええ? 何で一緒に住んでるって知ってるの? あ……そっか亜里沙に言ったんだった」ノンアルコールなのに日向の頬はやっぱり赤く染まっていく。

 景子ありがとう、と亜里沙は目で合図を送った。日向と何もないとはいえ、彼が気になるので一緒にいましたなんて、先輩に言ったらいけない。



 ひな……さっきから……可愛い……可愛い……美味しそうに抹茶オレを飲む所も、慌てて真っ赤になる所も全部可愛い……と怜は思いながら(そしてニヤニヤするのを必死で抑えながら)、おつまみやスイーツの準備をしている。

 もう一緒に住んでいることまで知られているという事は……もしかしてここに座っている全員、俺達のこと知っているのか?


 そう思った怜は自分まで顔が赤くなりそうであったが、深呼吸して接客を続けた。そして、日向がじっとこちらを見てくる。早く自分とマンションに帰りたそうな顔だ。甘えん坊な彼を愛おしく思う。


 バーでの話も弾み、亜里沙と先輩、そして景子が先に帰って行った。

「ひな……これ」

 そう言って怜が出したのはクリスマスケーキだった。

「えっ……すごい。可愛いケーキだね」

 ショートケーキの上にお菓子のサンタが飾られている。

「クリスマスのサービスだ」

「ありがとう怜さん! ねぇ一緒に食べる?」

「ん?」

「これ、どう見ても2人用だよね。怜さん」

「フフ……ひなが食べ切れないなら一緒に」


 客もほぼいないため怜は日向の隣に座って、一緒にケーキを食べた。

「そういえばクリスマスの思い出って何もないや。今日が初めてかな? 怜さんと一緒に怜さんのケーキ食べて……」

「俺もそこまでないな」

「ありがとう、怜さんのおかげ」

「こちらこそありがとな、ひな」


「それでさぁ……いつ帰るの?」

 日向にそう言われ、おい急に子どもらしくなるなと思う怜である。可愛いが。

「そうだな……」

 気づいたら客がいない。そして遅い時間になってきた。

「今日は閉めるか」

 怜はそう言って片付けをしに行った。


 自宅に到着した日向はすでに眠そうであった。

「遅くまで付き合わせてしまったな」

「大丈夫……怜さんと一緒なら……けど眠い」

「そうか」と言いながら怜は日向の頬にキスをした。

「うわぁっ」と日向が声をあげる。

「驚きすぎだ」と怜。

「だって……あ、目が覚めちゃった」

 まるでお目覚めのキスのようである。


「じゃあどうする? ひな」

「こうする……!」

 日向は怜にぴょんと抱きついた。

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