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第34話 バレンタイン、そして……

「おい、ひな……こんなに人が多いのか」

 怜と日向が初めて来た場所。

「すごいね……だけど今日は怜さんと一緒に回りたくて……」


 百貨店のバレンタインイベントは多くの女性であふれかえっている。

「で、君達も来てくれたのか……」

「だって日向くんが『男2人だと入りづらい』って言うから! 私達も来たのよ♡ 」と景子。

「あたしもこういう所は久々だわ」と亜里沙。


 そういうことで、日向、怜、亜里沙、景子の4人でバレンタイン催事場へ入って行った。

「カップルで来ている人も多いし……私、怜さんと一緒に行こうかな♪」と景子。

「ちょっと……怜さん取らないでよー」と日向。

「あら、男2人だと行きづらいって言ったのは日向くんでしょう?」

「そうは言ったけど……怜さんの隣は僕の場所だから」

「フフ……分かってるわよ」


 そして世界的に有名なチョコレートカフェに人がズラリと並んでいた。

「怜さん、僕……ここで美味しいチョコ食べたいな」

「人気なのか?」

「すっごく有名でこの時期しか来ないのよ、しかもカフェ併設は今回初」と景子。

「いいわねぇ……あたしも食べてみたい」と亜里沙。

 3人が一斉に怜の方をじっと見た。

「大学生の私達のバイト代じゃなかなか行けないのよね、怜さん♪」と景子。

「それに日向が食べたいって言ってるし……」と亜里沙。


「おい、君達……もしかしてこのカフェに行きたかったのか?」と怜。

 3人がニコニコと笑っている。

「まったく……仕方ないな」

 4人でカフェに並んでチョコレートのプレートを注文した。高級チョコレートらしく繊細なデコレーション。見るだけで楽しめる。

「記念に撮影しておかなきゃね♪」景子と亜里沙が写真を撮っている。

 伝票を見て怜がため息をついていた。

 今回はやられたな……だが、ひなが喜んでくれるならそれでいいか。


「うわ……怜さんこれすごく美味しい」と日向。

「こんなの初めてだわ」と亜里沙。

「しっかり味わって食べないと」と景子。

 怜も一口食べてみた。

 美味しい……甘くて少しほろ苦くて濃厚である。確かにあの値段の価値はあるなと思った。

「ありがとう! 怜さん」と日向が笑う。

 日向を見て怜も笑顔になった。


「怜さんありがとうございます! じゃ、私達はこれで」と景子。

「ご馳走様でした、怜さん」と亜里沙。

「2人ともチョコ買わないの?」と日向が尋ねる。

「あとは怜さんとゆっくりしなさいよ」と景子。


 そして亜里沙と景子が帰って行った。

「あの2人……カフェ目当てだったのか」と怜。

「あ、最初に行きたいって言い出したの景子さんで……流れでそうなっちゃった。怜さんも僕も甘いもの好きだしいいかなって思って……」

「そうか……まぁ構わない。美味しかったしな」



※※※



 日向と怜はイベント会場を出て2人で久々の昼間のデートを楽しんだ。

「怜さんはバレンタインでチョコレートもらったことある?」

「うーん……そんなにないな」

「僕も何個かもらったことはあるけど……今回は、怜さんにあげたらいいの?」

「さっきのチョコレートカフェで十分だけどな。俺が払ったけど。その辺は自由でいいんじゃないか?」

「そうだね」


 こういう時に女性から男性へチョコレートを渡す風習というものが、どうにかならないのかと思う2人であった。友チョコや自分チョコもあるとはいうものの……まだ世間では女性からの本命チョコの話が一番盛り上がるものだ。そしてその後のホワイトデーは何となく影が薄いような気もする。


「好きな時に好きなおやつ買って……怜さんと一緒に食べたらいいよね?」

「そうだな」

「良かった……」

「どうした? ひな」

「一緒に美味しいものを食べてくれる人がいて、良かったなと思って」

 日向が怜と腕を組んだ。

「いつもこの時期は1人だったから……」

「俺だってそうだった。ひなが来るまでは」


 日向は怜がいてくれて良かったと改めて感じる。寒さのせいなのか、1人でいるのと誰かが隣にいるのとでは……全然違う。

 外は寒いのに不思議と温かさを感じる。この季節はずっとこうして怜に密着できることが幸せだった。



 その後はランチに行き、買い物をしながら過ごしていたらあっという間に怜がバーへ行く時間が近づいてきた。

「怜さん……今日は僕も今から一緒に行ってもいい?」

「いいよ、おいで」


 開店前のバーも静かで好きなんだよな……そして少しでも怜さんと2人っきりになれたら……そう考えるだけで日向は顔が赤くなってくる。

 怜と腕をぎゅっと組んでバーへ向かった。



 バーで準備する怜を見ながら日向が嬉しそうにしている。

「ご機嫌だな、ひな。疲れていないか?」

「大丈夫。怜さんを見ているのが好きだもの」

「おい……」

「怜さん……2階行きたい」

「え? まぁ……まだ時間あるか」

 こういう時のひなは……甘えん坊モードに入っているなと怜が思う。


 2階のギャラリーのソファに座って日向が甘えている。

「どうしちゃったんだろう……今日は怜さんとずっと離れたくなくて」

 そう言われ、今日はもう日向と家に帰ってしまおうかと一瞬思った怜である。

「何か不安か?」

「わからないんだけど……そんな気分……」

 日向は怜の腕をつかんで自分からキスをした。

「今年の目標、順調に達成できているかな」

「ひな……可愛い」


 2人でそのまま抱き合いながら口付けを交わしていると、ドアの開く音がした。まだウェイターも来ない時間である。「closed」のドアプレートもかけてあるはずだ。怜も日向もお互いに夢中で気づいていない。



 女性が1人、店の中を歩いてくる。先日も来た妖艶な雰囲気を纏った人。ヒールの音を鳴らしながらカウンターに来た。

「ここで怜くんが……とっても似合ってた……まだ……来ていないのかしら」


 1階を一通り見てから、2階に上がって行く。

 誰かが階段を登って来る音が聞こえた怜と日向。

「……こんな時間に誰だ」

「怜さん……?」


 女性が2階に来る。

「お洒落なところ……」と言いながらギャラリーの絵を眺める。ふとソファを見るとそこに怜と日向が座っているのを見つけた。


 普通に座ってはいるものの……妙に2人の距離が近い。女性はクスっと笑った。

 そして怜は女性を見て表情が固まった。

「な……奈津江……?」

「怜くん……来ちゃった」


 日向が奈津江と言う名前を聞いてハッとなる。怜さんの……元奥さん。そして翔くんの母親でもある人……

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