怜が日向の待つ家に帰って来た。
「怜さん……おかえりなさい」と日向が玄関まで迎えに来てくれる。
「ただいま、ひな」
そう言った怜はすぐに日向を抱き締めた。
「怜さん……?」
「大丈夫か……ひな」
「うん……」
「そうか……いきなりあんなことになって驚かせてしまったな」
ソファに2人が並んで座る。
「僕には本当の家族っていう思い出がなくて……もしかしたら怜さん達3人で暮らした方がいいのかなって思っちゃったんだ」
「奈津江のあの言い方は……そう聞こえてしまうかもな」
「だけど、翔くんが言ってくれた。『今さら3人で暮らすつもりはない』って。怜さんは……どう……思っているの?」
日向がおそるおそる聞いてくる。
「決まってるだろ。俺だって奈津江とはもう暮らさないさ。もう終わったことだ」
「怜さん……本当? 良かった、良かったよ……」日向が涙を浮かべている。
「僕はわからなかったんだよ……自分は母さんの再婚相手に怯えながら育った。だから血の繋がりのある父親の方がいいんじゃないかって、翔くんには怜さんの方がいいんじゃないかって考えていたんだ。翔くんのお母さんもそう言っていたし……」
「色々な家庭、家族の形があるんだよ。血の繋がりがあっても……苦労している人達だっている。俺は……これからもずっとひなと一緒にいたい」
「怜さん……怜さん……うぅ……」
「ひなの気持ちも聞きたいな……」
怜の顔が近づいて来た。
「僕も……怜さんと一緒にいたい……怜さんが一番好き……」
日向はそう言って怜の首に手を回してキスをする。怜は日向を抱いて離さない。
「俺もひなが……一番好きだ」
「あ……怜さん……さっき玄関では大丈夫かって聞かれて、うんって言ったけど……本当は大丈夫じゃないからさ……」
「そうなのか?」
「今日はいっぱい甘えさせて……お願い」
すでにトロンとした目をしている日向を見て、怜は唇を重ね何度も、何度も……時間を忘れ、ただただ愛し合った。
※※※
「おはよう、ひな」
「怜さん……あと5分……」
いつものやり取りである。明らかに寝不足の2人であったが、何とか怜が起きようとしたらやはり日向が怜の腕をつかむ。
「僕……まだ……大丈夫じゃないかも……怜さん……怜さん……」
「ひな……さらに甘えん坊になってるではないか」
それでも嬉しい。日向が可愛くてたまらない怜は結局布団に入るのだった。
「ひな……いつまでそうしてる」
日向が台所にいる怜にピッタリくっついている。
「僕、まだ大丈夫じゃないから……」
「へぇ……いつになったら大丈夫になるんだ?」
「わからない」
「おい……」
結局ふらふらになりながら大学へ行った日向。案の定、講義中に眠っている。
「日向! 講義終わったわよ!」と亜里沙に起こされた。
「あ……寝ちゃった……」
「ちょっと疲れてる? あのバレンタインイベントの後、どこか行ってたの?」
怜と一緒にバーに行って、奈津江と会って、翔に慰めてもらって、家に帰って怜にたっぷり甘えていました、朝まで。なんて言えるわけがない。
「ハハ……ちょっと外出時間長くて疲れちゃったかも……」
「そう……元気ならいいんだけど」
そして眠いのに怜のバーへ行く日向である。
「さっき寝たから行けそう♪」
「あら日向くん講義中に寝てたの? 分かるわ、眠いわよね」と景子。
日向、亜里沙、景子の3人がいつものようにカウンター席に座っている。
怜も何となく眠そうに見えたので景子が言う。
「怜さん、日向くん無理させちゃダメですよ♪ 2人で好きなだけ夜更かししてたんでしょう?」
「違うよ景子さん! 僕が色々と大丈夫じゃなかったから怜さんがね……」
「ひな、それ以上言うな」と怜。
「日向、色々あったんだ」と亜里沙。
「それで……今は大丈夫なの?」と景子。
「今は大丈夫。家に帰ったら大丈夫じゃなくなる」
「おい……ひな……」怜の顔が少し赤い。
「まぁ、私達が心配することじゃなさそうね……フフ」と景子が笑った。