目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第36話 大丈夫じゃないから……

 怜が日向の待つ家に帰って来た。

「怜さん……おかえりなさい」と日向が玄関まで迎えに来てくれる。

「ただいま、ひな」

 そう言った怜はすぐに日向を抱き締めた。

「怜さん……?」

「大丈夫か……ひな」

「うん……」

「そうか……いきなりあんなことになって驚かせてしまったな」


 ソファに2人が並んで座る。

「僕には本当の家族っていう思い出がなくて……もしかしたら怜さん達3人で暮らした方がいいのかなって思っちゃったんだ」

「奈津江のあの言い方は……そう聞こえてしまうかもな」

「だけど、翔くんが言ってくれた。『今さら3人で暮らすつもりはない』って。怜さんは……どう……思っているの?」

 日向がおそるおそる聞いてくる。


「決まってるだろ。俺だって奈津江とはもう暮らさないさ。もう終わったことだ」

「怜さん……本当? 良かった、良かったよ……」日向が涙を浮かべている。

「僕はわからなかったんだよ……自分は母さんの再婚相手に怯えながら育った。だから血の繋がりのある父親の方がいいんじゃないかって、翔くんには怜さんの方がいいんじゃないかって考えていたんだ。翔くんのお母さんもそう言っていたし……」

「色々な家庭、家族の形があるんだよ。血の繋がりがあっても……苦労している人達だっている。俺は……これからもずっとひなと一緒にいたい」


「怜さん……怜さん……うぅ……」

「ひなの気持ちも聞きたいな……」

 怜の顔が近づいて来た。

「僕も……怜さんと一緒にいたい……怜さんが一番好き……」

 日向はそう言って怜の首に手を回してキスをする。怜は日向を抱いて離さない。

「俺もひなが……一番好きだ」


「あ……怜さん……さっき玄関では大丈夫かって聞かれて、うんって言ったけど……本当は大丈夫じゃないからさ……」

「そうなのか?」

「今日はいっぱい甘えさせて……お願い」

 すでにトロンとした目をしている日向を見て、怜は唇を重ね何度も、何度も……時間を忘れ、ただただ愛し合った。



※※※



「おはよう、ひな」

「怜さん……あと5分……」

 いつものやり取りである。明らかに寝不足の2人であったが、何とか怜が起きようとしたらやはり日向が怜の腕をつかむ。

「僕……まだ……大丈夫じゃないかも……怜さん……怜さん……」

「ひな……さらに甘えん坊になってるではないか」

 それでも嬉しい。日向が可愛くてたまらない怜は結局布団に入るのだった。


「ひな……いつまでそうしてる」

 日向が台所にいる怜にピッタリくっついている。

「僕、まだ大丈夫じゃないから……」

「へぇ……いつになったら大丈夫になるんだ?」

「わからない」

「おい……」



 結局ふらふらになりながら大学へ行った日向。案の定、講義中に眠っている。

「日向! 講義終わったわよ!」と亜里沙に起こされた。

「あ……寝ちゃった……」

「ちょっと疲れてる? あのバレンタインイベントの後、どこか行ってたの?」


 怜と一緒にバーに行って、奈津江と会って、翔に慰めてもらって、家に帰って怜にたっぷり甘えていました、朝まで。なんて言えるわけがない。


「ハハ……ちょっと外出時間長くて疲れちゃったかも……」

「そう……元気ならいいんだけど」

 そして眠いのに怜のバーへ行く日向である。

「さっき寝たから行けそう♪」

「あら日向くん講義中に寝てたの? 分かるわ、眠いわよね」と景子。


 日向、亜里沙、景子の3人がいつものようにカウンター席に座っている。

 怜も何となく眠そうに見えたので景子が言う。

「怜さん、日向くん無理させちゃダメですよ♪ 2人で好きなだけ夜更かししてたんでしょう?」

「違うよ景子さん! 僕が色々と大丈夫じゃなかったから怜さんがね……」

「ひな、それ以上言うな」と怜。

「日向、色々あったんだ」と亜里沙。

「それで……今は大丈夫なの?」と景子。

「今は大丈夫。家に帰ったら大丈夫じゃなくなる」

「おい……ひな……」怜の顔が少し赤い。

「まぁ、私達が心配することじゃなさそうね……フフ」と景子が笑った。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?