ある日。
「翔くん……付き合ってください」
「……ああ」
クラスで一番可愛い子らしいから、いいか。
「翔くん、一緒に帰ろ♪」
「……ああ」
行き帰り一緒かぁ……何喋ろうかな。まぁ向こうの話を聞いておけばいいか。
あとは僕の言うことを何でも聞いてくれるから……
別の日。
「翔、あたしなら翔にそんな顔させないわよ、付き合って」
「……ああ」
何か楽しそうな子だしいいか。
「あたしだって辛いことあるんだからっ……翔に頼りたい時だってあるの……」
え、急にそう言われても……まぁいいか。優しくしておけば機嫌良くなるだろう……
また別の日。
「お前……うちの妹を散々弄んでくれたな?」
え……誰ですか?
「お前のせいで……僕の彼女が……」
え……あの子と付き合ってたんですか?
はぁ……
「翔!」
「拓海か……」
「どうしたんだよ、また彼女を泣かせたのか?」
「仕方ないだろう? 向こうから来るから付き合ったのに……何故か続かないんだよ。ま、可愛い子と付き合えればとりあえずいいかなって」
「相変わらずだな、人間関係に疲れないか?」
「……慣れた」
「ハハ……翔らしいや。自分のペースに持っていくの、うまいよな」
「お前はいつも楽しそうだな」
「ん? 翔は人気があって……楽しくないのか?」
「どうかな……自分の気持ちって何なんだろう。女の子はみんな可愛いから付き合ってるけどさ。数ヶ月経てば飽きてくるものだろう、お互い」
「おっと……俺のことは飽きないでくれよ?」
「何言ってんだよ……お前がいないと話し相手いないし」
「翔は……俺の前では正直だな」
「まぁ……拓海になら何話してもいいような気がするんだよな」
「俺も翔の話は聞いてて飽きないよ。そうだ、そういう女の子を探せばいいんじゃないか?」
「ハハハ……誰かいないかな」
※※※
夢か……
翔がベッドから身体を起こす。最近よく見る夢。自分が好き勝手していてもいつも話を聞いて、明るく笑い飛ばしてくれた拓海の夢。そして、ひなくんを好きになった時も拓海は「おい何してんだよ」とか言いながらも、一緒にいてくれた。
親友がいて良かった……と思う今日この頃である。
※※※
今日は初めてのゼミの授業。文献を読んで発表といった流れだろうか。いつも通り拓海が隣にいる。さらに専門分野を学ぶということで、皆が熱心そうに見えたが……
授業が終わるととりあえずといった感じで連絡先交換が始まった。
「翔くん」「翔くん」と女子達に話しかけられながら、流れに任せてどうにか話をしつつ、拓海と教室を出た。
……ホッとした。教室から出ただけなのに。
ひなくんのことを好きになって、父さんとひなくんのことを見守ろうと決めた時からだろうか。女の子が自分に本気にならないように、無難にスルーしているつもり。
父さんも言ってたな……いつか大事にしたい人が現れるって……
「おい翔? 疲れてる? 相変わらず人気あるな、羨ましいよ」と拓海に言われる。
「ゼミって距離近いよな……あんまり女の子に近づかれるとまた泣かせてしまうかも」
「翔、決めたんだろう? ちゃんと相手と向き合うって。女の子に何か言われたらその時は優し〜く振ってあげるんじゃなかった?」
「そうは決めたけど、なるべくなら何もないまま過ごしたいからね。平和に」
「そっか、贅沢な悩みだこと」
「あーこういう時は……」
「こういう時は?」
「……ひなくんに会いに行くか!」
「結局そうなるのか……」
バーに行くと日向が待っていた。
「やぁひなくん。今日も可愛いね」
これを言わないと何となく元気が出ない。
「翔くん、ゼミどうだった?」と日向。
「まだ始まったばかりだから何とも言えないけど、ひなくんより可愛い子がいなくてね」
「あのさぁ、翔くん。誰かを基準にするとなかなか出逢えないと思うよ? 何にも考えずに頭の中に思い浮かぶ人とかいないの?」と日向に言われる。
「あとは……ゼミは出逢いを求めるところじゃないぞ、まずちゃんと授業を受けるんだ」と怜にも言われる。
「ハハ……だよな。拓海と一緒に頑張りまーす」
何にも考えずに頭の中に思い浮かぶ人か……と拓海が思う。
俺が思い浮かぶのは……翔しかいない。初めて会った時に強く惹かれたことは今でも覚えている。軽そうには見えるけど俺には何でも話してくれるのが嬉しくて……気づいたら親友ということになっている。親友ならこのままずっと一緒にいることができるのかな、なんて。
「そういう日向くんの頭の中に思い浮かぶ人は……怜さんか?」と拓海が言う。
日向がぱぁぁっと笑顔になる。わかりやすい……可愛い……と怜がニンマリするのを抑えながらカクテルを作っている。
「僕は6年ぐらい前から……怜さんのことを考えてたんだ……それで、今も考えているんだ。ね、怜さん」
「今も考えているって……見たら分かるから」と怜が言う。
「怜さんの思い浮かべる人は?」
明らかに自分だと言って欲しそうな日向である。可愛いので、
「ひなに決まってんだろ」と言ってあげる。
そう言ってくれるとわかってはいたものの、実際に言われて顔を赤くする日向である。ああ照れた姿も可愛い……と思いながら、
「どうぞ」とカクテルを提供する怜である。
「じゃあ、拓海くんは誰を思い浮かべるの?」と日向が尋ねる。
「それは……翔だよ」
「親友だもんね、翔くんは誰か思い浮かぶ人いる?」と日向が翔に聞く。
またひなくんと言うんだろうな、と思う拓海。
ひなって言ったら何て言ってやろうか、と考える怜。
しばらく考えていた翔であったが、こう答えた。
「……あ、拓海かも」
「え?」 拓海が驚いて声をあげた。
「最近よく夢に出てくるよ、拓海がね」
翔にそう言われて、拓海は何と言っていいのか分からず、頬が徐々に染まっていくのを感じた。
「いいね、親友同士で♪」と日向が言うが、怜は以前からこの2人は親友以上になりそう、と思っていたのでフフッと笑っていた。
「拓海がいなかったら……僕は本当に1人になってしまいそうだからさ」
「翔……俺ぐらいだぞ。お前の話聞いてやれるの」
「だな、ありがとう。拓海」
翔が笑顔になるので拓海はまた顔が熱くなってきた。俺は相変わらず翔の笑顔には弱いな……
このまま親友でいたいような、もう少し深い関係になりたいような……ん? 今……俺……深い関係って……何考えていた? え? 何だこの気持ちは……
翔の方を見る。見れば見るほどドキドキしてくる。
いや、気のせい……気のせいだから……
ふぅと息を吐いて拓海はカクテルを飲んだ。